子豚の丸焼、ヤギ3頭、サンミゲルで乾杯! フィリピン「フェスタ」の家飲み事情

平時なら世界中から観光客が訪れるリゾートで有名なフィリピン・セブ島。コロナ禍のいまは訪れる外国人もいない、静かな毎日がまだ続いています。そんななか地元の人に招かれた「家飲み」の様子を、フィリピン在住の日本人がレポートします。

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コロナ禍を経て町の「フェスタ」が復活

私はフィリピン・セブ州、セブ島と橋で繋がったマクタン島のリゾートホテルで、スクーバ・ダイビングのインストラクターをしています。これまでフィリピンをベースに、日本との間を行ったり来たりしてきましたが、コロナ禍になってからはずっと日本に帰っていません。一時は酒類の販売も完全に禁止となっていたフィリピン・セブ州ですが、ようやく新規感染者も減り、ロックダウンの規制も徐々に解除されてきました。そんななか、普通の生活に戻れる日も近いのではないかという希望を感じさせてくれた、「フェスタの日の家飲み」の様子をレポートします。

コロナ禍はフィリピンも例外なく襲いました。セブ州はいま(2021年5月)なお州をまたぐ行き来に関してはチェックがかなり厳しく、ほぼ鎖国状態です。当然のことながら観光産業は大打撃を受けていて、マクタン島のリゾートが稼働するのは週末と祝日のみ。お客さんはセブ市などからやってくる比較的裕福な層と在住外国人だけという限定的な営業になってしまいました。従業員もほぼ雇い止めの状態です。
 
festaの垂れ幕
そんな5月のある日、私が勤めるリゾートのある町内で年一回の恒例「フェスタ」が開催されました。昨年はコロナ禍で全面的に禁止になりましたが、今年は新規感染者が少数になったこともあり、フェスタ開催が州政府に許可されたのです。

フィリピンには「バランガイ」といわれる、日本でいえば市町村のなかの「○○町」くらいの単位の町があります。各バランガイに必ずあるのがカトリックのチャペルで、一年に一度、そのチャペルを中心にしたお祭り「フェスタ」が開催されます。どのチャペルも同じ日にやるのではなくて、順繰りにフェスタをする場所が移動します。毎週どこかでフェスタが行われているわけです。

「フェスタ」の日は自宅でゲストをもてなす

フェスタの日、チャペルに隣接した広場は急ごしらえのディスコになって、みんなで踊ります。周囲には子供向けのおもちゃ屋さんが並びます。大人向けに用意されるのはカジノ、つまり賭博の屋台です。日本の神社の盆踊りの風景とも似てますが、ひとつ違うのは、広場に食べものの屋台が出ないことです。
おもちゃの屋台

食べものは、各家庭が腕を振るって料理して、自宅のパーティーに他の町のお客さんを招くというスタイルなのです。招かれた人たちは、その町に住む知り合いの家を何件もハシゴします。知り合いの知り合いの家も巡りますから、数人で出かければ何件も渡り歩くことになります。

セブではこの4月くらいからレストランやバーでの飲酒が解禁になったものの、まだディスコなど派手に騒ぐ類いの店は営業できません。ですが、フェスタの家飲みなら問題ありません。通常の年なら私も職場の同僚数人とフェスタに繰り出して4〜5軒の個人宅をハシゴします。しかし仕事もままならない今年は、経済的な事情でパーティーを開催できない同僚が多く、残念そうにしています。それでも、同僚のパキットとジュリーがそれぞれパーティーをやるというので、彼らの家に行くことになりました。

広場に行ってみると、ディスコとカジノは許可が下りなかったようでやっていません。おもちゃ屋さんだけが寂しそうに営業しているのを横目に、まず、パーティーの準備をしているパキットの家を訪ねて、料理しているところを見せてもらいました。

豚が2頭とヤギ3頭を豪快に料理する

パキットのパーティーは、近所に住む兄弟たちとの共同開催。パキットの親族は警察官が多く、収入も安定しているとのことです。どの国でも公務員は強し、ですね。親戚一同が協力してものすごい量の料理を作ってました。
親戚一同で料理をする
豚は70kgと60kgの2頭。ヤギが3頭。魚はバラクーダと大型のアジです。これらをものすごいスピードで捌きます。そんなにたくさん食べ切れるのかと心配になりますが、フィリピン人はいつでも料理を多めに作ります。ホストにとって、パーティーに食べ物がなくなってしまうのはすごく恥ずかしいことなのです。ゲストの皿が空になったらどんどん次を勧めるのが礼儀です。だからゲストの側も、ホストを(と自分の胃を)気づかって、自分の皿に食べ物を少し残しておくのが常です。
バラクーダ

レチョン(子豚の丸焼き)がないと始まらない

レチョン(子豚の丸焼き)
次にジュリーの家に行きました。こちらもパーティーの準備中。メインディッシュのレチョン(子豚の丸焼き)は、今回はお店で購入したものでした。子豚に竹の口からお尻に竹の棒を通して、ゆっくり回しながら炭火で焼きます。焼き始めは遠火で、時間をかけて焼きます。外が焦げてしまっては中まで火が通りません。レチョンはフィリピンのパーティーには欠かせない料理です。

トマト味のシチュー「アプリターダ」

アプリターダ
アプリターダはフィリピンのシチューです。基本的に日本のシチューの作り方と同じ。豚肉と野菜を別々に炒めます。野菜は赤玉ねぎ、赤ピーマンと豆入りのトマト缶、にんにく。豚肉と野菜を一緒にして、トマトベースのシチューペーストを加えて煮込みます。
アプリターダの調理

