秋にはやっぱりイタリアの新酒”ノヴェッロ”

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、イタリアの新酒ワイン「ノヴェッロ」をご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:秋にはやっぱりイタリアの新酒”ノヴェッロ”

地方色豊かなイタリアのヌーヴォー

日本の11月は、“ボジョレー・ヌーヴォー”が世間をにぎわす。フランス・ブルゴーニュ地方のボジョレー地区で生産されるこのワインは、11月の第3木曜日が解禁日だ。その話題はテレビなどで報道され、スーパーやデパ地下、コンビニにまで、一気にそのボトルが並ぶ。まるで「ヌーヴォー・フィーバー」だ。

さて、このボジョレー産ワインが毎年「ヌーヴォー」つまり「新酒」の名をほしいままにしているが、ヌーヴォーはボジョレーだけじゃない。イタリアでも毎年この時期には「新酒」が仕上がり、現地ではボジョレーに匹敵する、いやそれ以上の「フィーバー」ぶりだ。イタリアでは、この新酒のことを「ノヴェッロ(Novello)」という。

では、ボジョレー・ヌーヴォーとイタリアのノヴェッロの違いとは。

・ボジョレー・ヌーヴォー
ボジョレー地区の「ガメイ」というブドウ品種で作られたワインのみを指す。

・ノヴェッロ
イタリア全州で毎年生産され、各生産地の土着のブドウを使用して作られる。

つまり、イタリアの「ヌーヴォー」は多種多彩なのだ。ヴェネト・ヌーヴォーもあれば、ピエモンテ・ヌーヴォーもあれば、トスカーナ・ヌーヴォーもあるというわけだ。生産地の数だけ、星の数ほどあるノヴェッロは、つい目移りしてしまう。イタリアではこの時期、各地で「ノヴェッロ祭り(Sagra)」が開催されており、車で数カ所も回ることも当たり前なのだ。そのフィーバーぶりはかなりのものだ。が、日本ではあまり知られていないのが残念だ。

ボジョレーよりも早く飲めるノヴェッロのおすすめ

そしてなんと、イタリアの新酒解禁日は、ボジョレーよりも早く、毎年10月30日なのだ。半月以上も早いのである。イタリアでは新酒フィーバーの「熱」がだいぶ冷めた後、ようやくフランスで新酒のフィーバー、なのである。だから、今年のヨーロッパのブドウの出来具合を早く知りたいワイン通は、ノヴェッロを飲んで、それからボジョレーというのが、もはや常識となっている。

だから私も先行予約して、解禁日の10月30日にノヴェッロをいただいた。私が購入した今年のノヴェッロは、この2本だ。

ドゥカーレ(Ducale) / ヴェネト産新酒
水の都ヴェネツィアが属するヴェネト州。本土の土着ブドウを使った赤ワインではヴァルポリチェッラやアマローネが有名だが、これらに使用されるブドウといえば「コルヴィーナ」、「ロンディネッラ」、「モリナーラ」。だが、この新酒はなんと「メルロー」なのだ。それも100%使用。フランスのボルドー原産の外来品種ながら、このヴェネトの土地の特質をしっかり表現しているがおもしろい。本来はブラックチェリーを彷彿させるコクのある味わいのメルローだが、新酒ではタンニンが抑えられ、軽やかなフルーティーさが前面に押し出されている。メルローの甘みを感じられたのが収穫だった。

ファルネーゼ(Farnese) / アブルッツォ産新酒
イタリア中部のアブルッツォ州の土着ブドウといえば「モンテプルチャーノ」だ。もちろんこのブドウをふんだんに使っているが、さらにこの新酒には、アブルッツォ産の「サンジョヴェーゼ」がブレンドされている。この2種の混醸なら普通にワインを作ってもいいものになるが、それを新酒で出すなんて、なんという贅沢ぶり。アブルッツォ料理専門店のソムリエにすすめられて飲んだが、モンテプルチャーノのコクが和らぎ、サンジョヴェーゼの酸味によってキレが増した感じの軽い味わいだ。

このように、イタリアのノヴェッロの場合は、各地の多彩なブドウを使用できるので、本来のブドウの特徴が、新酒になることによって一風変わったものになる、という面白さがある。もちろん、わずか2ヶ月で出荷される新酒を味わって、この後、1年、さらに数年、同じブドウで作られたワインたちがどんな味になって世に出てくるのかを占う楽しさも忘れてはならない。そんな風にノヴェッロは、この秋もイタリアの各地で、人々の食卓の話題となっているのである。


※記事の情報は2017年11月7日時点のものです。
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ボジョレー・ヌーボー
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