【ラム酒】世界を旅する酒? その魅力や飲み方、おすすめ銘柄を専門家に聞きました
いまや世界中で造られているというラム酒。いったいどんな魅力をもったお酒なのでしょうか? ラム誕生の歴史的背景に触れながら、原料・製法や種類、家でもできるカクテルなどおすすめの飲み方をご紹介します。
日本ラム協会の理事をお務めで、東京・池尻大橋にあるラム&カシャッサ専門バー「BAR Julep」のオーナー、佐藤裕紀さんにラムについてお話を聞きました。
【ラム酒とは?】世界とカルチャーにリンクした、多様な表情をもつ蒸留酒
―ラムというと「キューバを代表するお酒」という印象があるのですが、そもそもどういったお酒なんですか?
佐藤:ラムってキューバ以外にも、実は世界各国、南極大陸以外のすべての大陸で造られている蒸留酒なんです。造る国によって風土や文化、造り手の嗜好性は異なりますから、ラムと一口に言ってもすごく多様性に満ちている。だから世界中のラムを飲んでみると、まるで旅しているような気分を楽しむことができます。
例えばラムのなかには、ウイスキーやブランデーのように熟成年数の違いを楽しむことができるものもあるので、ストレートやロックで味わってもいい。一方で、ジンやウォッカと並ぶカクテルベースの代表的存在でもあり、国ごとにいろんなラムベースのカクテルが生まれています。
―葉巻と一緒に楽しむイメージもありますよね。
佐藤:葉巻もそうですが、ラムのメッカであるカリブの島々ではレゲエやサルサなどの音楽をはじめ様々なカルチャーとラムがリンクしています。ラムそのものに向き合って飲むのも、もちろん良いのですが、音楽やダンスなどその土地に根付いた文化と融合している感じ。ちょうど沖縄の人にとっての泡盛と沖縄料理や沖縄民謡のような結びつきです。
おそらくラムがカリブ全域に広まっていったときから、現地に暮らす人々の気質として、そういうものを全部ひっくるめて楽しんでいたんだと思うんですよね。そういうカルチャーとの結びつきもこのお酒の面白いところだと思います。
【ラム酒の歴史】始まりはコロンブスが持ち込んだサトウキビの苗
―今では世界各地で造られているということですが、もともとはどこで生まれたお酒なんですか?
佐藤:カリブ海の西インド諸島です。
ラムの原材料であるサトウキビは、15世紀に入りスペイン領のカナリア諸島でも砂糖作りのために栽培されるようになりました。そのカナリア諸島産のサトウキビの苗を、コロンブスが1493年の2回目の航海のときにカリブ海のエスパニョーラ島に持ち込んで植えたのが始まりです。
―その目的はやはり砂糖作り?
佐藤:はい、砂糖プランテーションを広げるためです。当時砂糖はとても価値があったため、その後スペイン以外にも、イギリスやフランスといったヨーロッパ諸国が領土をめぐって争うようになり、カリブ海の島々に砂糖プランテーションを広げ、そこではアフリカからの奴隷たちが強制労働をさせられていました。
その後、カリブ海の島々に各国の蒸留技術が持ち込まれてラムの質が向上していくと、ラム自体が地域での消費に加え、後に価値ある貿易品として輸出されるようになります。
18世紀後半、ラムの輸送にはコスト的にも地理的にも利便性のあったアメリカのバーボン樽が多用され、長い航海の間に熟成ラムが誕生しヨーロッパで好評を受けます。
―面白いバックグラウンドをもったお酒なんですね。
佐藤:いろんな国の歴史や文化、偶然が絡んだ複雑な生い立ちをもつお酒です。
でもそのおかげでというか、ラムには「こうあるべし」という確固たる定義や厳格な規則が比較的少ないです。自由度が高いお酒、と言ってもいい。今のように世界各国で造られるようになったのは、こうした自由度の高さも関係しているでしょうね。
【ラム酒の原料】サトウキビから生まれる3タイプの原材料
―今でも、ラムはサトウキビの糖蜜から造られているんですか?
