貴腐ワインは甘いだけじゃない! おすすめ銘柄とその魅力をバー店主に伺いました

「貴腐ワイン」といえば、甘口のデザートワインとして知られていますが、上品な味わいと複雑な香りがワインコンクールでも高く評価されている、今注目のワインです。おすすめの飲み方やおいしく飲むための適温、家飲みでの保存方法などをワインバー店主の外山さんに教えていただきました。

ライター:nonnon
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この方にお聞きしました

外山庫太(とやまくらた)さん

神楽坂の隠れ家ワインバーBLOWS INを経営。貴腐ワインをはじめ、希少なデザートワインを数多く取り揃えている。
BLOWS IN(ブロウズ イン)

外山庫太(とやまくらた)さん

貴腐ワインの魅力とは

――貴腐ワインの特徴とはどんなものでしょうか?

貴腐ワインは「貴腐ぶどう」という特殊なぶどうから作られた極甘口のワインです。貴腐ぶとうは、白ワイン品種のぶどうに貴腐菌が付着したもので、この菌の影響で皮の表面に穴があいて果実の水分が蒸発し、干しブドウのような状態になります。果汁が凝縮されることで糖度が高くなり、甘口のワインに仕上がります。
表面に貴腐菌がついて表面が白くなったぶどう
表面に貴腐菌がついて表面が白くなったぶどう。果皮が破れて水分が蒸発することで糖度が増す

貴腐ワインでは貴腐菌のつき具合を手作業で確かめながら収穫するので、ほかのワインよりぶどうの選別に手間がかかります。よい状態のぶどうだけを使うため、1本の木から1杯分のワインしか造れないこともあり、希少価値が高いワインとされています。

――甘口ワインといえば「アイスワイン」も有名ですが、その違いは?

アイスワインは極寒の地域で自然に凍ったぶどうを使って造るワインのことです。収穫後、凍ったままのぶどうを圧搾し、凝縮された果汁を抽出して発酵させます。氷結したぶどうは水分が少なくなり果汁が凝縮されるため、糖度が高くなるんです。

甘口のワインは他にもさまざまな製法があり、発酵を止めて糖度を高める方法や、収穫時期を遅らせて完熟させる「遅摘み」などの方法があります。その中でも貴腐ワインは甘さだけでなく、複雑な旨味や貴腐香と言われる独特の芳醇な香りがあり、ワイン通の方にも好まれています。

貴腐ワインの世界三大産地

――貴腐ワインにはどんな品種のぶどうが使われるのでしょうか?

貴腐ワインだけに使われる品種というものはなくて、白ワイン全般に使われる品種を使って造られることが多いですね。ちょっと意外かもしれませんが、貴腐ワインに使われるぶどうは甘口のものではなく、シャープな酸味のある品種を使用することが多いです。ほどよい酸味がアクセントとして加わることで、ただ甘いだけではない奥行きのある深い味になるんです。

貴腐ワインの名産地であるフランスのソーテルヌでよく使われる「セミヨン」などが代表的です。

貴腐ワインは貴腐ぶどうだけで作られているものと、それ以外のぶどうをブレンドしたタイプがあり、その製法によって味わいや価格に差が出てくるので、製法ごとに飲み比べてみるのも面白いと思います。
貴腐ワイン三大産地のひとつ、フランスのソーテルヌ
貴腐ワイン三大産地のひとつ、フランスのソーテルヌ

――貴腐ワインの有名な産地は?

貴腐ぶどうは気候や自然環境に大きく左右されるため、特定の地域でしか栽培することができません。条件としては、霧が発生しやすく菌が育つのにちょうどいい湿度があり、日中は水分が蒸発するための陽射しがあることが重要です。こうした条件を満たし、質の高い貴腐ぶどうが育つ「世界三大産地」と呼ばれる地域があります。

■フランス ソーテルヌ(品種:セミヨン等)
もっとも有名な貴腐ワインの産地。ワイン産地として有名なボルドーに位置しています。「シャトーディケム」ソーテルヌ格付け(1855年)特別1級などが有名。

■ドイツ トロッケン ベーレン アウスレーゼ(品種:リースリング等)
ドイツワインは糖度の高いものから6つにランク分けされています。その中でもっとも糖度が高いのが「トロッケン ベーレン アウスレーゼ」で、貴腐ワインはこのランクになります。

■ハンガリー トカイ・アスー(品種:フルミント等)
貴腐ワイン発祥の地ともいわれるハンガリー。トカイワインは、ルイ14世に「ワインの中の王様」と讃えられたことでも有名です。

ほかにも、近年ではフランスのロワール地方やオーストラリア、チリ、日本などでも生産されています。

貴腐ワインをおいしく飲むコツ

――貴腐ワインはどんなシーンで飲むのがおすすめですか?

糖度の高いワインなので、食事と合わせるよりもいわゆるデザートワインとして楽しむのが一般的です。バーに来られるお客様でも、食事のあとの2軒目として利用される方には、貴腐ワインをお出しすることが多いですね。

貴腐ワインにおつまみを合わせるなら、同じように甘いバニラアイスやフルーツケーキなどのスイーツ系や、逆に塩気のあるものやフォアグラなど濃厚な味わいのおつまみともよく合います。ほかには癖の強いシェーブルチーズやブルーチーズも貴腐香と相性がよくおすすめです。

 ――貴腐ワインをおいしく飲むために大切なことはありますか?

