歩いて楽しむ酒④ ケンタッキー・バーボントレイル
アメリカのウイスキーと言えばバーボン。トウモロコシを主原料とするこの酒を訪ねて、バーボン・フェスティバルが開催されている秋のケンタッキー州を訪ねました。
バーボンの故郷ケンタッキー
ケンタッキー州がアメリカのどのへんにあるかご存知でしょうか? 毎年5月の第一土曜日に開催されるケンタッキーダービーには世界中から着飾ったセレブが集い、バーボンウイスキーの最大の産地として有名なこの州は、アメリカ中東部にあります。
いまアメリカではバーボンの人気が急上昇しています。1970年代にウォッカなどのホワイトスピリッツが、バーボンの消費量を上回り白色革命と言われました。ところが近年はバーボンが絶好調、大ヒットしたテレビドラマで主人公がかっこよくバーボンを飲むとユーザーの裾野が広がり、世界的なウイスキーコンテストでバーボンが高評価を獲得して高級品が注目されるようになったのだと言います。
好調な消費を受けてバーボン産地が活気づいています。ケンタッキー州の北部、9つのバーボン蒸溜所を巡る観光プログラム「ケンタッキー・バーボントレイル」は、毎年50万人以上が参加、スタートしたのは1999年でしたがじわじわ人気が出てきてました。すべての蒸溜所を訪問してスタンプを押してもらうと、記念にオリジナルTシャツがもらえます。人気ぶりに蒸溜所は見学ツアーをブラッシュアップしたり、ショップを充実させたりする動きが広がり、新たな集客につながる好循環が生まれています。
のどかなアメリカの田舎町
ケンタッキーへは日本からの直行便はなく、シカゴで乗り継いで州内最大都市のルイビルまで17時間かかりました。このバーボントレイルの取材で基点になるのはルイビル国際空港、ここでレンタカーを借りて、一路、バーボンフェスティバルで賑わうバーズタウンに向かいます。そして2日間かけて5つの蒸溜所を巡りました。
トヨタカムリを小一時間走らせフリーウェイを降りると、のどかな景色が広がっていました。びゅんびゅん走るフリーウェイからでは見ることのできない景色です。牧場のなだらかな丘には草を食む馬たち、ポツリポツリと点在する民家は、昔見たドラマ「大草原の小さな家」のようです。道の反対側の広大なコーン畑は、9月中旬で、すでに緑は失せて干し草色、実の周りの皮を剥くと中から鮮やかな黄色のコーンが顔を出しました。
時折ロードサイドに現れる岩肌はライムストーン(石灰岩)層です。これを潜り抜けた水はライムストーンウォーターと呼ばれる硬度300~350の硬水。牧草のブルーグラスの生育に適しており、ガイドブックには競走馬の産地となったのはこの水があったからだと書かれています。もちろんバーボンづくりにも欠かせない水で、蒸溜所はどこもライムストーンウォーターが豊富な土地につくられたといいます。
バーズタウンはケンタッキー州で2番目に古い町で、アメリカ民謡の父S・フォスターが作曲した「ケンタッキーの我が家」のモデルとなりました。古き良きアメリカの風情が残る小さな町は、周りにバーボンの蒸溜所が点在し、毎年9月第3週にバーボン・フェスティバルが開催されます。
フェスティバルではバーボンのテイスティング会や食事会、全蒸溜所のマスターディスティラーが勢揃いするディナーパーティのほか、樽ころがしレースやマラソン、ゴルフの大会など50以上のイベントが催されます。街のなかの広場には蒸溜所や商店がブースを出店して、さまざまなグッズを販売していました。
日本では酒イベントは昼間から飲んで食べる宴会型のものが一般的です。ですが飲酒に厳しく公共の場で飲酒する文化のないケンタッキー州では、バーボンフェスティバルでも飲み歩く姿は見かけませんでした。フードコートの一画にビールやバーボンを提供するコーナーがあり、飲みたい人がそこで飲んでいるだけです。日曜日の午前中は酒類の提供が禁止されているため、蒸溜所でも試飲ができません。酒類に対して何ごともおおらかな日本に居たのではわからない感覚です。
前半はここまで。さて、次回はいよいよバーボンの蒸溜所をご紹介します。お楽しみに。
※記事の情報は2018年10月28日時点の情報です。