圧力を加えず「袋吊り」で搾った希少なお酒が完成 -和希水しずく酒-
2017年3月2日。まだまだ春が待ち遠しい、新潟県上越市柿崎地区。この地の蔵元、頚城酒造を訪ねました。この日は、今年の「久比岐 和希水 純米大吟醸 しずく酒」の搾りが行われる日だったのです。
重力で搾る「袋吊り」とは?
頚城酒造の意欲的なブランド「久比岐 和希水」は、地元の若手ファーマーが、地元の名水「大出口泉水」からの水をかけ流して作った酒米を使った日本酒。大出口泉水は「平成の名水100選」にも選ばれたおいしい水です。この貴重な酒米を使い、お米が育った大出口泉水を仕込み水に使って醸します。このシリーズの中でも純米大吟醸は、半分以上もお米を削り低温でじっくり発酵。フルーティーな香りと上品な味わいが楽しめます。そして、久比岐和希水の最高峰が「しずく酒」。袋吊りという特殊な搾り方でお酒を抽出します。
朝、頚城酒造に到着すると、蔵の皆さん総出で袋吊りの準備の真っ最中でした。ステンレスのタンクに棒を差し渡し、布の袋を吊り下げていきます。これが「袋吊り」という名前のゆえん。この袋にポンプで汲み上げたもろみを慎重に注ぎ込みます。「はい!」という掛け声とともに注がれるもろみ……。あとは静かに、旨い酒がしたたり落ちるのを待つのみ。袋一本に数リットルのもろみ。重力にまかせて、数時間かけてしずくを集めます。
通常、日本酒は、自動圧搾ろ過器という日本酒の搾り専用の機械や、槽(ふね)と呼ばれる昔ながらの搾り機で搾ります。いずれにしても、もろみに圧力をかけてお酒と酒粕を分離するのです。こうすると、もろみの約7割がお酒になります。一方、袋吊りでは、1割ほどがせいぜい。頚城酒造では年に一升瓶で100本ほどしか製造できないそうです。まさしく「希少なお酒」です。
細部にまで手をかけたスペシャル尽くしのお酒
もろみに重力以外の力を加えない「袋吊り」で搾ったお酒は、澄みきってきれいな、それこそ高貴な味わいに。ただし、搾りたてのお酒はまだまだ若く、すこしの苦味が混じっているそうです。それを低温でじっくり熟成させることで角がとれ、上品な大人へと成長していくのです。
名水かけ流しの棚田で育った酒米。精米歩合50%。さらに、酒米を育てた同じ名水で仕込む。そして「吊るし」でやさしく搾り、丁寧に熟成をほどこす。「久比岐 和希水 純米大吟醸 しずく酒」は、まさしくスペシャル尽くしのお酒です。
蔵元「袋吊り」の魅力を語る
蔵元の八木さんに、袋吊りについてお話を伺いました。
これが酒袋です。材料は綿です。通常はこれにいれたお酒をプレスして搾るわけです。プレスして出てきた液体がお酒、残った固形物がいわゆる酒粕です。「袋吊り」というのは、例えば鑑評会に出品するような特別なお酒に使う搾り方です。よりクリアな味わいを求めて、プレスせずに重力で落ちてくる酒を集めるんです。こうすると純粋に発酵した液体のみが出てきます。袋吊りで搾ると普通にプレスして搾るのとは、味わいの綺麗さがまったく違いますね。
この技法は時間もかかるし、袋の扱いによっては、ちょっとイヤな匂いがついてしまったりする場合もあってデリケートな作業です。しかしすべての仕事をきちっとこなすと、出来上がった酒の「クリア感」は通常のものとは比べ物になりません。
しずく酒の高貴な味わい
「久比岐 和希水」で使う酒米自体、名水で育っていますから、お米も真っ白ですし旨味もクリアなんです。品種は新潟県独自の越淡麗というものを使っています。これを軟水の名水で仕込むと、非常にきれいな味のお酒になります。ものすごくクリアな旨味と上品な香りなんです。
さらにお米を削って純米大吟醸にすることで、そのことが強調されますし、袋吊りでさらにまたクリアな旨味、上品な香りが強調されるわけです。搾りたてはまだ若くて荒々しいといいますか、苦味もすこしあるんですが、これを熟成させることで丸みが出て、本当になんていうか「高貴」な味わいになります。ぜひとも味わっていただきたいですね。