オラホビールのブルワリーを訪問! ホップ畑を見学しました

数々の受賞歴をもち、全国のクラフトビールファンを魅了するオラホビール。今回は、オラホビールの工場とホップ畑を、長野県東御市に訪ねました。なかなか見られないホップ畑の風景をお楽しみください。そして、オラホビールのホップへのこだわりとは?

オラホビール ホップへのこだわり

サーバーからビールを注ぐ
ご存じのようにホップは、ビールの香りや苦みのもとになる重要な材料。今回の最大の目的は、オラホビールの自社畑で「生きた」ホップを見せてもらうことだ。オラホビールのある長野県東御市は、もともとアサヒビールのホップ畑があった土地でホップの栽培にはぴったりな気候なのだそうだ。

多くの場合は、アメリカ産などのホップをペレット状に加工したものを購入してビールづくりに使用しているが、ホップになみなみならぬこだわりをもつオラホビールでは小規模ながら自社栽培に挑戦している。ホップの栽培をはじめたのは2010年ごろ。もう10年近い歴史があるのだ。

実際のホップ畑はいったいどんなものなのか? バイヤーズレポートでお馴染み、名古屋の酒類卸イズミックのチーフバイヤーでソムリエの青田俊一さんと訪ねた。

オラホビールのホップ畑

ホップ畑
オラホビールのホップ畑。地面から何本もの蔓が誘引されて天にのびている
ブルワリーから歩いて数分。オラホビールのホップ畑が見えてくる。こぢんまりとした畑に幾本ものホップの蔓が天に向かって伸び、風にゆれている。ホップはアサ科の蔓植物で、蔓は長いものでは10メートル以上にもなるとか。
ホップの鞠花
鞠花(まりばな)。これを収穫してビールの原料にする
葉っぱの間から顔を覗かせるなにやら花のような、実のような、重なり合った葉のかたまりのようなもの。これが「鞠花(まりばな)」と呼ばれるもの。ホップの雌花だ。これがビールの原料になる。

ビールは古代よりつくられ、親しまれてきた。そのビールにホップがさかんに使われるようになったのは中世に入ってからだという。ホップを使うことでビール独特の苦みや、フルーティな香りを作り出すことができる上、ビールの腐敗をふせぐ効果もあったのだ。

ホップは世界中に100種もの品種があるが、オラホビールの畑ではそのうち4種類を栽培している。
 
戸塚正城さん
お話を伺ったオラホビールの戸塚さん
オラホビールのマーケティングマネージャー、戸塚正城さんに栽培中のホップのお話を伺った。

青田:現在栽培中のホップの品種はどんなものがあるんですか?

戸塚:まだまだ栽培品種も少ないんですが、4種類つくっています。
 
左:ドイツスタイルに使うゴールデンスター 右:柑橘系のやわらかい香りのチヌーク
左:ドイツスタイルに使うゴールデンスター 右:柑橘系のやわらかい香りのチヌーク
戸塚:まず、おだやかでフローラルな香りのゴールデンスター。これはドイツスタイルのビールに使っています。あとはアメリカ産のチヌーク。柑橘系の香りでIPA系に補助的に使う場合が多いです。
 
左:甘い香りのガレーナ 右:柑橘系の代表選手カスケード
左:甘い香りのガレーナ 右:柑橘系の代表選手カスケード
戸塚:ガレーナもアメリカ産で、洋梨とかパイナップルとか甘めで華やかな香りがします。最後にカスケード。アメリカのホップの代表選手ですね。昔からIPAペールエールに使われてきました。柑橘系のアロマホップの代表で、20年ぐらいまえはこのカスケードを使ってアメリカンスタイルのビールをつくるのに憧れていました。一番、ゆかりの深いホップですね。僕らにとっては懐かしいアロマです。

 
鞠花の断面
中に見える黄色い粉が、苦みと香りの原料「ルプリン」
せっかくなので、鞠花を割ってみせていただいた。中に、黄色っぽい粉のようなものが入っている。これは、ホップの雌花が作り出す「ルプリン」という物質。これが苦みや香りのもとになるのだそうだ。

手間暇かけた、オラホのホップ

ホップ畑
ホップ畑は10年の歴史が
ホップの栽培をはじめて約10年。実際の栽培はかなり手間のかかるもののようだ。まずは、ホップの栽培についてお話を伺った。

青田:ホップの栽培って、大変なんですか?

戸塚:(笑)結構手間はかかりますね。毎年、3月ぐらいに株ごしらえという作業があって、これが重要なんです。ホップの株を掘り出して、芽を剪定していきます。6月あたりになると一日20センチも伸びる植物で、この蔓を誘引していくんですが、5メートルぐらいの高いところで作業しなければならないなど、大変は大変ですね。

青田:収穫したあとはどうするんですか?

