おいしさの証って本当? ワインの「澱(おり)」について、ソムリエが解説します!

赤ワインのグラスやボトルの中に、浮遊物や沈殿物を見つけたことはありませんか? それらは、ワインの成分が結晶化した「澱(おり)」と呼ばれるものです。この記事では、澱のあるワインの味わいや自宅での楽しみ方について、ソムリエがわかりやすく解説します。

メインビジュアル:おいしさの証って本当? ワインの「澱(おり)」について、ソムリエが解説します!

ワインの澱とは?

ワインの澱とは、タンニンやアントシアニン、タンパク質などが結晶化した浮遊物や沈殿物のことを指します。これらの成分は、ワインが持つ独特の味わいや色合いに寄与している重要な要素です。

タンニンはワインの渋味成分で、主にブドウの皮や種子、木樽などから抽出されます。タンニンはワインにしっかりとした骨格を与え、熟成の過程で時間とともに柔らかくなり、ワインをより滑らかで奥深い味わいにします。

アントシアニンはワインの色素成分で、主に赤ワインの色を決定する要因です。ポリフェノールの一種で、ワインに鮮やかな色彩をもたらすほか、抗酸化作用を持つことでも知られています。

若いワインの場合、これらの成分はそれぞれ液体に溶け込んでいますが、時間の経過とともにワインと酸素が接触する過程で、タンニンやアントシアニン、タンパク質などが結晶化し、最終的には澱としてボトルの底やグラスの中に沈殿します。

澱が発生しやすいワインの特徴

澱が発生しやすいワインにはいくつかの特徴があります。以下の条件に該当するワインは、澱が見られることが多くなります。

1. タンニンが多い赤ワイン
タンニンが豊富な赤ワインは、時間が経つにつれて結晶化し、澱として沈殿する可能性が高くなります。とくにタンニンの量が多い渋みの強いフルボディの赤ワインでは澱がよく見られます。

2. 熟成期間の長いワイン
長期間熟成されたワインでも時間の経過とともに成分が変化し、澱が発生する傾向があります。これは熟成の過程でタンニンやアントシアニンが結晶化するためです。また長期熟成ワインの場合、澱が発生することが品質の証とも言えます。

3. 自然派ワイン(ナチュラルワイン)
自然派ワインは、醸造過程であえて澱を取り除かない「ノンフィルター」であることが多いため、澱が残ることがあります。無添加で化学処理をできるだけ避けてつくられるため、澱が自然の一部として存在します。

注意が必要なのは、澱が必ずしも品質のよいワインの証拠とは限らないことです。保存状態が悪くワインが酸化してしまった場合にも澱が発生することがあります。そのためヴィンテージワインを選ぶ際は、ボトルをチェックし、澱の状態を確認することが大切です。適切に保管されたワインでは、澱がボトルの片面にのみ付着していることが多く、保存状態が悪いワインは澱がボトルの周りにまばらについています。保存状態のよいヴィンテージワインを選ぶ際は、ボトルを注意深く見てみましょう。

白ワインにも澱はある?

白ワイン
赤ワインに比べると白ワインで澱を見ることは稀ですが、白ワインにも澱に似た「酒石(しゅせき)」と呼ばれるものが存在します。酒石はブドウの酸味成分である「酒石酸」とカリウムなどのミネラル成分が結合して結晶化したものです。これはとくに低温で保存された白ワインに発生しやすく、瓶の底やコルクに多く見られます。

酒石酸はブドウに含まれる自然な酸で、ワインの味わいにシャープな酸味を与える成分です。この酸がカリウムと結合すると、固体の結晶(酒石)として沈殿します。

ヨーロッパでは酒石を「ワインのダイヤモンド」と呼ぶこともあります。これは酒石が品質の良いワインに見られることから、美しい結晶として評価されることが多いためです。酒石は、澱とは異なりワインの味わいにほとんど影響を与えません。ただし細かく区別せず、「澱」と呼ばれることもあります。

澱が発生すると、味わいはどう変化する?

ワインに澱が発生すると、味わいに微妙な変化が現れます。とくにタンニンが結合して澱として沈殿することにより、ワインの渋みが抜け、よりまろやかでコクのある味わいになります。この変化は、多くのワイン愛好家にとって歓迎すべきものであり、澱が「おいしさの証」とされる理由の一つです。

さらに、澱が発生したワインは、色味にも変化が見られます。とくに赤ワインでは、時間の経過とともに鮮やかな赤色が徐々に落ち着き、うっすらとオレンジがかった色調に変わります。これもまたワインの熟成を示す重要な指標となります。

澱は飲んでも大丈夫?

澱はもともとワインに含まれている成分が結晶化したものですので、飲んでも害はありません。ただ澱が口に入ると、舌触りが悪く、えぐみや渋みを感じることがあります。これが不快に感じられる場合があるため、ワインの味わいを最も楽しむためには、やはり取り除いてから飲むことをおすすめします。澱が出ている分、飲み口がよりなめらかでまろやかな味わいになるので、澱を取り除くことで調和の取れた本来の味わいを引き出すことができます。

自宅でできる! 澱の取り除き方

ワインの澱を取り除く方法はいくつかありますが、ここでは自宅で簡単にできる方法を紹介します。

1. ボトルの底に澱を沈殿させる
ワインを開ける前に、ボトルを静かに立てて澱を底に沈めます。できれば3日以上静かに置いておくのが理想ですが、半日〜24時間程度でも大きい澱は底に沈みます。澱がボトルの底に沈むことによってグラスに注ぐ際に澱が混ざりにくくなります。注ぐ際は澱が舞い上がらないように静かにボトルを傾けましょう。数時間でも効果はありますが、できれば飲む日を決めたら早めにボトルを立てておきましょう。

2. デキャンタージュをする
デキャンタージュは、ワインをボトルからデキャンター(ワインを移し替える容器)に移し替える作業です。デキャンタージュする際は、ボトルをゆっくりと傾け、澱が混ざらないように注意しながらワインを注ぎます。最後にボトルの底に残った澱を避けて注ぎ終えることで、澱を取り除いたクリアなワインを楽しむことができます。
デキャンタに移し替える

***

ワインの澱は、ワインの熟成が進んでいる証拠でもあり、味わいがまろやかになりコクが増すことから「おいしさの証」として評価されることも多いものです。

とはいえ澱をそのまま飲むと、舌触りが悪くえぐみや渋みを感じることがあるため、取り除いてから楽しむのがおすすめです。ボトルを立てて澱を沈澱させる方法や、デキャンタージュを行うことで、自宅でも簡単に澱を取り除くことができます。

ご自宅に眠っているワインに澱を見つけた時にはぜひ参考にしてください。

※記事の情報は2024年9月27日時点のものです。
  • 1現在のページ