佐藤:サトウキビを原料にし発酵・蒸留・熟成させたもの(※熟成させないものもある)がラムであることは、昔も今も変わりません。
1つは「トラディショナル」製法。その名の通り伝統的な製法で、「糖蜜」を原材料とします。糖蜜とは、サトウキビジュースから砂糖を作る際に結晶化せずに残った蜜のこと。
糖蜜は冷蔵保存が可能で年間を通してラムを製造することができます。世界中で造られているラムの9割以上がこの製法を採用しています。
2つめが「アグリコール」製法。サトウキビジュース100%を原料とする、もともとはマルティニークやグアドループなどフランスの海岸県で確立した製法なんですが、今では他地域にも広がってきていますね。
フレッシュなサトウキビジュースをそのまま原材料として使っているため、サトウキビの風味や植物香などをしっかり生かすことができます。ただしサトウキビジュースは搾り置きできないため、サトウキビの収穫期である乾季にしかラムを製造できません。
3つめが「ハイテストモラセス」製法。サトウキビジュース100%を加熱しシロップ状にしたものを原料とします。トラディショナルとアグリコールのいいとこどりのようなハイブリッドな製法で、サトウキビ本来の風味を保ちつつ、冷蔵保存も可能なので年間を通じでラムを製造することができます。
出典:日本ラム協会「ラム酒大全」誠文堂新光社
【ラム酒の種類】製法、熟成、宗主国によって味の傾向は枝分かれする
―自分好みのラムを見つけるには、何を基準にしたら良いですか?
佐藤:ここがラムの面白いところで「もっと知りたい!」という欲求をくすぐる部分でもあるんですが、ラムは世界に4万銘柄以上あり分類方法も多く、なかなか「このタイプだからこういう味」と簡単に言えないところがあります。
その中でもラムを選ぶのに知っておくと役立つ代表的な分類方法として、「製法」「熟成」「宗主国」の3つがあります。
「製法」による分類というのは、先ほどお話した「トラディショナル」「アグリコール」「ハイテストモラセス」で、サトウキビをどう処理するかで味の傾向が変わります。
「熟成期間・熟成方法」による分類では、「ホワイトラム」「ゴールドラム」「ダークラム」に分かれます。サトウキビを発酵・蒸留した後、基本的に熟成させないものが「ホワイトラム」、樽で3年未満熟成させたものが「ゴールドラム」、3年以上熟成させたものが「ダークラム」。見た目の色でだいたいどのタイプか判別できるので、わかりやすいと思います。
あと熟成とは違いますが、「スパイスドラム」や「ラムリキュール」「ラムパンチ(漬けラム)」といったジャンルもあります。これらはもともとラムにその土地のスパイスやハーブ、フルーツを漬け込んでいたもので、カリブの島々をはじめ、その風習が今でも残っています。
「宗主国」による分類というのは、主に「スペイン系(Ron)」「フランス系(Rhum)」「イギリス系(Rum)」の3タイプなんですが、この差というのは植民地時代の宗主国、つまり支配していた側の国の蒸留酒づくりの製法や嗜好性がその植民地に踏襲されたことで生まれたものであり、それぞれスペルも異なります。
例えばイギリス系だとブレンデッドウイスキーのブレンド技術、フランス系だとブランデー・コニャックの製法、スペイン系だとシェリーやシェリーブランデーの製法です。
なのでイギリス系のラムというのはウイスキーのように、基本的にボディが厚めでしっかりした味わいのラムになる傾向があり、フランス系のラムはブランデー、コニャックのように香り豊かで繊細な味わいのもの、スペイン系はシェリーのようにライトで甘く飲みやすいもの、という風に傾向が分かれていきます。
―なるほど、1つの基準でも味が異なるので、基準が3つになると味の傾向がさらに広がるということですね?
佐藤:そうなんです。例えば「ホワイトラム」と言っても、アグリコール製法で造られたものであればサトウキビの風味が生かされた味わいになりますが、トラディショナル製法で造ったものだと逆に、カクテルベースとして使いやすいようクセを抜いていたりするものも多くあります。そこに宗主国による傾向も加われば、より味の特徴が枝別れしていくことになります。
このひとくくりにはできないバリエーションの豊かさがラムの面白いところなんですが、先ほどお話した「製法」「熟成」「宗主国」の3つ傾向を知るだけで、よりラムが楽しくなリます。
【ラム酒の飲み方①】ストレートやロックで味わう
―あとは実際に飲んでみて、自分好みのラムを見つけていきたいですね。
佐藤:ぜひ、必ず好みのラムに出会えます。まずはストレートやロックで飲んで、1つ1つのラムの味わいを知ってほしいと思います。
たとえばフランス系ラムの中でホワイト、ゴールド、ダークという風に、熟成期間ごとに飲み比べてみるのも面白いかもしれません。
―ストレートで飲む場合、どういったグラスがおすすめですか?
佐藤:これはあくまで個人的な意見になりますが、アグリコールのホワイトラムに関してはショットグラスで飲んだ方が、サトウキビの風味が凝縮されてすっと口に含まれるので好きなんですよ。
ブランデーやウイスキーに近い熟成したラムに関しては、こういうカーブがかったグラスやチューリップ型グラスなどを使った方が、香りが楽しめるのでおすすめです。
【ラム酒の飲み方②】カクテルで味わう
―ラムはカクテルベースとしても使われますが、家でもできるおすすめのカクテルはありますか?
