秋の楽しみ「ひやおろし」をさらに楽しむには?

秋、お楽しみの「ひやおろし」の季節です。今回は日本酒と発酵フレンチのお店「SAKE Scene〼福」を経営する、簗塲友何里(やなば ゆかり)さんの「ひやおろしをさらに熟成させる」お話です。

ライター:簗塲友何里簗塲友何里
メインビジュアル:秋の楽しみ「ひやおろし」をさらに楽しむには?

落ち着いた秋の楽しみ「ひやおろし」

日本酒
もうすぐ夏も終わり、穏やかで落ち着いた秋が始まり、熟した日本酒が似合う季節になります。キリっと冷えたシャープな味わいの日本酒も良いけれど、旨味をしっかり感じる、まろやかな日本酒が恋しくなりますね。

外気と貯蔵庫の温度が同じくらいになった秋に、出荷される日本酒を「ひやおろし」と言います。春に造りを終え、火入れをして夏を越す。半年ほど蔵で熟成した日本酒です。
ひやおろし
ひやおろしは、秋らしい素敵なラベルも楽しみのひとつ
ラベルも秋らしく、月、落ち葉やキノコをイメージしたものが多く、見ているだけでも秋の到来を実感します。最近は蔵からの発売も早く、9月前に入荷することもあります。

ひやおろしを更に熟成させてみましょう

今回はひやおろしを、さらに楽しむ方法をご紹介したいと思います。日本酒は開けたらすぐ飲むイメージが強いですが、寝かせても大丈夫な日本酒もあります。「ひやおろし」もそのひとつ。購入してすぐに飲まずに、さらに熟成させると一味違う世界を味わえます。

私が経営するフランス料理と日本酒のレストランSAKE Scene〼福でもお客様に時々聞かれるのは、どのような日本酒が熟成やお燗に向いているのかという事。まさに、ひやおろしは、熟成に向いた酒質のものが多いです。

ひやおろしは、すでに半年蔵で寝かせていますし、早飲みしなくても大丈夫。ということで、旨味のしっかりとした、優しく丸い味わいの秋の日本酒、ひやおろしを、さらに寝かせてみるのはいかがでしょうか。さらに熟成させることで、深い出汁のような旨味が感じられるようになりますよ。

ひやおろし製造年度別飲み比べ

ひやおろし コスモス
今回飲み比べた「酉与右衛門 秋桜コスモスひやおろし純米吟醸」
今回、同じ蔵のひやおろしで、2019年に仕込み、今年発売されたものと、2017年に仕込んだものを飲み比べてみました。岩手県川村酒造店の「酉与右衛門 秋桜コスモスひやおろし純米吟醸」です。岩手県産の酒米、吟ぎんがを50%まで精米し、加水して一回火入れ後、瓶で寝かせた日本酒です。

今年の秋桜は、優しい丸みを帯びた味わいで、綺麗に切れていく儚げだけど凛とした気品を感じる味わいです。冷酒、常温も良いですが、ぬる燗で味わうのが最高です。

ちょうど手元に、2017年に仕込まれた同じ秋桜があり、これは飲み比べてみようと満を持して開けました。ちょうど2年熟成したものです。さて、飲んでみると……
コスモス 19年と17年
右が2017年仕込み(2年熟成)、左が2019年仕込みで今年発売のもの
2年熟成させた「酉与右衛門 秋桜コスモスひやおろし純米吟醸」。とても良い出汁のような旨味を感じつつ、綺麗な気品さは失われていません。飲み比べるからこそ分かる、熟成感!

ひやおろしとして出荷されたばかりの頃の面影を残しつつ、ほど良い熟成感が、ひと味違う世界を見せてくれます。ぬる燗向きのお酒から、熱燗向きの日本酒に変身しました。ゆっくりと徐々に温めると、ふんわりと味わいが開いてきます。

日本酒を熟成させる楽しみ

ひやおろしの年度別飲み比べでも分かる通り、一度火入れをした日本酒は、熟成させるとさらに美味しくなる可能性があります。当店には、2000年に仕込まれた20年熟成の日本酒も隠してあります。平成8年に造られた約23年熟成の日本酒も!

長年にわたり、ゆっくりと確実に熟成し、色も褐色に変化して、お客様に飲まれる時を待っています。じっくり寝かせると味わいは椎茸の出汁のように変化して来ます。特にお燗をすると、深い出汁のような香りがして、熟成による日本酒の変化の可能性に驚きます。

日本酒の熟成には、光と温度変化が大敵。暗くて温度変化の少ない場所で保管しましょう。冷蔵庫で熟成させるのが一般的です。

旨味を味わう秋へ

名月
秋の深みが増す頃、しっぽりと熟成した日本酒をお燗にして、奥行きのある味わいと香りにゆっくりと浸ってみるのもオツかと。ぜひキノコとのマリアージュをお忘れなく。旨味を感じる秋にいたしましょう。

※記事の情報は2020年9月15日時点のものです。

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