徳利を選ぼう! かっぱ橋道具街で愉快な徳利さがし
日本酒の家飲み、ついつい瓶から注いでしまいがちですが、たまに「徳利」を使うとお酒もひと味違うもの。徳利の基本知識から選び方まで、日本最大の飲食店の道具街、浅草かっぱ橋で調べました!
徳利とは?
あらためまして、徳利とは? 徳利の事始めはどうやら江戸時代。酒屋さんの量り売りからはじまったようです。いわゆる「貧乏徳利(通いどっくりとも言う)」というやつを酒屋さんに持って行って、一升とか五合とか買って帰り、空になったら、また徳利を持って行って…… という、お酒の運搬容器として徳利ができたようです。
時代劇の酔っ払い素浪人とか、焼き物の狸がよくぶら下げているやつですね。エコロジー都市、江戸らしい、環境にやさしい流通システムです。
そのうちに、江戸庶民の間に日本酒を温めて飲む習慣が広まり、燗をつけたり、酒を卓上に提供するための一合や二合入りの小さな徳利が普及したということです。
大きな貧乏徳利のほうは、大正、昭和でガラスの瓶が普及するにつれて廃れてしまいましたが、小さいほうの徳利はお燗とともに、現在まで脈々と命をつないでいるというわけです。
ちなみに「徳利=とっくり」の語源は、中身を注ぐときに「とくとく」と音がするからとか、ハングル語の酒壺を意味する「トックル」に由来するなど諸説ありますが、どれも決め手にかけ、未だ謎に包まれているようです。
徳利の種類
徳利には、実に色々な形があります。丸いのや、細長いの、中には四角も。代表的なものは底からだんだん膨らんでいって真ん中あたりからすぼまっていく「らっきょう徳利」、らっきょう徳利よりも太っている「芋徳利」、首が長く伸びた「鶴首徳利」、中ほどがすぼまったひょうたん型の「瓢(ひさご)徳利」など。
ただ、かっぱ橋のお店でこれらの名称を出しても「は? なんですかそれ?」となりがちだったので、広く定説というよりは、「あえて名前をつければ」とか、「とも呼ばれる」程度のものととらえるのが良いかもしれません。
徳利の容量は、一合入り、二合入りが定番で、かっぱ橋の器屋さんでも、同じ形でこの2タイプが置いてある場合がほとんどでした。
徳利天国! かっぱ橋道具街
さて、やってきましたかっぱ橋道具街。最寄りの駅は地下鉄銀座線の田原町駅。大正時代に始まり、第二次世界大戦後には、飲食店向けの道具専門商店街へと発展したそうです。
アーケードのスピーカーから流れるのは往年の映画音楽、聞こえてきたエンリコ・モリオーネの三拍子に乗って、通りを行きつ戻りつ、一合徳利を探します。売っている器は業務用がほとんで、リーズナブルで良い物が見つかる可能性大。予算は一個1000円以内。なるべくお安く、見た目はシンプルで使い勝手の良さそうなものを求めて、徳利探しの旅がはじまります。
蛇の目の徳利を購入
最初に入ってみたのは、「うつわの陶正」さんという、歴史ありそうなお店。品揃えも豊富です。
一合徳利を探しているんですが…… とお店の奥さんに切り出すと、「一合は入らなきゃだめ?」と。は? 一合徳利なので当然一合入るのでは? よくよく聞いてみると、実は一合徳利の多くは一合の8割、8勺ぐらいしか入らないものがほとんどなのだそうです。
と言うことは、居酒屋さんで、お銚子一合頼んでも、実は8勺、150ミリリットル、その差額がお店のもうけに上乗せされると。なるほど、そういうわけなのか……。業務用には秘密がある! まんま一合入るものは「正一合」と但し書きがあるそうです。
いきなりのカウンターパンチにとまどいつつ、おすすめを聞いてみると、利き酒用の「蛇の目」の徳利とぐい飲みのセットをすすめていただきました。徳利だけなら420円(ぐい飲みは180円)。なかなか実用的な形で使いやすそうです。
なぜ蛇の目と呼ばれるかというと、ぐい飲みの底に描かれた同心円状の紺の模様が蛇の目模様にみえるから。利き酒をするときに、白い部分でお酒の色を、青い部分で光沢や濃淡をみるのだそうです。対の徳利もおそろいの青でラインが入っています。
太った徳利を購入
さて、さらに旅は続きます。こんどは、包丁も有名な器屋さん「かっぱ橋まえ田」さん。
ここでも、「一合徳利探してます」「一合入らなきゃだめ?」とデ・ジャヴュな会話が……。一合は入らなきゃだめ? を徳利探しあるあるに認定!
