ニッポンの蔵元へ行こう 【山形県・寿虎屋酒造】
全国各地の酒蔵と銘酒を訪ねる「銘酒 蔵元探訪記」、今回ご紹介するのは、山形県山形市でおよそ300年の歴史をもつ蔵元、寿虎屋株式会社です。
地元産の原料にこだわり、山形ならではの酒造りを目指す寿虎屋酒造。2017年、日本酒の分野で「GI-地理的表示 山形」の取得を推進し、山形の地酒の世界進出を主導しています。代表取締役 大沼幹雄さんにお話を伺いました。
水が支えた300年
機械と職人のハイブリッド
昭和の時代は、酒造りの季節になると、蔵人が土日もなく泊まり込んで酒造りをしていたものでした。私の父の時代の酒造りです。ですが、現在は8時間労働、当社の場合ですと朝8時から5時までの通い仕事です。そうなると、夜間の温度管理をどうするかということになるわけです。麹菌も酵母も微生物ですから、24時間動き回っているわけですね。この温度管理を機械にやってもらおうと。夕方帰るときに温度をセットして、夜間、その温度からはずれると、冷却装置に水を通したり温水を通したりして温度をコントロールします。こうすることで、きっちりと温度管理が出来て安定したお酒作りができます。機械による安定した管理の上に、杜氏の感性、感覚がともなって安定的においしいお酒ができるのです。
また、麹もしっかり温度管理をした上で衛生的な環境で造りますので、「きれいな麹」が育ち、味わいもきれいなものになります。時代が求める、すっきりした香り高いお酒を提供するためにも、機械化は必要だったんです。
GI 地理的表示山形
寿虎屋酒造を表す3つのキーワード
動画には登場していないが、寿虎屋には名物銘柄がある。それが「三百年の掟破り」だ。三百年の蔵の歴史の中で一度も流通したことのなかった禁断のお酒、蔵の中でしか飲めなかった「無濾過の原酒」を商品化したものだ。しぼりたてそのままのお酒を蔵見学の方に飲んでもらうと、とても評判がよく、なんとか出荷できないものかと試行錯誤を続けたという。無濾過の原酒は、温度が上がると発酵が進んで味が変わってしまう。これを解決したのが、宅配業者が始めたチルド配送だった。保管から配送まで、最先端の物流技術が、300年間の掟をついに破らせたのだ。
山形オリジナルの酒造好適米、出羽の里。寿虎屋でも出羽の里で醸したお酒が人気だ。GI山形一番乗りの霞城寿、そして、その弟分と蔵人が呼ぶ「虎屋の純米」。同じ酒米を使って、まったく味わいの異なる二種類のブランド展開し、山形の酒米への強いこだわりが伺える。また、米とともに重要な水は、自社井戸から湧き出る豊富な蔵王山系伏流水を使用。鉄分の極めて少ない、良質な軟水で、やさしいお酒が仕込まれている。
スタジオジブリの映画「おもひでぽろぽろ」の舞台のモデルとなったのが、寿虎屋酒造のある山形市高瀬地区。まさに蔵の建物の目前に紅花の畑が広がる。初夏になると、オレンジや朱色の紅花が一面に咲き、多くの観光客が訪れる。この風景は、華道池坊主催の「池坊花逍遥100選」で、未来に残したい日本の花風景のひとつに選ばれた。土地の気候風土の中にある日本酒地酒。この美しい情景がそのまま、やさしい味わいのお酒に宿っているようだ。
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