戸塚:収穫したホップは乾燥させて、真空パックで保管します。それをそのままビールづくりに使います。
乾燥ホップ
乾燥ホップ
真空パックになったホップ
真空パックで保存する

オラホビールが目指す「東御市のテロワール」

オラホビールのブルワリー外観
オラホビールのブルワリー外観。太陽マークのロゴが可愛らしい
ホップの栽培まで手がけているクラフトビールのメーカーは、まだまだ限られている。オラホビールのホップ栽培にどんなこだわりがあるのか、伺ってみた。
 
戸塚さんと青田さん
もともとは別のブルワリーで製造部門にいたという戸塚さん(左)と、試飲が楽しみでたまらないイズミック青田さん(右)
青田:通常、ホップはペレットになったものを仕入れて使うと思うんですが、自社で栽培をはじめた狙いはどんなところにあるんでしょう?

戸塚:そうですね、究極的には日本独自のホップをつくりたいんです。さらに言えば、日本の、あるいは東御市のテロワールをもったビールができたら面白いと思っています。日本らしさでスパイスを入れてみたり、ということではなく、ホップだったり麦芽だったり、そういう原材料の部分で独自色を出したいと考えています。ゆくゆくは、東御市でできた独自のホップの品種ができたら面白いな、と。
東御市
ワイン産地としても知られる東御市
青田:輸入のホップと自社で栽培したホップの、際だった違いというのはどんなところにあるんでしょう?

戸塚:実は残念ながら、そこまで際だった特徴はまだ出せていないんです。ただアメリカのホップとの違いはもちろんあって、香りがおだやかだということは言えると思います。現在のところは年に一度自家製のホップを使ってビールをつくり、お客様に喜んで頂くということで、ある意味他社さんとの差別化ポイントにはなっていると思います。そういうところを第一歩として、東御市のテロワールの可能性を探っていきたいです。

オラホのビールづくりとホップ使い

醸造装置
開所以来使い続ける年期の入った醸造装置。右側のタンクで麦汁を温めて糖化を行い、左がわのタンクに移してホップを投入、煮沸する
オラホビールのビールづくりのお話を伺う前に、簡単にビールのつくりかたをおさらいしておこう。

ビールのつくり方には大きく2つの方法がある。ひとつは歴史の古い「上面発酵」と呼ばれる方法。15℃~25℃で発酵する酵母を使用した醸造で、発酵の際に発酵液の表面に浮かび上がることから「上面発酵」と呼ばれている。この方法でできあがるビールが「エールビール」だ。

もうひとつは、日本のナショナルメーカーで多く使われ、大量生産に向いた「下面発酵」。5℃~10℃の低温で発酵する酵母を使う。これは発酵液の底に沈む性質があることから下面発酵と呼ばれている。こうしてできるビールは「ラガービール」だ。

どちらの方法でも、まずは砕いた麦芽をお湯とまぜて、糖化という工程を経る。麦芽の中に含まれる酵素を活性化させて麦芽から糖分を作り出すのだ。その後、ホップを加えて煮沸して苦みや香りを加える。最後に上記2つのうちどちらかの発酵を行い、ビールの完成となる。

さて、オラホビールのビールづくり、そのこだわりとは?
 
発酵タンク
発酵タンク。この中で酵母が麦芽からできた糖をアルコールにする
青田:醸造は上面発酵ですか?

戸塚:はい、上面発酵ですね。アメリカンスタイルのエールビールです。中でも、ホップをしっかり効かせたタイプに特化してつくっています。お客様にとっては、下面発酵でつくられる大手さんのビールとの差別がはっきりしているほうが喜ばれますし。

青田:ホップの使い方で特徴は何かありますか?

戸塚:はい。ビールの仕込みでは、発酵の前にホップを入れて煮沸して香りや苦みを加えるんですが、うちの場合は「なるべく煮ない」ようにしています。あまり煮てしまうとえぐみや渋みがでてしまうので。

青田:オラホビールさんで、よく使うホップの品種は?

戸塚:シムコー(ウェストコーストのIPAでよく使われる品種)ですね。苦みを加えるビタリングにも、香りを出すアロマにも使えます。柑橘系の香りで、グレープフルーツのような…。使い方によってはもっと草っぽい香りも出せますよ。

欲張りなオラホビールのラインナップ

缶詰されたビール
青田:オラホビールさんではどんな味わいを目指してビールづくりをしているんでしょう?

戸塚:欲張りなので、飲みやすいものから、飲みにくいものまで(笑)。

青田:オラホビールさんの考える「飲みやすい」ビールとは?

戸塚:雑味のないクリアなビールです。「透明度の高い味」という表現が、一番ぴったりくるかもしれません。えぐみだったり渋みだったリがなく、我々が届けたい主張が解りやすく伝わるようなもの。例えばそれが香りだったら、その香りがまっすぐ伝わるアイテムづくりを心がけています。

青田:では「飲みにくいほうのビール」とは?

