秋になったら絶対に飲みたい日本酒「ひやおろし」

日本酒と発酵フレンチのお店「SAKE Scene〼福」を経営する日本酒ラヴァー、簗塲友何里(やなば ゆかり)さん。家で飲む日本酒の魅力と楽しみ方を、ゆるりと綴っていただきます。今回は、秋限定ででまわる日本酒「ひやおろし」の楽しみ。

ライター:簗塲友何里簗塲友何里
メインビジュアル:秋になったら絶対に飲みたい日本酒「ひやおろし」

ひやおろしって何でしょう?

待ってました! 日本酒の味わいが引き立つ良い季節、秋の到来です! 収穫の秋には、日本酒にぴったりの食材がたくさん出回ります。そんなごちそうに合わせたくなるのが、円熟な旨味が口内で広がるおいしいお酒「ひやおろし」です。

ひやおろしとは、冬から春に出来上がったお酒に一回火入れをして発酵を止め、涼しい蔵に貯蔵してひと夏をかけて熟成させたお酒。蔵の中の温度と外の気温が同じぐらいになる秋に、火入れをせずそのまま出荷する日本酒のこと。出荷直前の火入れをせず「冷や」のまま樽に「卸して」出荷したことから「ひやおろし」と呼ばれたそうです。日本酒ファンは、秋の風物詩、このひやおろしが待ち遠しくてたまらないのです。

夏を越す大切さ

秋に各蔵元から出荷されるひやおろしは、ラベルからも秋を感じさせる、温かみのある色合いが多いです。紅葉や月見、ススキなどなど、各蔵で日本の秋をイメージしてデザインされ、酒屋さんの店頭を彩ります。この「季節を感じられるお酒」というのも、世界中探してみても日本酒だけではないでしょうか?

ひやおろしは、蔵でゆっくり貯蔵される間に、アルコール分子のまわりを水の分子が取り囲み、アルコールの刺激を和らげます。そのため、丸く濃醇な味わいになります。また、温度が高いほど熟成が進むので、暑い夏を蔵で過ごすことでしっかりと熟成されるのです。

そして、落ち着いた濃醇なひやおろしこそ、冷や(常温)からお燗の温度帯で飲むにはぴったりです。特にお燗では、温度を上げることで、ふわっと味わいが丸くなり、心地良い旨味が広がります。

おすすめのひやおろし

今回は、私が経営するフレンチと日本酒のマリアージュの店、SAKE Scene 〼福に入荷したばかりの、「川西屋酒造店 丹沢山純米吟醸若水 ひやおろし」と「丹澤山 麗峰の秋麗」で実際の味わいを検証してみましょう。

川西屋酒造店は「食べ物との一体感」を信条に、酒が食べ物の旨味を引き出し、食べ物が酒の味わいを高めるといった調和を大切にされています。旨口の余韻の長い味わいが特徴的です。温度を上げても味わいが崩れないこちらの日本酒には、お燗酒の好きなファンの方が多いです。

「丹沢山純米吟醸ひやおろし」を味わってみましょう。まずは常温で口に含むと、旨味、丸み、コク、がしっかりと感じられ、その上にカスタードクリームや黒糖のような甘味が広がります。同時にしっかりまとまった凝縮感も感じられます。そして丹沢山の美しく透き通った伏流水の懐の深さも感じさせつつ、余韻が長く続いていきます。全てが綺麗に最高のバランスで溶け合い、秋の味覚へ誘ってくれます。これをお燗すると、さらに味わいが深まり、2次元が3次元へ変わるように奥行きが出て、複雑な香りと味わいがひしめく世界へ入って行けます。
丹沢山純米吟醸ひやおろし
「丹澤山 麗峰の秋麗」は、「丹沢山純米吟醸ひやおろし」に比べると、もう少し力強くパワフルさがあり、紅葉のオレンジがかった赤や、落ち葉の茶色のイメージが湧いてきます。黒糖のような凝縮した味わいは、深い秋の情景や力強い夕日の景色に、ゆっくりと溶け込んで行くようです。こちらは、2回火入れなので、「ひやおろし」とは表示されていませんが、夏にじっくり熟成されたひやおろしの特徴をしっかり持ち、秋にぴったりの日本酒です。
丹澤山 麗峰の秋麗
この美味しいお酒たちに何を合わせましょうか? 焼き秋刀魚?焼き栗?みたらし団子? 私は、シイタケの炭火焼きを合わせたいです。程よく出たシイタケの凝縮した出汁のシンプルな味わい深さ。ゆるゆると、ひやおろしに向き合うには、最高のおつまみではないでしょうか?

秋の日本酒を楽しみましょう

秋の家飲みは、ゆったりと優しいお燗に包まれ、ひやおろしをまったりと。日本の秋を感じながら、今年もすでに冬に向かって秒読みを始めたな、と夜長にゆるゆる思いふけりたいものです。
今宵も、秋の味覚とひやおろしのお燗がエンドレスに秋の夜長を彩ります。

※記事の情報は2017年9月20日時点のものです。
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