佐藤:家飲みでラムベースのカクテルを作るなら、シェイカーを使わずにできるロングカクテルがおすすめです。
今回は、カリブでもよく飲まれている「モヒート」「ラムコーク」「クバニート」のレシピをご紹介しましょう。
■「モヒート」の作り方
佐藤:僕がモヒートを作るときは、キューバの代表的な銘柄「Havana Club」を使うことが多いですね。作家・ヘミングウェイもそこのモヒートを愛していたことで有名な「ラ・ボデギータ・エル・メディオ」というバーでもこの銘柄を使っています。作る時のポイントは、苦味成分が出ないようにミントの葉を潰しすぎないこと。あと、キューバでは微炭酸水で作るので、あえて炭酸を飛ばすようにステアすると現地の味に近くなります。
材料
- ホワイトラム 45ml
- スペアミントの葉 適量
- 砂糖 小さじ1.5~2杯くらい
- ライム 1/4個
- 炭酸水 適量
- 氷 適量
作り方
- ロングタンブラーに、スペアミントと砂糖を入れ、ライムを搾る。
- グラスに炭酸水をほんの少し注ぎ、すりこ木棒などでミントを潰す。
- ラムを注いで軽く混ぜ、グラスいっぱいに氷を入れてかき混ぜる。
- 炭酸水を注いで、下からかき混ぜるように撹拌する。ミントを飾る。
■「ラム・コーク」の作り方
佐藤:ラム・コークには、ライトで爽やかだけどコクのあるダークラムもおすすめ。今回はパナマの「Ron ABUELO」という銘柄を使いました。ラム・コークはカリブで一番良く飲まれているカクテルで、キューバでは「クバ・リブレ(キューバの自由)」として生まれました。もともと1902年のキューバ独立を祝し「キューバの自由」という意味を冠して生まれたカクテルで、キューバ産のラムとキューバ独立を後押ししたアメリカのコカ・コーラを組み合わせることで両国の連帯感を示した、と言われています。
ちなみにその後両国の関係は変わり、今キューバではコカ・コーラが手に入りません。なので現地のラム・コークには「TuKola」など地元のコーラが使われています。
材料
- ダークラム 45ml
- コーラ 適量(※ラム:コーラ=1:3くらいがおすすめ)
- ライムまたはレモン 1/4個
- 氷 適量
作り方
- ロングタンブラーに氷をたっぷり入れて、ラムを注いでステアする。
- ライム(またはレモン)を搾り、炭酸を飛ばさないようコーラを静かに注ぐ。
- 軽くステアしてできあがり。
■「クバニート」の作り方
佐藤:これも名前に「クバ(Cuba)」と付いていることからも分かる通り、キューバでは定番のカクテルです。なので、このカクテルにもよくキューバの「Havana Club」を使います。ポイントやウスターソースやタバスコ、黒コショウですが、現地では必ずしもこれらを使っているわけではありません。トマトジュースとライム果汁を使っていれば「クバニート」です。
材料
- ホワイトラム 30ml
- トマトジュース 120ml
- ライム果汁 1/4個分
- ウスターソース 少々
- タバスコ 少々
- 黒こしょう 少々
- ライムの皮 適量
- 氷 適量
作り方
- ロングタンブラーにライム果汁を搾り入れ、ウスターソース、タバスコ、黒コショウ、ラムを入れて軽く混ぜる。
- 氷をグラスに入れ、ステアする。
- トマトジュースを注いでよくステアし、ライムの皮を飾る。
ラム酒の世界、いかがでしたか?
「世界地図を広げて、ラムが造られた土地に思いを馳せながら飲む一杯は至福」と魅力を語ってくれた佐藤さん。
佐藤さんが理事を務める日本ラム協会では、毎年「JAPAN RUM CONNECTION TOKYO」というアジア最大級のラム&カシャッサフェスティバルも開催しています。ぜひラムに興味をもった方は足を運んでみてください!
※「JAPAN RUM CONNECTION TOKYO 2020」は4/19に開催予定でしたが、新型コロナウイルスの影響により延期となりました。今後の日程については決定次第、日本ラム協会公式HPにて告知される予定です。
この方にお聞きしました
佐藤 裕紀さん
東京・池尻大橋にあるラム&カシャッサ専門バー「BAR Julep」オーナー・バーテンダー。日本ラム協会理事のほか日本カシャッサ協会会長もお務めで、ラムやカシャッサの楽しさを体験できるイベントも多数企画。ラテンカルチャーにも造詣が深い。
住所:東京都世田谷区池尻2-34-16
電話:03-3422-7650
営業時間:[月〜土]19:00~翌4:00、[日]19:00~翌3:00
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