イタリア人エキスパートに聞いた! 新酒「ノヴェッロ」と本場の楽しみ方
11月、イタリアにも新酒が出回ります。ボージョレ・ヌーヴォーとはまたひと味違った新酒「ノヴェッロ」について詳しい方に聞きました。
仏ボージョレ・ヌーヴォーと伊ノヴェッロとの違いは?
京藤(以下K): 11月はワインの新酒の季節ですね。ヨーロッパの新酒といえば、日本ではフランス産の「ボージョレ・ヌーヴォー」が有名ですが、イタリアでは?
ミルコ(以下M): イタリアでも同じ時期に新酒が解禁になります。イタリアの新酒は「ノヴェッロ(Novello)」といいます。フランスものとの違いは、フランスでは「ボージョレ地区」、つまり生産地を限定して「ガメイ(gamay)」というブドウを使って作るのですが、イタリアのノヴェッロはどの地域でも作ってよく、使用するブドウにも制約がありません。
K: イタリア全国で、いろんな新酒の味が楽しめるということですね。
M: そうです。フランスに比べると、かなり自由ですよね。ただ、商業的にはフランスの方が大きく成功しています。そもそもこの新酒の売り出しを始めたのはフランスが先。フランスは1930年代、イタリアは1970年以降です。また、ボージョレのように、生産地を限定し、ブドウ品種を絞り込み、さらには製法まで規制して作れば、新酒でありながらも、毎年安定した味を実現でき、愛好家たちも楽しみに待つようになります。一方、イタリアは自由な分、当初は味や品質にバラツキもあり、長年商業的にはうまく定着できませんでした。近年は、イタリアの新酒も質が上がり、各地で美味しいノヴェッロが飲めるようになりましたよ。
通がおすすめするノヴェッロは、これだ!
M: 新酒では、ヴェネト州産が好みですね。まず挙げたいのが「ラ・バラッタ(La Baratta)」。大のお気に入りです。
K: どんな特徴がありますか?
M: ヴェネト州の新酒は、国際品種を使うことが多いんです。ノヴェッロはたいてい、地元の土着ブドウで作ることが多いのですが、ヴェネトではむしろ、通常の生産に用いるブドウで作っています。「ラ・バラッタ」にはカベルネ・フランとメルローが使われていますよ。
K: いずれも大変メジャーな国際品種ですね。どちらも長期熟成に耐えられます。それをあえて新酒で出すなんて、贅沢な気もしますが(笑)。
M: 「ペトリュス」は知っていますか? ボルドー産のメルローを使った最高級ワイン。普通に30万円以上はします(笑)。メルローはそれほどのポテンシャルを持っていますね。そこまでは行きませんが、ヴェネト州もこのメルローを使ったIGP(上級テーブルワイン)の生産が大変盛んな土地です。新酒でも、長期熟成タイプでも、いろんなメルローを楽しんでもらおうという趣向なんだと思います。
K: なるほど。地元のワインの特徴を、切り口を変えてアピールするわけですね。
M: もう1本、ここに用意した「ドゥカーレ(Ducale)」もヴェネト産のノヴェッロです。このワインはメルロー100%ですよ。
M: 1つのブドウの可能性を表現しているわけですよね。イタリア語で「インテレッサンテ」。「おもしろい」でしょ(笑)。
現地の人が楽しむノヴェッロとおつまみ
M: ノヴェッロの一般的な解禁日は10月31日ですが、僕の故郷では、新酒は「聖マルティーノの日」に祝うという伝統があります。「聖マルティーノの日」とは11月11日のこと。11月に入れば、もう気温は低く、北イタリアは冬の寒さとなっていますが、なぜか10日前後に、一時的に気温が少し上がるんです。地元の言い方で「聖マルティーノの日にモスト(ブドウの絞り汁)がワインになる」と言います。ですから僕の故郷では、新酒は11月11日にふるまわれますよ。
K: そのとき、ノヴェッロに合うおつまみなどは?
M: イタリアではよく「栗」と合わせます。ちょうど同じ時期の秋の味覚ですね。その栗を強火でローストして食べます。よく街角でも売っていますよ。
M: ホクホクとして美味しいですよね。あの甘くまったりした味わいに、フレッシュで丸みのあるノヴェッロが合うんですよ。口にまとわりつく栗を洗い流してくれるような感覚で、ワインが進みます。
K: もちろん、日本にも栗はありますが、町のお店で見かけるのは、ほとんどが「甘栗」。イタリアの味わいとはちょっと違いますよね。むしろ、イタリアの栗の感覚に近いのは「石焼きイモ」だという気がします。
M: 知ってますよ。カミオンチーノ(小型トラック)で売りに来るやつでしょ。なるほど(笑)。作り方としは、確かに似てますね。ノヴェッロと焼きイモの組み合わせ。きっとおもしろいマリアージュになると思いますよ。日本のみなさん、ノヴェッロを楽しんでくださいね。チャオ!
ノヴェッロと焼きイモのマリアージュ、やってみた!
まずは焼きイモが濃厚な甘さをともなって、まったりと口にねばりつくように広がります。ほのかな焦げ目の香りもまた、鼻腔をくすぐりますね。そこへ、若々しいライトボディのノヴェッロをグイっと。すると、焼きイモがワインの柔らかなコクと酸味を絡ませて、まるでクリームチーズの感覚で喉をスッと通ってゆくではありませんか。焼き芋だけだと胸焼けしますが、ワインがあればグイグイ行けます。これなら、栗とノヴェッロを合わせるイタリアの感覚にかなり近いのではないでしょうか。
もちろんノヴェッロの代わりに、ボージョレ・ヌーヴォーと合わせても、相性の良さは変わらないでしょう。ズバリ「焼きイモと新酒の組み合わせ」。この秋、家飲みのうれしいサプライズになること間違いなしです。
※記事の情報は2018年11月06日時点のものです。
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