脱アルコール製法とは? ノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法を解説します
最近よく目にするノンアルコールビールテイスト飲料。製造方法を知っていますか? 「脱アルコール製法」によりアルコール度数0.00%を実現した「アサヒゼロ」や、スマドリの取り組みで市場を牽引するアサヒビールの岡村さんに、基礎知識からシーンの現状まで、ノンアルコールビールテイスト飲料について教えていただきました。
この方にお聞きしました
岡村 知明(おかむら ともあき)さん
アサヒビール株式会社 マーケティング本部 スマドリマーケティング部
2007年に入社後、量販店を担当する営業を経験し2008年からマーケティング部門に所属。ビール類のマーケティングリサーチ・新商品開発・ブランドマネジメントを経験した後、現部署に所属し、アサヒゼロのブランドマネージャー等を担当。
岡村 知明(おかむら ともあき)さん
アサヒビール株式会社 マーケティング本部 スマドリマーケティング部
2007年に入社後、量販店を担当する営業を経験し2008年からマーケティング部門に所属。ビール類のマーケティングリサーチ・新商品開発・ブランドマネジメントを経験した後、現部署に所属し、アサヒゼロのブランドマネージャー等を担当。
そもそも「ノンアルコール飲料」とは?
「ノンアルコール」は、「酒類の広告審査委員会」によって定義されています。この委員会は国内で酒類の広告宣伝に関する自主基準の遵守状況等を審議するもので、アサヒビールもこの基準に則っています。
定義によると「ノンアルコール」は、アルコール度数が0.00%で、味わいが酒類に類似しており、満20歳以上の者の飲用を想定・推奨している飲料を指します。
微アルコールや低アルコールには、アルコール度数に統一の定義がありません。しかし、「微アルコール」は1%未満でアルコールが微かに含まれているもので、「低アルコール」は、業界紙の定義だとアルコール度数が1%以上4%未満のものとされています。
アルコール度数ごとの種類 | アルコール度数 |
---|---|
低アルコール | 1%以上4%未満 |
微アルコール | 1%未満でアルコールが微かに含まれている |
ノンアルコール | 0.00% |
―最近よく見かける「ビールテイスト飲料」はどのような理由で拡大しているとお考えですか?
健康志向をベースに、市場は継続的に拡大していますが、一時的に大きく需要が高まったのはコロナ禍での健康への意識変化です。外出自粛期間に運動不足になったりして、健康意識が高まりましたよね。そのときに「ノンアルコール飲料」の販売数がぐっと伸びたんです。
コロナ禍後は一旦ノンアル需要拡大の伸びは落ち着きましたが、引き続き健康志向はトレンドです。2024年2月に厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されたこともあり、「ノンアルコール飲料」のニーズは高まり、「ビールテイスト飲料」の市場も拡大していくと考えています。
―「ノンアルコール飲料」は、消費者にどのようなタイミングで選ばれているのでしょうか?
普段からお酒を飲む方は、休肝日や翌日の影響が気になるタイミング、運転を控えているときなどに「ノンアルコール飲料」を選択していただいています。
体質的にお酒を飲めない方や弱い方からは、お酒を飲んでいる気分や雰囲気を楽しみたいときや、飲み会などお酒を飲む人と同じ場に参加する際に、取り入れるという声がありました。
ビールテイスト飲料の製造法は大きく分けて2種類
まず、ノンアルコールでない通常のビールは、麦芽を中心とした原料を仕込んで「麦汁」にし、ビール酵母を投入して発酵させることで、麦汁に含まれる糖分が分解されてアルコールを生成します。それを一定期間熟成し、ろ過して酵母や余分な成分を取り除いて、完成します。
ビールテイスト飲料の製造方法は、発酵をするかしないかで、大きく分けて2種類です。発酵させない方法と、発酵後アルコールを取り除く「脱アルコール製法」に分けて解説します。
ビールテイスト飲料のつくり方①|発酵させない方法
酵母を入れず未発酵の麦汁をベースに、ビールテイスト飲料をつくるのが一般的な製造方法です。
麦汁ベースですと、麦由来の香りや味わいを感じられるのですが、本来発酵によって消える、余分な甘みや雑味、不快な香りなどを感じやすい特徴があります。また、麦汁に含まれる成分だけでは十分な美味しさを表現しづらい場合もあるので、香料などで味の要素を足して全体のバランスを取ることもあります。
各商品の原材料を見ていただくと、イメージしていただけるんじゃないかと思います。
―発酵させない方法の中でも「アサヒドライゼロ」は原料に麦汁を全く使用していないそうですね。麦汁を使わずビールテイスト飲料をつくる方法もあるのですか?
