ウイスキー界の新しい波。カバラン(KAVALAN)の基礎知識
2008年のリリース開始からわずか10年。いま国際コンペティションを席巻する台湾発のシングルモルトウイスキー、カバラン。イエノミスタイル編集部はこのたび、カバラン蒸留所への独自取材を敢行しました!
Photo by Takashi Yasui

トンネルを抜けるとウイスキーの新たな聖地があった。


宜蘭平野の一角に生産拠点を構えていた台湾の飲料大手「金車グループ」がこの地に蒸留所を竣工したのが2005年。翌2006年にウイスキーの蒸留が開始されました。雪山山脈の深い森林と清廉で豊富な水、田園地帯の澄んだ空気というウイスキーづくりに最適な環境のなかで試行錯誤を繰り返した末、かつて宜蘭一帯に住んでいたカバラン族(噶瑪蘭族)*1の名をブランド名に冠した最初の商品をリリースしたのが2008年のことでした。それから10年、カバランは瞬く間に世界的な評価を集め、プレミアムウイスキーとしての地位を確固たるものにしました。宜蘭はウイスキーの新たな聖地となり、年間100万人を超える見学者が訪れるまでになります。
最新の設備と高度な蒸留技術。
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ポットスチルはすべてスコットランドのフォーサイス社製。チーフブレンダーであるイアン・チャン氏が設計の段階から携わり、カバランならではのフレーバーが抽出できるよう緻密に計算されています。求めるフレーバーに応じて、釜の形状やネックの角度や太さに至るまで試行錯誤の末に完成させた形状なのだそうです。


ちなみにこのカバランでの蒸留技術の確立によって、インドなどこれまでウイスキー造りに不向きとされていたエリアでもシングルモルトウイスキーの製造が試みられるようになり、フォーサイス社製のポットスチルは引く手あまたとなっているそうです。このように最先端の蒸留設備と技術がカバランの味を支えているわけです。
亜熱帯でのダイナミックな樽熟成。

熟成スピードが速い反面、蒸発による失われるアルコール分、いわゆる「天使の分け前」は非常に多く、寒冷地で年間1〜3%が消失すると言われるのに対し、カバランでは年間10%以上ものアルコールが「取り分」として失われてしまいます。商品となる部分が、他のメーカーよりもかなり少ないのです。


亜熱帯ならではのダイナミックな熟成、豊富な樽のバリエーション、それをブレンドする技術が融合し、ここにしかない芸術的なウイスキーが完成するわけです。

*1 カバラン族(クバラン族、噶瑪蘭族)。かつて宜蘭県の平原一帯に住んでいた人々。18世紀に漢人がこの地に入り同化が進んだものの、一部の人々は南の花蓮平原に移って現在でも独自の言語を保ち暮らしているそうです。
*2 実は「亜熱帯」というのは慣例的に使われている呼称で、かのケッペンの気候区分(中学校の地理の授業でおなじみ!)には亜熱帯という区分はありません。同区分によると台湾本島は温暖湿潤気候(Cfa)で、これは日本の本州南部やアメリカのケンタッキー州と同じ。緯度も、宜蘭県は日本の石垣島よりも北に位置します。実際、10月の宜蘭の夜は肌寒く、真冬になると厚手のコートが必須なのだそうです。
カバラン テイスティングレポート
カバラン ソリストシリーズは様々な樽を使用して熟成させ、それぞれ1本の樽から加水せず「出したまま」を瓶に詰めたシングルカスクのシリーズです。それぞれのボトルには、樽の番号だけでなく、その樽から何番目に取り出したかというシリアル番号まで記載されています。今回はバーボン、ヴィーニョ、オロロソシェリー、ペドロヒメネスシェリーの4種類を飲み比べます。

カバラン ソリスト EXバーボンカスク ストレングス
アメリカ産バーボン樽で熟成させた1本。8年熟成、アルコール度数は58.6%。色合いは他の3品と比べてやや淡め。香りはバーボン樽由来と思われる優しいバニラの香り。柔らかな口当たりで、アタックに優しい甘味が広がります。余韻はすっきり。全体的に優しい印象。
カバラン ソリスト ヴィーニョ バリック ストレングス
ワイン樽で熟成させた1本。こちらはチャーリング(焼き込み)が施された樽を使用しています。5年熟成、アルコール度数は56.3%。香りはフルーティーな印象にキャラメルのような甘い香りが加わります。しっかりとした旨味を感じさせる口当たりで、カカオの風味を感じます。余韻は長く、香りが口の中に広がります。もう少し樽に置いて熟成したら一体どうなるのだろう、という想像を駆り立てます。
カバラン ソリスト オロロソシェリーカスク ストレングス
スペイン産オロロソシェリー樽で熟成させた1本。8年熟成、アルコール度数は58.6%。香りにはドライフルーツのような酸を感じさせる香りに、バニラのような甘い香りが混ざります。口当たりはやわらかいが、味わいは濃厚。スパイシーさを感じさせる味わいで、余韻も長く広がります。
カバランソリスト PXシェリー シングルカスクストレングス
【日本未発売】
シェリー酒の王様と呼ばれるペドロヒメネスのシェリー樽にて熟成させた1本。7年熟成、アルコール度数は57.1%。香りはフルーティーな印象で、4種の中では1番優しく上品。口当たりは優しく、ほんのりチョコレートの風味と赤い果実の風味を感じます。余韻は長めで、上品な甘さが口の中で広がります。※記事の情報は2018年11月8日時点のものです。
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