戸塚:これはもう、趣味の世界ですね(笑)。僕の飲みたいビールっていうことになってしまうんですが。例えばハイアルコールのビール。アルコール度数15%のバーレーワイン(エールビールの一種)とか。あと、東御市はワイナリーが多いのでワインに使った木樽でエージングしたビールとか。そのあたりをとっかかりにして展開していきたいと思っています

オラホビールを飲む!

オラホビール各種
さてお待ちかね、試飲をさせて頂くことに! 代表選手を4種類頂いてみた。ちなみに商品名に登場する「雷電(らいでん)」とは、東御市出身の江戸時代最強力士の名前。21年間の現役期間中、254勝でたったの10敗という化け物じみた成績だったという。

オラホビール ゴールデンエール

オラホ ゴールデンエール
戸塚:開所から23年つくり続けているエールビールです。やわらかい柑橘の香りがあって、すっきりした飲みやすいビールです。

青田:さほど苦みが強調されているわけではなく、バランスがすごく良いですね。麦芽の感じもしっかりあって。単体で楽しむのももちろんですが、食中酒として食事と楽しむのもよさそうです。

オラホビール 雷電 春雷

オラホ 春雷
戸塚:春雷というビールです。地元東御市で採れた麦芽と、うちの畑でそだったホップ(ゴールデンスター)を使っています。

青田:これは結構複雑な味わいですね。最初に口に入って来て、抜けていく間に味が変化します。独特の酸味があって、そのあとホップの爽やかさが抜けていくという感じ。単体でじっくりのみたいですね。

オラホビール 雷電 カンヌキIPA

オラホ 雷電カンヌキ
戸塚:昨年発売になりました、雷電カンヌキIPAです。前の2種と違って、もっときちんとホップが主張しています。IPAではありますが、飲みやすく仕上げてあります。

青田:苦みもしっかり、でもボディ感はさっぱりしているので飲みやすいですね。柑橘系の香りがきりっと鼻に抜けていきます。バランスの良いIPAです。

ちなみにこの商品名につけられた「カンヌキ」も雷電由来の命名。雷電はあまりに強すぎたため4つの技を禁じ手にされていた。その禁じ手とは、「鉄砲」「張り手」「さば折」そしてこの「閂(カンヌキ)だったそうだ。

キャプテンクロウ スラッシュラガー

オラホ キャプテンクロウ スラッシュラガー
戸塚:これだけはラガーです。ニュージーランド産の希少なホップ、ネルソンソーヴィンを、アロマホップとしてふんだんに使っています。以前に限定販売したものを、要望が多くて復活させた商品です。

青田:柑橘系の香りが爽やかです。かなりドリンカブルなビールですね。すっきりしていて飲みやすい。

オラホビール最大のイベント「ホップ収穫祭」

ホップ収穫祭
オラホビールでは毎年ホップの収穫時期である6月の終わりごろ、ファンを集めて「ホップ収穫祭」を行っている。今年は6月28日に開催。参加者はホップ畑で収穫を体験したあと、地元の食材とオラホビールで盛り上がったそうだ。今年のホップは日照不足で小ぶりだったというが、収穫量は昨年の1.3倍。これを使って秋のIPAをつくり、参加者へプレゼントされるそうだ。

OH!LA!HO!オラホの由来とは?

O!LA!HO
青田:この不思議な「オ・ラ・ホ」という名前の由来を教えてください。

戸塚:(笑)このあたりの方言なんですよ。「私たちのほう」という意味で、おじいちゃんなんかは よく「おらほ、おらほ」と言っています。「私たちのビール」という意味で名付けました。

青田:なるほど、おもしろいですね。地元のビール、まさにクラフト。ところで、日本の地ビールの創生期からクラフトビールをやられていて、環境や飲み手の変化はどう感じていらっしゃいますか?

戸塚:あくまでも私見ですが96~97年ごろの地ビールブームのころは、普段大手さんのビールを飲んでいる人がクラフトも飲んでいたと思うんです。観光バスに乗ってブルワリーに来てクラフトビールを飲んでみて、なんかクセがあるね、とか言いながら「よし、地ビール飲んだぞ」といって帰る、というような。

青田:そうでしたよね。

戸塚:今は、飲み手の層が変わったと思います。クラフトビールの支持層は20代から行っても40代、若いんです。お酒を飲み始める時期に、ナショナルブランドもクラフトも目の前にある、という環境で、先入観なく味を評価できるというか。それとクラフトは色々なスタイルがあるので、味を選べるというのも評価されているポイントではないでしょうか。

青田:これから、工場も拡張されるということで、ますます期待しています。

戸塚:頑張ります!

※記事の情報は2019年10月14日時点のものです。
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