【日本泉酒造(岐阜県)】一年中新酒を搾る日本酒蔵を訪問!

JR岐阜駅のすぐ目の前。14階建てのビルの地下で四季醸造を行うユニークな日本酒蔵、それが日本泉です。一年を通して新酒を搾る、全国でも珍しい醸造スタイルをしかと拝見! じっくりお話を伺いました。

日本泉の醸造所は なんと駅前の真ん前地下一階

日本泉ビル
JR岐阜駅の真ん前にある日本泉ビル。この地下に日本酒蔵が…
世の中には、いろんな立地の日本酒蔵がありますが、都会の駅の真ん前、しかも地下! というのは初めて拝見しました。まずはその立地にびっくり。

14階建てのテナントビルの名前は「日本泉ビル」。1Fに入居するアニメグッズの有名店を横目に、地下へ降りると、ガラス越しにこぢんまりとした酒蔵が見えてきます。
こぢんまりとした地下の蔵
こぢんまりとした蔵。一年中酒造りが行われている

地下だからこそできる日本泉の酒造り

コンクリート打ちっぱなしのモダンな試飲室で取材班を待っていてくださったのは、日本泉の専務の武山孝広さんと、常務の武山昌平さんのご兄弟。兄弟二人三脚で、蔵の運営、製造、販売を切り盛りしています。

お馴染み、名古屋の酒問屋イズミックのチーフバイヤー&ソムリエの青田俊一さんをインタビュアーに、お話を伺いました。
イズミックの青田俊一さん、造り担当の専務、武山孝弘さん、販売担当の常務、武山昌平さん
(左から)イズミックの青田俊一さん、造り担当の専務、武山孝弘さん、販売担当の常務、武山昌平さん
青田:そもそも、駅前の地下で日本酒を造るようになった経緯を教えてください。

武山(孝)日本泉の創業は江戸末期で、ここから少し離れた茶屋新田という場所で酒造りをしていたんですが、明治の初めに、水が豊富なこのあたりに引っ越してきたそうです。

武山(昌)このあたりは、清水町という地名のとおり、水質がとてもいいんです。

武山(孝)それで、17年ほど前に、岐阜駅前の再開発が持ち上がりました。その時他の場所に移ることも選択肢にはあったんですが、家族会議で話し合いまして、ビルにして、規模を小さく、しかも他社にはない特色のある酒造りをしようということになりました。
櫂入れの作業
櫂入れの作業
青田地下で醸造するとどんなメリットがあるんでしょうか?

武山(孝)まず、温度が安定していることです。夏でも20度前後で安定しています。このメリットは四季を通じて醸造できるということです。はじめのうちは秋、冬、春の三季醸造だったんですが、現在では四季醸造を行っています。ビルの地下で規模も小さく一度にたくさんは造れないんですが、そのかわり、四季醸造で一年中造る、と。
蒸し米の作業
蒸し米の作業。醸造所いっぱいに上記の湯気がたちこめる

一年中新酒を搾る

四季を通じて醸造できるということは、四季を通じて新酒ができるということ。

通常は新米が収穫される秋から寒い冬にかけて日本酒造りが行われ、新酒はその時期しか飲めません。日本泉さんの最大の特徴は、四季を通じて「絞りたてのフレッシュなお酒」を提供できるというところにあります。

武山(昌)普通は冬だけの搾りたての新酒を、四季を通じて提供したい。本来なら、絞りたての酒というのは、蔵人だけが味わえる希少なものなんですが、それを商品化しようと思ったわけです。

青田:蔵人の特権だったわけですね。

武山(昌)そうなんです。その希少な酒を一年中楽しんでいただきたいと。

武山(孝)うちのように四季醸造だと、一年中いつでも酒が造れるわけです。なので経験値が貯まりやすいというか、いろんな試みが一年通じてできるので、そこも強みだと思います。新しい酵母が出たら、すぐに小さく造っていろいろ実験するとか、麹の造り方を変えてみるとか。通常の蔵では、また来年、となってしまうところが、うちではすぐにいつでも試せるんです。
醸造桶
発酵を終えたもろみ。これを搾れば新種になる

日本泉の酒に宿る超軟水のまろやかさ

青田:日本酒にとっては、水はとても重要ですが、こちらの仕込み水はどんな特徴があるんでしょう。

武山(孝)ここの地下100mから汲み上げている水で、長良川の伏流水です。超軟水で、高度は1.7から1.9、とってもまろやかな水です。環境省の名水百選にも選ばれています。

武山(昌)このビルの水は、全部、この水なんです。お風呂のシャワーもこの名水(笑)。

青田:それはすごいですね。贅沢。

武山(孝)それと、この水で金魚を飼うとやたらに長生きするんですよ(笑)。

青田:へえ!

日本泉が木槽(きぶね)にこだわる理由

木槽(きぶね)
今では全国的にも珍しい木槽(きぶね)で、すべての酒を搾っている
取材の日、ちょうど上槽(じょうそう=日本酒を搾る作業)作業が行われていたので、見学させていただきました。醸造所の入り口付近に設置された、木製の槽(ふね)を使い、昔ながらの方法でじっくり搾るのが日本泉のスタイルです。搾った酒がしたたり落ちる槽の出口を「ふなくち」と呼びますが、日本泉のキャッチフレーズ「ふなぐちとり」はそこから付けられました。

まず、もろみを「酒袋」という布の袋に入れ、それを木槽の中に並べ、重ねていきます。そして、上から木槽の落とし蓋と重石を乗せて、じっくり搾ります。したたり落ちる酒を桶で受け、ポンプでタンクに運びます。
木槽の中に、もろみを入れた酒袋を並べていく
木槽の中に、もろみを入れた酒袋を並べていく
青田:木製の槽、初めて見ました!