「アサヒドライゼロ」では、お客様の求めるビールらしさを分析し、香りや泡、喉にくる刺激、余韻などを再現することでビールテイスト飲料をつくりました。
麦汁はどうしても独特な味や香りが出てしまうため、完成の味から逆算し麦汁以外の原料を使ってビール味を再現しました。発酵させない方法の中でも独特なアプローチで開発したので、これは特殊なつくり方です。
ビールテイスト飲料のつくり方②|脱アルコール製法
新しい製法として「脱アルコール製法」があります。一度濃厚なビールをつくり、脱アルコールをする設備を用いて、アルコールとビールテイスト飲料に沸点の差を利用して分ける方法です。脱アルコールの設備自体は一般的で世界中に存在する設備なので、「脱アルコール製法」は特別珍しいものではありません。
この製法のいいところは発酵工程を経て一度、本物のビールをつくっているので、ビールに近い味わいが実現できるところです。一般的な麦汁ベースにつくられたものとは決定的に違うところですね。
―アサヒビールで「脱アルコール製法」を採用しているビールについて教えてください。
今年の4月から全国発売を開始した「アサヒゼロ」は、脱アルコール製法を2回行う「ブリュ―ゼロ製法」によってアルコール度数0.00%を実現したビールテイスト飲料です。
脱アルコール製法を2回するといっても、味や香りの成分は残しながらアルコールは完全に取り除いて、美味しいものをつくるには、温度や圧力などの諸条件を見出すのが大変なんです。アサヒビールの持つ技術力の成せる製法です。
―脱アルコール製法を2回行うことになったきっかけを教えてください。
「アサヒゼロ」を発売する前の2021年に脱アルコールの技術を使って美味しい微アルコール飲料をつくり、アルコール度数0.5%の「アサヒビアリー」を発売しました。「アサヒビアリー」は脱アルコールの工程が1回なのですが、これを2回行えば、アルコール度数0.00%で日本特有のノンアルコール飲料の基準を実現できるんじゃないのかと仮説を立てたのがきっかけなんです。
―どちらにも共通しますが、原材料の種類が少ないですね。
一旦ビールをつくってからアルコールを抜いているので、ベースの味わいが美味しく、足していくものは少なく済むんです。
―ちなみに、脱アルコール製法で抜かれたアルコールは何かに活用されるのでしょうか?
抜いたアルコールは大麦スピリッツという扱いになります。有効に活用していますが、具体的な方法は社外秘となっております。
ビールテイスト飲料で広がる家飲みの楽しみ方
アルコール度数0.00%のビールが世の中に初めて出た頃は、スペックは達成していても味が美味しくないものが多かったのは事実です。
アルコール度数0.00%には魅力を感じても、過去に飲んだものが美味くなかったから飲まないという方がたくさんおられて、ビールテイスト飲料に不満を感じているという声が非常に多いです。本当に美味しいビールテイスト飲料のニーズは高いと思っています。
―アルコール度数5%ぐらいのものもあれば、低アルコールや、微アルコール、ノンアルコールもあり、選択肢が幅広いですよね。
飲む人、飲めない人、今日は飲まない人、カロリーを気にしている人など、誰もが自分らしい選択を、その時々や体質に合わせてできるよう、ラインナップを引き続き広げていくことが大事だと考えています。
アルコールは、過度な飲酒による健康被害や、酔っ払いの迷惑行為のような、ネガティブな部分がフォーカスされることが多いですが、コミュニケーションを活性化したり、日常生活のリフレッシュになったり、ポジティブな側面もたくさんあると思っています。
さまざまなニーズに対応することで、健康的にお酒を楽しむ選択肢を増やしたいです。
※記事の情報は2024年10月31日時点のものです。
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