バーと上手に付き合うには【前編】<お酒のたしなみ入門⑤>
お店の「チャージ料」って、なんのためにあるのか? そんな話題を切り口に、バーテンダーの林伸次さんが「バーの選び方」「バーの楽しみ方」についてお話ししてくれました。
チャージは「大人の社会の入場料」と考える
「チャージ」みんな嫌いですよね。だから自分のお店では導入するつもりはなかったのですが、成功している先輩の言葉だったので、素直に従い「500円」チャージをいただくことにしました。これは成功しました(※現在はbar bossaではチャージを設定していません)。 というのは僕が開店した当時は「カフェブーム」で、bar bossaをカフェだと思って入る若い人が多かったんです。例えば学生の方が来店して、600円のビールを1杯注文して、1時間くらい音楽の話をして、彼がお会計の時に1000円札を用意しています。僕が「チャージが500円で、お会計は1100円です」って伝えますよね。その学生の方、びっくりして二度と来店しないんです。
バー経営者としましては、「チャージ500円なんて別に全然気にならない」って思っている客層を設定しているわけです。「500円のチャージが高い」と感じる学生さんのたまり場にはしたくないわけです。
例えば、銀座のバーは大体チャージが2000円です。カクテルも1500円くらいからです。カクテルを2杯飲んで、お会計が5000円です。でも、銀座のバーに通う人は「チャージ2000円を高い」と思っていないんです。そういう感覚の人たちが「集う」場所なんです。
だから、来ている客層が全然違います。有名企業の社長や作家なんかもたくさんいます。そしてあなたがもし、そういう銀座のバーに集う人たちと会話をしたかったら、逆に言うと、「2000円払えば知り合って話せる」んです。チャージってそういう、「大人のコミュニティ」に入っていくときの「入場料」なんです。
だから、あなたはバーを選ぶとき、「どういう層が集まるバーでお酒を飲みたいのか」というのを考えるべきです。もちろんチャージがない外国人が集まる立ち飲みバーが好きな方もいるでしょう。青山や麻布のチャージ1000円くらいの業界人が集まるバーで飲みたい方もいるでしょう。「チャージは大人の社会に入る入場料」です。
メニューとバーテンダーの服装に注目する
シングルモルトがたくさんあるお店なのか、果物を使ったカクテルが美味しいお店なのか、それとも、一通りなんでもあって、どちらかと言えば、雰囲気を楽しむお店なのか、あるいはレコードをかけていてみんなはそれを目的に来ているのか、そういうのを確かめましょう。やっぱりお店の人が「お客様にはこれを飲んでほしい」っていうものを注文した方が「そのお店の良さがわかる」し、お店の人とも仲良くなれます。
もしバーテンダーの服装がわかれば、それもチェックしましょう。
白いジャケットやコート、そして蝶ネクタイ、髪の毛がオールバックであれば、いわゆる「オーセンティックバー」です。ちょっとお高いですが、接客は一流ですし、ウイスキーもカクテルもどれもが確実に美味しくいただけます。こういうバーは、隣の人とはバーテンダーさんに紹介されないかぎりは話しかけてはいけないというお店も多いです。もちろんナンパなんて違反です。
ベストに白いシャツにネクタイ。これは色んなお店があります。僕のお店もこのタイプです。ちょっと大手が経営している普通に使いやすい常連さんもたまっていないバーという場合もあれば、実はほぼ常連さんだけで上のオーセンティックバーよりもすごく敷居が高いお店もあります。
ジーンズでノーネクタイ。これはカジュアルです。こういうバーの場合は例えば「出版関係が集まるバー」とか「ロック好きが集まるバー」とか、「近所の人が集まってたまに花見なんかにもみんなで行くバー」といった個性的なパターンが多いです。そして「全員がボトルを入れている」とか「お客さんがマスターに一杯おごっている」とか、そういう「そのバー独特のルール」がある場合が多いです。前もって調べておくか、入店してからもどんな人たちが常連なのか気にした方が良いです。
お店の人との自然な会話がバーを楽しくする
いやこれ、もちろんお客様なので、どういう風に振る舞ってもらってもバーテンダーとしては構わないんです。でも、例えば「メイカーズ・マーク」というバーボンがあるのですが、これを「マーカーズ・マーク」と呼ぶ方がいるんですね。すごく困るんです。「メイカーズ・マークですね」って指摘してもその方が恥をかくわけですし、「こちら、マーカーズ・マークのオンザロックになります」とも言えないわけですし、困ります。出来る限り、「知ったかぶり」はしない方が良いです。「これは何ですか?」ってどんどん知らないモノを質問した方がバーは楽しいです。
どういう経緯でこのバーに来たのかを伝えた方が良いです。
例えば、「友達で編集者の森高さんって人にすすめられて」という場合はこちらも安心しますし、「ネットで検索して良さそうだったので」って感じで正直に言ってもらっても助かります。バーテンダーとしては、「どういう理由で来たのか」っていうのを手がかりに接客します。どこかのタイミングで言ってもらうと色んなことがスムーズになります。
(次回のコラムに続きます)
※記事の情報は2019年3月26日時点のものです。
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