武山(孝)うちではすべて、木槽で搾っています。これを使うと一回の仕込み量を搾りきるのに3日ぐらいかかるんです。効率的ではないんですが、ゆっくりゆっくりしぼりますので、きれいな酒質の酒になります。
「ふなくち」。じっくりとしみ出すようにお酒が出てくる
これが「ふなくち」。じっくりとしみ出すようにお酒が出てくる。
武山(昌)四季醸造ということだけではなくて、昔ながらのていねいな手仕事の良さも大切にしたいんです。そこで木槽にこだわっています。

大吟醸を真夏に造る贅沢

青田:ところで、四季醸造ということで、気になっていることがひとつあります。冬場以外の仕込みでは、お米は新米じゃないわけですよね、そのあたりで、酒質に影響などはないんでしょうか?

武山(孝)気温があがってきたら、米は冷蔵庫で保管しますから、品質的にはまったく問題ないですね。それと、蒸した掛け米を冷やす設備があるので、夏でも大吟醸の仕込みができるようになりました。低温でじっくり発酵させることができるようになったわけです。
蒸し米を冷やす設備
最近新設した、蒸し米を冷やす設備。これがあることで、夏場でも大吟醸を造ることができる
武山(昌)今まで、夏場は大吟醸は造れなかったんですが、ぜひ、実現したかったんです。夏に出来たての大吟醸をぜひ飲んでいただきたい、という思いがありました。

日本泉「ふなくちとり」を味わう

日本のお酒
木槽のふなくちから、名付けられたキャッチフレーズ「ふなくちとり」。ふなくちから出た、そのままのお酒を瓶に詰めています。さっそくいただいてみました。

吟醸にごり原酒 ふなくちとり

日本泉 ふなくちとり
1本めはにごり酒。もろみをざるでやさしく漉したお酒です。お米を潰さずに残しました。精米歩合は60%、もちろん完全なる生酒です。
無濾過無火入れのラベル
青田:にごりだけど、すごく香りがいい。にごり酒でこれだけ香りが立っているのはあまり無いと思うんですが……。(飲んで)ああ、おいしいですね。

武山(孝)最近岐阜で開発された最新のG2酵母を使っています。アルコール度数は18度あります。

青田:本当ですか? とても18度もあるようには感じないですね。

武山(孝)(笑)そういったお酒を目指しました!

日本泉 純米吟醸無濾過生原酒

日本泉 純米吟醸無濾過生原酒
本来蔵人しか飲めない搾りたての純米吟醸をそのまま製品化したもの。日本泉の代表的なお酒です。
純米吟醸無濾過生原酒を盃にそそぐ
青田:(飲んで)あー、まろやかですね。おいしいです、すごい。口当たりがすごく軟らかいですね。水が超軟水だからかなあ。

武山(孝)アルコール度数は原酒ですので、17度あります。

武山(昌)スーパーフレッシュ。この鮮度のお酒を一ヶ月で入れ替わるように仕込んでいるんです。常にフレッシュさを保って、常に搾りたての状態でお飲みいただいています。

日本泉 純米大吟醸無濾過生原酒

日本泉 純米大吟醸無濾過生原酒
山田錦を精米歩合35%まで削って醸した大吟醸酒。これももちろん無濾過生酒。岐阜県の品評会で入賞した銘酒です。
試飲中の青田さん
さすがの青田さんも、ただただうなずくばかり
青田:(飲んで):あー、スッキリしてる。

武山(孝)こういうレベルの酒を、夏場でも造れるんです。

青田:なるほど! こういう、大吟醸の無濾過生は、蔵に行っても飲めるところが少ないじゃないですか。それを普通に買えるというのがすごい。おいしいです。おいしい以外にもう、コメントが出てこないっすね(笑)。

仕込み水も試飲

仕込み水は、日本酒の味わいに大きく影響します……ということで、仕込み水もいただいてみることにしました。地下100mの井戸から汲み上げた名水、硬度1.7から1.9という超軟水です。

青田:(飲んで):おいしいですね、すーっと入ってきます、水が。この水の風味がお酒にすごい活かされているんですね。

武山(孝)そんなに深く掘らなくても十分良い水なんですが、よりよい水を、ということで100m、掘っています。

青田:駅の目の前で、この水が出るというのがスゴイですね。

四季醸造 日本泉の兄弟船!

武山兄弟
日本泉では、兄の孝広さんが醸造責任者、弟の昌平さんが販売を担当しています。最後に、今後造っていきたい日本酒について伺いました。

武山(孝)とにかく酒質の高いお酒を造りたいですね。理想は軟らかいお酒で、なおかつ軽やか、味はきれい、という。

武山(昌)今、若い人の日本酒離れが進んでいるので、若いお客様においしさを伝えていきたいですね。兄とも意見交換しながら、若い人にアピールできるお酒を追求していきたいです。
酒米の仕込み
四季醸造なので蔵見学にいけば何からの作業を見学出来る可能性が高い
武山(孝)酒蔵見学も、試飲も随時やっておりますので、ぜひ皆様お越しください。2、3日前に予約していただければ結構です!

青田:JR岐阜駅、西口出てすぐ! 日本一駅近の酒蔵見学ですね。新幹線に乗る前に、フレッシュな日本酒をちょい試飲! なんていうのも楽しいかもしれませんね。


※記事の情報は2019年9月22日時点のものです。
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