牡蠣に合うビールはこれだ!

生でよし、煮てよし、揚げてよし。肝臓によいといわれるタウリンも豊富。冬の最強おつまみ食材、牡蠣とビールのマリアージュを探ります!

ライター:長谷川小二郎長谷川小二郎
メインビジュアル:牡蠣に合うビールはこれだ!
寒さが厳しくなるほどおいしく感じる食べ物の筆頭に挙がってもおかしくないのが、牡蠣だ。なんといっても旬が冬だし、温まる鍋に入れることだってでき、ほかの食べ方もいろいろある。ビールと料理のマリアージュのプロ「ビアコーディネイター」の養成セミナーの講師が、牡蠣の食べ方ごとにビールとの合わせ方を提案する。  

一つ目の食べ方は、生だ。牡蠣とビールといえば、生牡蠣とギネスを思い浮かべる人が多いかもしれない。ギネスはドライスタウトというスタイルに分類される、その黒さから想像される焦げ香ばしさと、鋭い苦味とほのかな酸味があるビールだ。しかしあくまでも筆者の経験と感覚で言えば、生牡蠣とドライスタウトを合わせても、特に何も起きない。邪魔をするわけではないが、驚くような美味しい変化も起きない。つまり私たちが実現させたいマリアージュが起きない。

ドライスタウトよりも生牡蠣を美味しくする2つのビアスタイル

そこで今回は、ドライスタウト以外の二つのスタイルを提案する。一つ目はグーズランビック。ベルギー発祥のフルーティーな香りがあって非常に酸味が強く、甘味や苦味はほとんど感じない。このビールを生牡蠣と合わせると、もう想像できている人もいると思うが、レモンを絞ったように酸味が加わり、生臭さもフルーティーさで軽減されることもあって非常にさっぱりと食べられるようになる。もちろん、本物のレモンを絞ってはいけない。そうすると酸味が強くなりすぎる。牡蠣とグーズランビックを一緒に口に入れて噛み、口の中で味わいのバランスを完成させよう。  

もう一つのビールは、フランダースレッドエールだ。こちらもベルギー発祥で、赤小麦が使われることにより赤く、オーク樽で18カ月熟成される工程を踏まえて、フルーティーな香りとともに、上品な甘酸っぱさが印象的な出来上がりになる。これに生牡蠣を合わせると、 グーズランビックと同じくフルーティーさと酸味から絞ったレモンのような効果が得られる。さらに、甘味と熟成感も加わって、まるでバルサミコ酢をかけたようなさっぱりとしていつつも複雑な味わいを楽しめるようになる。  

生牡蠣を食べるときの注意点は、殻の中の海水をこぼしすぎないこと。これが天然の塩味とうま味を提供してくれる。殻からむいてある状態のものを食べる場合は、もちろん塩を振ってもいいだろう。いずれのビールも酸味があるから、過度な塩カドは、焼き鳥塩を食べるときのレモンのように、丸めてくれる。
生牡蠣
ボーン(ブーン)のグーズランビック(左)と、ヴェルハーゲの「ドゥシャスデブルゴーニュ」というフランダースレッドエール。どちらもデパートや高級スーパーなどでも比較的入手しやすい

ある小麦のビールが燻製に合う理由

二つ目の食べ方は、燻製だ。つまり、生でみずみずしく食べるのとは逆に、水分を抜いてうま味を凝縮させ、おまけに燻製の香りもつけてうま味を強めようという食べ方だ。牡蠣だけでなく、燻製の食べ物にはラウホを主とする燻製ビールを合わせる提案を散見するが、それは、燻製の香りが強くなるという結果があまりに見えすぎていて、驚きに欠けて面白くない。

その代わりに合わせてもらいたいのが、ヴァイツェンだ。ヴァイツェンは大麦に対して小麦を同じかそれ以上に使い、その名もヴァイツェン酵母という特徴のある酵母を使ってつくられる。香りはバナナやクローヴ(チョウジ)のようで、味は甘味の他ほのかに酸味があり、苦味は非常に弱いか全く感じない。ろ過をしないので酵母がビールに残っているために激しく濁っていることがほとんどで、このことがさらに強いボディーをもたらす。

ヴァイツェンに燻製を合わせるといい理由は、フェノールだ。クローヴのような香りの素はフェノールという化合物であり、これは含まれ方によって消毒液の匂いや燻製の香りになったりする。そう、ヴァイツェンにも多かれ少なかれ燻製の香りの素が含まれていて、燻製料理と合わせると、同じ特徴が合わさって高まり合うのだ。だから多くのヴァイツェンと燻製料理を合わせると、燻製の香りが強まり、さらに甘味が加わって食べ応えが増す。日本ではどうも、燻製と言えばラウホだけでなく濃色のビールが提案されることが多すぎて、色が濃いビールを合わせるイメージが強いかもしれないが、ぜひやってみてほしい。見た目のイメージに反する美味しい変化が得られるはずだ。

さらに、前述のフランダースレッドエールも面白い。このビールの木を想像させる熟成感と相まって燻製香が強まるだけでなく、酸味によって全体が引き締まる。ちょうど、ヴァイツェンの甘味によって味わいが厚く広がっていくのとは逆の美味しさだ。そして牡蠣の燻製は、自宅で中華鍋などを駆使してこしらえてももちろんいいが、写真のように缶詰でも売っていて、気軽に楽しめる。
牡蠣の燻製
缶詰は利用するときは、熱湯で2~3分湯煎すると香り豊かに軟らかく味わえるようになる。今回合わせたヴァイツェンは飛騨高山麦酒のもの

みんな大好きな牡蠣フライにこそあのビールを

最後に合わせる食べ方が、お待ちかね、牡蠣フライだ。これにこそ、ギネスなどドライスタウトを合わせたい。なんといっても焦げ香ばしさが増し、牡蠣のうま味が強まる。さらにドライスタウトは酸味があって甘味が少ないから後味がさっぱりしているので、油で揚げた料理にもぴったりだ。注意点は、中に火が通る範囲で、揚げすぎないこと。そうでないと、ドライスタウトと合わせたとき、焦げ香ばしさが強すぎになってしまう。この組み合わせは意外と提案・実践されていないので、ぜひ試してみてほしい。  

さらに、再び、フランダースレッドエールを合わせるのもいい。甘酸っぱさと熟成感が相まって、フルーティーさが強いウスターソースのような味わいが口の中に広がる。フランダースレッドエールは、フルーティーな香りと甘酸っぱさでもって、かなり幅広い料理と合わせることができるのだ。そしてドライスタウトと合わせるときもそうだが、味付けは塩だけにしておこう。ウスターソースやタルタルソースをかけてしまうと、ビールと合わさって味わいが複雑になりすぎたり、ビールの味わいの良さを隠してしまったりするだろう。
牡蠣フライ
栄養バランスの面からも、そしてビールと合わせてみる面からも、定番のキャベツの千切りを添えるのが望ましい
※記事の情報は2019年1月19日時点のものです。
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