「キャンティ・クラッシコ」にぴったりなおつまみとは?

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが在住していたヴェネツィアをはじめイタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、「キャンティ・クラッシコ」のによく合う意外なおつまみをご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:「キャンティ・クラッシコ」にぴったりなおつまみとは?

料理とワインの「産地を合わせる」のがイタリア流

イタリアで、ワインと料理の組み合わせについてよく言われるのが、「その土地のワインと料理を組み合わせる」ということである。一見、当たり前のことのようにも思われるが、イタリアは各地に土着のブドウ品種があり、それぞれのワイン醸造法があり、その土地独特の食材や調理法がある。そのバリエーションたるや、私たちの想像を軽く超えているだろう。

いくつか典型的な「理想の組み合わせ」と言われるものを挙げてみよう。

※料理|ワイン|生産地
■ザンポーネ|ランブルスコ(赤発泡) |エミリア・ロマーニャ
■ブラッサートのバローロ煮|バローロ(赤) | ピエモンテ
■フィレンツェ風ステーキ|キャンティ・クラッシコ(赤)|トスカーナ
■ズッキーニの花の詰め物フライ|フラスカーティ(白)|ラツィオ

聞きなれない料理もあると思うので、簡単に説明しよう。

・ザンポーネは豚の前足の皮に詰め物をした、豚足のような形のソーセージ。エミリア・ロマーニャ州のモデナの名産。

・ブラッサートは牛肉を地元の世界的に有名な赤ワイン、バローロで蒸し煮にしたもの。

・フィレンツェ風ステーキは、Tボーンステーキであるが、キアーナ牛という地元のブランド牛を使う。

・ズッキーニの花のフライは、文字どおりズッキーニの花の揚げものだが、中にモッツァレッラチーズとアンチョビを詰めて揚げるのがラツィオ風。

さて、これら地元名物料理にベストマッチのワインが右に並んでいるわけだが、それぞれのワインに使用されるブドウを見てみよう。

※ワイン|ブドウ|収穫地
■ランブルスコ|ランブルスコ種|エミリア・ロマーニャ
■バローロ |ネッビオーロ|ピエモンテ
■キャンティ・クラッシコ|サンジョヴェーゼ|トスカーナ
■フラスカーティ |マルヴァジア種| ラツィオ

このように、料理、ワイン、そのワインに使用されるブドウが、すべて同じ産地になっていることがわかるかと思う。このような組み合わせが数限りなく出来上がるのがイタリア食文化の特徴だ。

それが常識の国のワインを、はるか遠くの日本の料理と組み合わせることは、イタリア人には考えにくいことなのだ。だからこれまで、イタリア・ワインと日本料理の組み合わせには定番というものがなく、実はフランス人の考えに沿って行われてきた。

フランス人の提唱する組み合わせとは、例えば、こういうものである。
※料理|ワインまたはブドウ品種
■寿司|ヴィオニエ、ソーヴィニョン・ブラン(酸味の強い白)
■刺身| シャンパンまたはシャルドネ使用のスパークリング

これによって、イタリア人が日本食を語るときも、組み合わせにはこの定番を超えることはなかった
 

イタリアの常識を覆す「キャンティ・クラッシコ」と和食のマリアージュ

そんなことが頭にあったため、あるときイタリア大使館から「キャンティ・クラッシコのアジア・デビュー、和食との組み合わせ」という案内が届いたときには驚いた。大使館に様々なキャンティ・クラッシコの生産者を招いて、和の料理と合わせた試飲会を行うというのだ。2014年12月のことだった。そのとき、私はちょうどイタリアに滞在中で、その会に参加することはできなかったが、その後「キャンティ・クラッシコ・ワイン協会(Consorzio vino Chianti Classico)」の公式ホームページで、寿司に合うワインとして「キャンティ・クラッシコのアンナータ(ヴィンテージ表示)」が推奨されているの見るや、自分でも試さずにはいられなかった。

http://www.chianticlassico.com/magazine/giappone-grande-debutto-asia-del-chianti-classico-gran-selezione/

以来、和食に合うワインとして「キャンティ・クラッシコ」は個人的な常識となった。これは私見であるが、キャンティが日本の食文化に合うのは、おそらく、キャンティの土台となる品種サンジョヴェーゼが、繊細で複雑なブドウだからだと思う。前回コラムにも書いたが、数百メートルも離れれば、同じ品種でも変異種が出来てしまうほどである。それが日本料理のもつ”旬”や”旨味”といったきめ細かさに呼応するからではないか、と思っている。

「キャンティ・クラッシコ地区」は、そんな繊細なサンジョヴェーゼを最も良い状態で収穫できる地区だ。そのことによって、出来たワインの味の特徴としては、酸味とタンニンのバランスが程よく、コクは弱め、熟成期間の割に軽めに仕上がる。このバランスが日本の食事との相性をよくするのではないだろうか。

赤ワインは基本的に、日本の食卓に上がる「おかず」にはマッチしにくい。魚介類と野菜を中心に、出汁、醤油、味噌で味付けするのが基本の調理法では、肉にも醤油系の味が加わることが多い。例えば、肉じゃが、すき焼き、豚の角煮。どれも「甘辛味」で、醤油の風味が決め手だ。この「甘味」と「醤油味」が赤ワインの渋みや酸味と合わず、たとえ肉料理であっても赤は合わせにくい。むしろ日本の肉料理には軽い白のほうが合うという人さえいる。

例えば、焼肉を思い浮かべてもらいたい。これはイタリアでならば「グリル(alla griglia)」と言われる調理法だ。ここで使われる肉は、イタリアなら脂身の少ないステーキ肉で、塩とオリーブオイルで味付けされる。これなら、どんな赤でも合う。ところが日本の焼肉では薄切りのロースやカルビ、さらに好まれるのは脂の多い「しもふり」、さらには「ホルモン」。さらにそれを「タレ」につけて食べる。つまり醤油の風味が合わさる。こうなると、通常の赤ワインではタンニンからくる渋みがもろに顔を出し、酸味とアルコール分が合間って、肉の臭みを引き出してしまう。

ところが、この焼肉に「キャンティ・クラッシコ」を合わせてみると、決して焼肉の味を邪魔しない。醤油の風味をうまくすり抜ける。また、味噌味との相性もよく、むしろよく絡む。これは、繰り返しになるが、「キャンティ・クラッシコ地区」のワインが良質のサンジョヴェーゼをたっぷり使い、十分な熟成を施して、特長を引き出しているからだと思う。「キャンティ・クラッシコ」と聞くと高価なイメージをお持ちの方もいるかと思うが、今は1000円台のものも多数く出回っている。家飲みには、その辺りのワインで十分堪能できる。

最後に私がおすすめする「キャンティ・クラッシコ」と相性のいい「家飲みのつまみ」をご紹介したい。

第1位 もつ煮込み
第2位 マグロのカマ
第3位 ジンギスカン

「すき焼き」もおすすめしたいが、卵がくせものなのだ。生卵が絡むと、どんなワインも合わせにくい。「すき焼き」ならば、卵をつけずに召し上がって頂ければ間違いない。


※記事の情報は2017年5月23日時点のものです。
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