残暑も疲れも爽やかに吹き飛ばす!イタリアで出会ったミントのカクテル

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は残暑を吹き飛ばす、ミント・シロップが爽やかなカクテルをご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
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イタリアでメジャーなシロップの使い方

年々残暑が長く厳しくなる気がする。特に朝から暑くて、寝起きからぐったりするような日に、ふと飲みたくなるイタリアの飲み物がある。ワインからは逸れるのだが、イタリアにはいろんな種類のシロップが売っている。イタリア語ではsciroppo[シロッポ]というが、リキュールのようなボトルで並んでいる。日本のかき氷に使うシロップに似た感じだが、味がちょっとおしゃれだ。例えば、ミント、アニス、バラ、アーモンドなどが一般に人気。私のお気に入りはミントで、レモン風味の炭酸水で割るだけで、ちょっとしたカクテル風になる。これに氷と切ったライムを混ぜれば、ぐったりした体が張りを取り戻し、仕事に取りかかれるというものなのだ。ノンアルコール・カクテルともいえそうなものだが、このミント・シロップを使ったイタリア流のカクテルも実際に存在する。それは後ほどお教えしよう。

さて、このシロップを知ったのは、数年前のことだ。ある年の7月、約15年ぶりに、サルデーニャ島の南部の大都市カリアリに住む、留学生時代の友人シモーネ・ポルクさんに会いに行く旅に出た。せっかくなので北部のサッサリから入り、島を縦断して南のカリアリまで行くことにしたのだが、途中で鉄道のストライキに出くわし、中部の都市オリスターノからカリアリまではバスを乗り継ぐことになった。そのバスが、バスと呼ぶのもはばかれるオンボロなのだ。ワゴン車をふた回りほど大きくした程度のもので、床や側面は鉄板がむき出し。エアコンなどもちろんない。そこに、ストライキで行き場をなくした人たちがドッと乗り込んだものだから、その息苦しさといったら想像を絶する。東京の満員の通勤電車で、真夏にエアコンが故障した、と例えを考えたが、いやそれ以上だ。そこに、車酔いと船酔いが重なった感じ、とプラスしておきたい。

ともかく、予定より3時間遅れでようやくシモーネさん宅にたどり着いた僕は、疲れ果ててボロボロで、「脱走した囚人」とからかわれた。そのとき、シモーネさんと妹のカルラさんが、遊び半分で飲んでいた飲み物を僕にも分けてくれた。それがミントのシロップを炭酸水で割る、即席のノンアル・カクテルだ。氷を入れて飲むとさわやかだし、そこにレモンやライムなど柑橘系の果物を加えるとさらに刺激的。炭酸水の代わりに牛乳で割れば、甘くてまろやかなシェイクになる。

「僕たちが子供の頃、学校から帰るといつも飲んでた、懐かしい飲み物なんだ。これにいろんなものを混ぜてみるんだ。コーラとかファンタとか。ひどいのができると、二人で大笑いさ」

そこで私も、ミント・シロップを炭酸水で割って飲んでみた。これが驚きだ。ミントのさわやかな風味と炭酸の刺激が合いまって、疲れた体に軽やかにしみ込んでいくのだ。

「生き返った」

そう言って、もう一杯をガブ飲みすると、私は満ち足りてシモーネさんの部屋で、翌朝まで眠り込んでしまった。

ミント・シロップを使ったカクテルのレシピ

次の日の昼食前、シモーネさんが、このミント・シロップを使ったカクテルを作ってくれた。それはイタリアではポピュラーな食前酒で、Capogiro[カポジーロ]「めまい」という。レシピは簡単だ。

材料

  • アブサン 25ml
  • ミント・シロップ 小さじ1
  • レモン水 200ml
  • ライム(またはレモン) 小さく切ったもの
  • ミントの葉 好みで何枚か散らす程度
  • 好みで
上記の材料を混ぜ合わせるだけ。夏向きのアペリティフとして、ホームパーティーのオープニングにおすすめだ。まだ前日の疲れが残る私だったが、このカクテルのおかげで、体の隅々の細胞まで目覚めたように、元気を取り戻したものだった。

アブサンがヨーロッパで愛される理由

さて、このカクテルでユニークなのが「アブサン」というリキュールを使うことだ。この「アブサン」は、ニガヨモギなどをブレンドした薬草系リキュールで、かつては製造が禁止されていた。当時はヨモギに由来する成分が幻覚などを引き起こすとされたのだが、今は安全性が確保されて市販されている。もちろん、日本でも手に入る。これが禁止されていた時代、一時期この酒が脚光を浴びることになった。そのきっかけが、1860年代に起きたフィロキセラという害虫によるブドウ畑の甚大な被害。フランスが発端となったこの被害は、ヨーロッパ各国に飛び火し、ついには各国でワインが市場に出回らなくなる事態を招いてしまった。そこで密造されるようになったのが「アブサン」だった。「アブサン」はワインの代用として、酒好きの心の隙間を埋めてくれていた。ヨーロッパ人には忘れられない酒なのである。


※記事の情報は2017年9月5日時点のものです。
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