日本酒の「キレ」ってなんだ?

みなさん、日本酒、家飲みしてますか?
日本酒好きがよく口にする日本酒の褒め言葉のひとつに「キレ」という表現があります。「あとくちのキレがいいねえ」「このすっとキレる感じが…」のように、特に淡麗辛口と呼ばれるタイプの日本酒に対しては、無類の褒め言葉です。しかし、このキレ、ニュアンスはなんとなくわかるような気がするものの、考えれば考えるほどよく分からなくなる言葉です。淡泊っていうこと? 辛口っていうこと? ドライ? いったい、日本酒のキレってなんでしょう。包丁じゃあるまいし、日本酒の、いったい何が「キレ」るというのでしょうか。

蔵元&蔵人の「キレ」談義

「キレ」の謎を解明すべく、我々取材班は、新潟上越市の日本酒蔵元、頚城酒造の飲み会に潜入。蔵元の八木さんと、蔵人、岸田さんの「キレ」談義を拝聴することにしました。頚城酒造は、キレの良い酒造りが信条の新潟県のお蔵で、淡麗できれいな味わいの、それこそ「キレる」お酒を作り続けています。
では、まずこの動画でキレの正体をお確かめください。上品な旨味と歯ごたえが自慢の地元産のヒラメの刺身に、名水で仕込んだ繊細な純米酒、和希水を合わせて、キレの世界を語ります。
このお話を聞いていると、日本酒の「キレ」とは、どうやら食事との関係で生まれるようです。そして、キレがよくなるためにはそのお酒の「旨味」の質が重要だということが分かりました。
さらに、キレとは、辛口、甘口、といった「味わいの傾向」とはまた違った尺度で生まれるもの。甘口でキレの良い酒もあるし、辛口でもキレの悪い酒もあるというわけなんですね。
さて、動画の中で、八木さんが説明していた「キレ」という現象を、整理してみましょう。

1)まずヒラメを食べる
まずは、ヒラメのお刺身を口に入れる。噛むほどに、口の中にヒラメの「旨味」が広がります。

2)ヒラメを飲み込む
ヒラメの歯ごたえと旨味を堪能したら、ヒラメを飲み込みます。しかし、飲み込んだ後でもその旨味は、まだ依然として口の中を支配しています。

3)お酒を口に含む
そこに、お酒を含みます。すると、お酒の味わいや旨味と、口の中に残ったヒラメの味や旨味が混じり合い「マッチング!」します。まさに、お酒の味わいとヒラメの味わいが融合した状態、その相乗効果で口の中は「旨さ」でいっぱいになります。

4)お酒を飲み込む
口の中のお酒、さらに言えば「お酒とヒラメの旨味の融合体」を飲み込みます。

5)そして「キレ」が起こる
飲み込んだあとの口の中には、もう、ヒラメもお酒もいません。さっぱりときれいに洗い流された状態。これが「日本酒のキレた」状態…なのです。

酒と肴のバランスの妙

では、次のケーススタディ。今度は、揚げものと日本酒を合わせ、また別のニュアンスのキレを語ってもらいました。魚(メギス)のフライに、しっかりした旨味が特徴の、越路乃紅梅純米吟醸を合わせます。
フライに日本酒、ちょっと意外な取り合わせですね。
ここでのキーワードは「負けない」です。揚げものの脂の強さに充分対抗できる「しっかりした」旨味をもつ酒を合わせることで、「キレ」を体験することができるのです。
前述の3)の段階で、口の中のフライの旨味や強い脂と、口に含んだ酒の「しっかり感」がぴったりマッチすることが重要なのです。ここで、淡麗で繊細なお酒を選んでしまうと、フライの脂に負けてしまいます。つまり、食べ物のキャラクターにぴったりあった味わいの酒を選ぶことで、日本酒の最高の美点のひとつ、極上の「キレ」を楽しむことができるのです。

もう一口食べたくなる、飲みたくなる

では、頚城酒造のお二人が考える、理想の「キレ」とは?
いかがでしたか?どうやら「キレ」とは、料理→お酒→料理→お酒…という循環をくるくる回すエンジン?のようなもののようです。
「後を引いて止まらない」状態をつくりだす、日本酒独特の「美味しさの特徴」です。食事をもっとおいしくするために、食事と共にあるのが日本酒。料理とお酒の間をつなぐ架け橋がこの「キレ」なのかもしれません。
キレを意識してお酒を飲んでみると、日本酒がまたひとつ、楽しくなりますよ。え、ますます分かんなくなった? ならば、頚城酒造のキレの良いお酒を一杯、旨い肴と味わってみてはいかがでしょう。
頚城酒造について詳しく知りたい方は、銘酒蔵元探訪記[1]頚城酒造の回をご覧ください!

※記事の情報は2017年6月1日時点のものです。
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