絶品のもつ煮込み「パックライ」

パックライ
パックライは日本で言えば「もつ煮込み」です。材料も作り方も、日本のもつ煮込みとだいたい同じで味も似てます。ただ調味料は違います。日本のみりんと酒の代わりに、ジュリーの奥さんはパイナップルを使っていました。味噌の代わりはしょうゆです。離れた国の料理なのに似たような感じになってしまうのは不思議。内臓料理は結局これに収束するのでしょうか。

フィリピンのビールといえばサンミゲル

サンミゲル
まだ昼で宴会は始まっていませんでしたが、ジュリーがビールを出してくれました。フィリピンで最も一般的なブランド「サンミゲル」です。いろいろバリエーションもありますが、これはピルセンと呼ばれている定番品。冷えていないビールに氷を入れて飲むのはフィリピンではごく当たり前の作法です。もつ煮込みのパックライをつまみにして飲みます。これがまたよく合うのです。パックライは私の大好きなフィリピンフードです。

フィリピン人の考える「イイ天気」とは?

ジュリーと奥様
このお二人がジュリーと奥様です。ジュリー自身は酒を飲まず、ゲストとひたすら話し込んでいます。彼は日本に何度も行ったことがあって、いつも池袋のサンルートホテルに泊まるそうです。去年は家族で日本を訪れる予定でしたが、中止になってしまい残念がっていました。
 
並べられた料理各種

話はちょっと逸れますが、ジュリーはこの日、空を見上げて「今日は珍しくイイ天気になって良かったな」と言ってました。朝方こそ少し晴れ間もありましたが、昼ごろにはどんよりとしたくもり空になっていたのにもかかわらず、です。実はフィリピン人にとって、こんな曇天が「イイ天気」です。よほどの変わり者でない限り、みんなこれが好きなのです。

日本人の皆さんは、フィリピン人が「ハイシーズン」と呼ぶ1〜2月にセブ島を訪れるのは要注意です。毎日のように曇り空が続き、マクタン島では風も強く、がっかりするかも知れません。1〜2月はあくまでもフィリピン人が考えるハイシーズンなわけです。

日本人がセブ島を訪れるなら、晴天が続くこちらの「夏」、つまり3〜5月がベストかと思われます。「雨期」にあたる6~8月、11月あたりも意外といいシーズンです。日本人のお客様が、雨期だと気づかなかったり、あるいは「雨期なのに毎日天気が良くてラッキーでした」と喜んで帰られることがあります。ホントのところラッキーだったわけではありません。フィリピンの雨期は日に1、2回、主に夕方から夜にかけて短時間バケツをひっくりかえしたような雨が降るだけで、昼間はたいてい晴天です。日本の梅雨のように一日中降っているようなことはあまりないのです。

アルコール度数8%のレッドホースビールで歓待

パキット兄弟
パキット兄弟の宴会準備が整ったということなのでそちらに移動。着くなりレッドホースビールのグランデ(大瓶)と、パックライで迎えられました。

レッドホースビールはアルコール分が8%もあり味も濃いビールです。これを一個のグラスを使って代わる代わる回し飲み。日本でも杯を順番に回す慣習がいろいろな地方にありますが、フィリピンのこれは「タガイ(tagay)」と呼ばれ、仲間内で飲むときの飲み方です。コロナ禍のフィリピン全土で酒の販売が禁止されたのは、これが理由だったとも聞いています。仲間の結束や友情を深める習慣は、なかなか変わりません。
 
ビュッフェスタイル
食事はいわゆるビッフェスタイル。ステンレスの保温ディッシュに盛られている料理の中から好きなものを選びます。

豚とヤギはこうなりました

フンバ
これはフンバという豚肉の煮物です。
 
カルデレータ
カルデレータ。昼に木に吊るされていた山羊がこういう煮込み料理になりました。羊肉っぽい味と匂いですが、よく煮込んであるので匂いはさほどきつくありません。固いコンビーフをハヤシライス風味にした感じです。美味しい。

スペイン産ブランデー「フォンダドール」

スペイン産のライトブランデ―「フンダドール」(FUNDADOR)を飲む
こちらのテーブルでは、スペイン産のライトブランデ―「フンダドール」(FUNDADOR)を飲んでました。ライトブランデーは、フィリピンではロックやコーラ割りにして飲むのが普通です。アルコール度数はライトなので20度。ライトではないアルコール度数40度のボトルもあります。それを水割りにして飲めばいいような気がしますが、フィリピンには水割りの習慣はありません。
 
 レモン風味のサンミゲルビールというのもあります。主に女性に好まれています。他にアップル風味もあります。

来年こそ、いつもの「フェスタ」を!

パキットと奥様
パキットと奥様。彼の家は眺めのいい川岸にあります。彼は去年の5月もここでフェスタのパーティーを開催したと言っています。去年の今ごろマクタン島は最高レベルの厳格なロックダウン中で、外出さえ完全に規制されていたはずなのに。酒も販売されていなかったのですが、それでもやったというのはすごいです。

日が暮れるころには両家ともゲストが大勢詰めかけていました。でもやはり盛り上がりは例年のようにはいかないようです。私は酔いがまわり、なんだかよく分からなくなってきました。とにかく、来年こそはマクタン島に世界中から観光客の皆さんが来て、フェスタも通常通り賑やかに開催されて、ここに暮らすみんなが楽しく飲めることを、心から祈っています。
 
サンミゲル ペールピルゼン
※記事の情報は2021年5月27日時点のものです。
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