自然のままにワインを造る新潟県【胎内高原ワイナリー】を訪ねました。

自然派ワイナリーのブドウ栽培哲学と自慢のワインたち

地方自治体が経営するワイナリーとして注目を集める、新潟県の胎内高原ワイナリー。近年、コンテストの受賞も重なり、その評価は揺るぎないものになっています。今回は、葡萄の花が開く6月、ぶどう畑を見学させていただきながら、胎内高原の特徴あるテロワール(ワイン産地の土地の特徴)と、ワイン造りに対する思いを伺いました。

複雑な土壌と強い風

くねくね、でこぼこと続く山の農道を車でしばらく行くと、雑木がからまる山の斜面に、ぽっかりとぶどう畑が姿を現しました。これはかなりの山の中です。斜面の傾斜は最大25度ほど。畑の上から見下ろすと、ぶどう畑の向こうに胎内市が望めます。そのずっと遠くは日本海です。畑で待っていたのは、胎内高原ワイナリーで葡萄の栽培の責任者を務める佐藤彰彦さん。
胎内高原ワイナリー栽培担当の佐藤さん

まずは、気候や土壌の特徴を教えてください。

佐藤:この畑は、高坪山という山の中腹にあります。粘土層がベースなんですが、海が近いので堆積岩があったり、砂の層があったり、すごく複雑な土壌ですね。標高は250メートルぐらい、新潟県内の葡萄畑としては標高は高いほうですが、全国的にみるとそうでもないかもしれません。斜面は南西に向いていて日当たりは良いです。ここの大きな特徴としては、「だしの風」という強い風が吹くというところです。風通しが良いので、粘土質が入った土壌にもかかわらず、乾燥して、病害虫の被害が少ないんです。そのため、農薬も自然由来のものだけで充分やっていけます。

雑草に耕してもらう?

葡萄畑

ずばり、葡萄畑のコンセプトをお聞かせください。

佐藤:極力人為的なことはやらずに自然そのままで育てたいという前提を持っています。極力、化学農薬は使わず、自然由来のものを使います。肥料もつかいません。無肥料栽培です。土も、「草生(そうせい)栽培」といって、人為的に耕さず、畑を覆った雑草の根で耕す方法をとっています。雑草の根が土の中に入り込んで伸びていくことで耕され、土の中に空気が入っていきます。

葡萄畑、今は(6月下旬)一年の中でどんな季節なんですか?

佐藤:今は、ちょうど開花の季節です。あまり花らしい形はしていませんが、この一つ一つが葡萄の粒になります。
葡萄の花
なかなか見る機会のない葡萄の花。あまり花らしい形はしていませんが、この一つ一つが葡萄の粒になると思うとちょっと不思議な気持ちになります。

冬は冬眠

新潟といえば、豪雪地帯。冬は雪深い地域です。葡萄栽培には支障ないのでしょうか。

佐藤:冬になると2メートルの積雪になりますから、畑には入れなくなってしまいます。なので、12月に雪が降り始める前、11月に2万本を剪定して、枝を片付けたらその年は畑仕事はおしまいになります。そのあとは春まで畑は「冬眠」してしまいます(笑)。春になったら、まず、雪かき、そして、傾いでしまった木を起こすところから1年の葡萄づくりが始まります。
 

田んぼの中のワイナリー

胎内高原ワイナリー全景
ワイナリーがあるのは、畑とは少し離れた田園地帯。のどかな田園風景とワイナリー、ちょっと不思議な風景です。胎内市役所でワイナリーを担当されている坂上俊さんにお話をうかがいました。
胎内市のワイナリー担当 坂上さん
坂上:胎内市はいくつかの自治体が合併してできた市なのですが、このあたりは、黒川村といいまして、もともと地ビールを造ったり、特徴あるハムを製造したりしていました。その流れで、じゃあワインも、ということになったんです。葡萄畑そのものは県の事業ではじまったもので、いろいろな果物を育ててみるうち、このあたりではいい葡萄が栽培できることがわかりました。果実酒の製造免許を市が取得して、直接運営するワイナリーです。2007年に操業を開始しました。

実力派! お薦めのワインたち

胎内高原ワイナリー商品写真

最近は受賞も重なっています。

坂上:畑に葡萄を植えてから10年ぐらい経って木が熟成してきたことがポイントだと思います。特に変わったことはしていないんですが、私達の畑のポテンシャルが認められてきたんだと思います。

お薦めのワインを教えてください。

●ツヴァイゲルトレーベ
ツヴァイゲルトレーベのボトル
坂上:日本ワインコンクールで高評価を頂いたワインです。酸がしっかりしていて、果実味もふくよか、バランスも良いワインだと思います。このツヴァイゲルトレーベという品種は、新潟で栽培すると寒いということもあって、ちょっと他の地域とは違う柔らかさが出ると思います。肉料理にも合いますが、砂糖醤油で甘く煮付けた魚などの和食にも良く合います。

●ヴァン ペティアン 白・ロゼ

坂上:瓶内二次発酵のスパークリングワインです。白はシャルドネ100%。炭酸は強めで、酸がしっかりした辛口。ドライな飲み口です。酸化防止剤なども一切使っていません。年間2~3千本ぐらいしか造れないワインです。発売は毎年初夏のころ。ロゼの方は、メルローとツヴァイゲルトレーベで造っています。どちらも瓶内二次発酵でキリッとドライな飲み口です。こちらはさらに少なく、年間千本ぐらいの出荷です。両方とも、瓶内二次発酵でろ過を一切していなので澱が瓶のそこに溜まっています。

●アッサンブラージュシリーズ
坂上:アッサンブラージュシリーズは、葡萄品種をうたわずにブレンド(アッサンブラージュ)して造るワインです。赤と白があり、赤はメルローとツヴァイゲルトレーベ、白はシャルドネとソービニヨンブランで造ります。しっかり造っている人気商品で、味わいはその年その年の状況でみんなでテイスティングしながら決めています。今年の白はシャルドネが多く入っていて、辛口。香りも強く酸もスッキリした飲み口の良いワインです。赤は凝縮感が強く、ボディがしっかり、果実味、酸もしっかりしています。このアッサンブラージュシリーズは、品種名をうたわない分、この土地そのものの味わいが出ていると思います。

自治体が造るワイン

胎内高原ワイナリー看板
坂上:自治体が栽培、製造から販売まで手がけるということで、利益主義に走ることなく、コストがかかってもしっかり、真面目に造っているというのが良いところだと思います。最近では販路も新潟県内、東京、大阪、名古屋と拡大してきましたし、東京のホテルのソムリエさんなどからも高い評価を頂き、お問い合わせも増えています。まずは、畑のポテンシャルを高めることがメイン、そして今後もしっかりと品質を高めていこうと考えています。
 
斜面に広がる葡萄畑で、自然のままに育てられる葡萄たち。あたり前のことを一生懸命やっているだけ、という胎内高原ワイナリーの姿勢に、共感する日本ワインファンが増えています。最近では、メディアでの露出も増え、注目のワイナリーです。


※記事の情報は2018年8月27日時点のものです。
 
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