徳利の選び方を伺ってみたところ、燗で飲むなら口がなるべくすぼまっていたほうが冷めにくい、そのかわり、酒をいれにくくなるんだよね~。とのこと。なるほど、そりゃそうだな。
こちらでいただいたのは、いわゆる「らっきょう徳利」と言って良いのか。ころんとした形が気に入りました。小ぶりの一合徳利、手にもなじみますね。さらっとした肌触りも良いです。これは690円。
スレンダーならっきょう徳利を購入
さあ、どんどんまいりましょう。こんどは、創業100年「小松屋」さん。老舗です。しかも、広い間口から見える店内は、器、器、器!なかなか壮観。
徳利選びのポイントを伺うと、結構重要な情報をゲット。すなわち、電子レンジで燗をしたいなら、柄に金属をつかっていないものを選ぶべし。よく注ぎ口のフチなどに金を使っている物がありますが、これをレンジにかけると熱で溶けて……「溶けて、毒になっちゃんだよね」…… 毒になります!
こちらで購入したのは、スマートでシンプルならっきょう徳利、600円。
これもそうですが、業務用の徳利は、圧倒的に、岐阜県産、美濃焼が多い印象です。こちらのお店でも「美濃焼は種類も豊富だし値段もリーズナブルなので人気がある、うちもほとんど美濃焼」とおっしゃってました。
この徳利には「正一合」の札がはってありました。ちゃんと一合入るようです。このシンプルさは、なんというか、モダンですね。もはやアールデコ的といっても過言ではない(過言?)
ペコ徳利を購入
さて、徳利の旅も終盤に差しかかってまいります。こちらは「創亭やぶきた」さん。お洒落な品揃えのお店です。
中に入って徳利コーナーを眺むるに、ぐぐっと視線が吸い寄せられたのが、胴体にくぼみがついた徳利。あー、こういうの見たことあるよな~、とすっかり欲しくなりました。よく見ると貼ってあるシールに「ペコ徳利」という謎の文字が。何、ペコって。
お店の方に聞いてみると、徳利の胴につけられたくぼみの事を「ペコ」と呼ぶらしい。「理由はペコッとしてるから」。これは561円でした。
手にした感触はまさに「しっくり」。やはり人間の手は、つるっとしたものより、凹凸のある形のほうがなじむんだな~と実感しました。
なにとは言えない徳利を購入
今回の旅、最後のお店です。ここも歴史ある「浜田屋商店」さん。看板からすると、料理道具が専門のようですね。
徳利の棚を拝見していくと、なんか妙な形のものを発見。いわゆる片口っぽくもあり、お醤油差しのようにも見えるし……。あの~これも徳利なのでしょうか? 店主答えて曰く「徳利。昔からあるよ、この形「あ、そうなんですね、これください」。最後にちょっと変わったヤツが欲しかったのです。583円。
酒も入れやすそうだし、注ぎ口が細いので、小さなおちょこにも注ぎやすそうです。これは結構使い勝手がいいかも。
徳利選びは結局なんでもあり
かっぱ橋道具街で5軒のお店をまわってわかったのは、結局、心のままに眼で見て、手で触って(ここ重要)、しっくりくるものを選べば良い! という事。あたりまえですが。最初に伺った陶正さんの奥さんは、ネットで写真見ただけで買わないで、ぜひ実物を見て触って買ってほしい、酒器は手触りが大切だからね、とおっしゃっていました。
その上で、レンチン燗派の方は、金属の使っていない選ぶべし。お店の人にレンジOKかどうかちゃんと確認しましょう。そして、酒をいれるのにじょうごを使いたくない方は、なるべく開口部の広いものを選ぼう!
徳利でお燗
徳利の良さは、そのままお燗がつけられるというところ。さっそく新顔の徳利で燗酒を飲んでみましょう。
もっともポピュラーでおいしいのは、お湯にチャポンとつける方法です。電子レンジでお燗すると短時間で温まるため、徳利の中に温度ムラができてしまいますが、この方法ならしっかり均一に温まります。
適当などんぶりに熱いお湯を張り、お酒をいれた徳利を漬けるだけ。気温や酒の温度にもよりますが、一合徳利なら、数分でぬる燗がつきます。んー、うまい。
お気に入りの徳利を探そう!
ほんとに多種多様な徳利。ぐい飲みのコレクターがいるように、徳利コレクターも結構いるのだとか。確かにこれだけバリエーションがあったら、集めてみたくなりますね。
ふだんの家飲みでは、瓶から直接日本酒を注いでいる方も(当方もそのひとり)、お気に入りの徳利を使ってみると、家飲みグレードがワンランクアップすること間違いなし!パック酒を買っても、もう侘しくない!
※記事の情報は2020年1月28日時点のものです
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お店のひとこと
一合徳利のほとんどは8勺(150㎖)ぐらいの容量です!