貴腐ワインはスパークリングワインと同じ6~8℃が適温なので、少し冷やして飲んでいただくほうがおいしさを実感していただけると思います。甘味と酸味のバランスが魅力なのですが、温度が高くなってくると酸味を感じにくくなり味がぼやけてしまいます。

グラスもボウルが大きすぎないほうが温度は上がりにくいのでおすすめです。また、脚つきでないタイプは手のひらでボウルに手が触れやすく温度が高くなるので、できれば脚つきのタイプで飲んでいただく方がいいと思います。
グラスは写真右2つのように口がすぼまっていて、やや小さめなサイズがおすすめ
グラスは写真右2つのように口がすぼまっていて、やや小さめなサイズがおすすめ

――保存期間はどれくらいでしょうか?

開栓前のワインであれば、ワインセラーなどで状態よく保存していただければ、20年以上熟成させることもできます。熟成した貴腐ワインは琥珀色に変化し、味わいも濃厚になるので、セラーをお持ちの人にはぜひやってみていただきたいですね。

開栓した後も2週間くらいは冷蔵庫で保存できます。貴腐ワインは開栓した後の味の変化が少ないので、一般的なワインよりも長い間よい状態で楽しめると思います。

貴腐ワインの味わいとは?

ギイ・サジェ・コート デュ・レイヨン(フランス ロワール)とカルム・ド・リューセック(フランス ソーテルヌ)
お店でも出している2種類の貴腐ワインをいただきました。
 

カルム・ド・リューセック(フランス ソーテルヌ)

カルム・ド・リューセック(フランス ソーテルヌ)
品種:セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデル
アルコール度数:記載なし
味わい:極甘口
商品情報:ソーテルヌの銘醸、シャトー・リューセックのセカンドラベル。甘やかな果実味際立つ、濃厚な味わい。


\飲んでみました!/
美しい黄金色と貴腐ワインならではのトロリとした飲み口は高級感があり、ゆっくり味わいたくなるおいしさです。ほのかに香るブルーチーズにも似た貴腐香がアクセントとなり、甘いだけではない複雑さがあって、飽きることなくいつまでも楽しめそうな感じがします。

貴腐ワインを飲むまではアイスワインに似たものかと思っていましたが、味わいはまったく異なり、深い余韻が楽しめました。
 

ギイ・サジェ・コート デュ・レイヨン(フランス ロワール)

 ギイ・サジェ・コート デュ・レイヨン(フランス ロワール)
品種:シュナン・ブラン
アルコール度数:14%
味わい:甘口
商品情報:アカシアとはちみつのアロマ香る非常にコクのあるワイン。ミネラル感があり、フルーツの砂糖漬けを思わせる味わい。


\飲んでみました!/
糖分をまったく添加していないとは思えない強い甘味ですが、のどの奥に残るような甘さではなく、軽やかですっと消えていく感じです。アカシアの蜂蜜のような華やかな香りが印象的で、ワインが苦手な人でも楽しめそうな飲みやすさです。

ワインのプロが厳選! おすすめの貴腐ワイン5選

代表的な銘柄から1000円台で買える挑戦しやすいものまで、初心者でも楽しめる貴腐ワイン5種類を教えていただきました! 

■カルム・ド・リューセック (フランス ソーテルヌ)
   
外山 ソーテルヌ格付け第1級『シャトー リューセック』のセカンドラベル。ほどよい酸で甘さの中にもさわやかさがあります。

■ギイ・サジェ・コートデュ・レイヨン(フランス ロワール)

外山 ロワール地方の貴腐ワイン。アカシアの蜂蜜のような香りと、とろりとした甘味、フルーティーさも感じます。

■トカイ アス 5 プットニョス(ハンガリー) 
  
外山 ハンガリーの代表品種「フルミント」で造られたワイン。 極甘口でハチミツやドライフルーツ(アプリコット)のような複雑な香りがあります。

■サンタアリシア レイト ハーベスト(チリ)
    
外山 「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を使用。フルーティーでマスカットの香り高く芳醇な味わい。フルボトルでも1000円台とコスパの良さも魅力です。

■デ・ボルトリ ディーン ボトリティス セミヨン(オーストラリア)
    
外山 英国王室御用達ワイナリーとして有名な老舗ワイナリーの貴腐ワイン。 桃や洋梨のコンポートのような瑞々しい味わいが特徴です。

貴腐ワインは高価なものが多いのですが、ハーフボトルなら気軽に試せるものもあるので、ぜひ一度飲んでみて貴腐ワインの良さを実感していただけたらと思います。フルボトルでも1~2週間かけてじっくり飲むこともできるので、家飲みにも最適なワインだと思います。

特にこれからは冬に向けて気温が下がり、甘さのあるワインがおいしく感じるので、ゆっくりと味わいながら家飲みの時間を楽しんでください。
 
※記事の情報は2020年9月8日時点のものです。
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