日本ワインの祭典「山形ワインバル」参戦レポート

7月2日に3年ぶりに開催された「山形ワインバル」。県内のワイナリーや山形産のブドウを使うワイナリーが上山(かみのやま)に集結しました。老舗からスタートアップまでさまざまな日本ワイン堪能できるこの催しをレポートします。

メインビジュアル:日本ワインの祭典「山形ワインバル」参戦レポート

灼熱の「山形ワインバル」

あっという間に梅雨が明けた今夏、上山は猛暑であった。日陰の少ない会場で少しでも快適に過ごそうと、麦わら帽子をかぶり、首にタオルを巻き、水筒に冷水、そして扇子を用意して「山形ワインバル」に出陣。

前売りチケット(3,500円:試飲券10枚+オリジナルグラス付き)は発売と同時にネットで購入し、コンビニで発券済み。チェックイン前だが宿に車を置かせてもらい会場に向かう。10分ほど歩いて受付したのは午前11時であった。

さあ、たっぷりと山形の日本ワインを味わうぞ!
気温はすでに30℃を軽くオーバー。強い日差しが照り付けていた
気温はすでに30℃を軽くオーバー。強い日差しが照り付けていた
最初にチケットと引き換えの10枚綴りの試飲券
最初にチケットと引き換えに10枚綴りの試飲券をもらう
オリジナルのグラスの入ったホルダー
オリジナルのグラスの入ったホルダーを受け取り受付は完了
会場MAP
会場MAPでお目当てのワイナリーのブースをチェック。会場は5つに分かれており、一番下の第5会場から一番上の第1会場を目指す
第5会場
受付を済ませて最初に訪れることになる第5会場

山形県の日本ワインの生産量は4位

ここでちょっとお勉強。

日本のワイン産地というと山梨県を思い浮かべる人が多いだろう。勝沼盆地を中心にワイナリーが点在し、日本ワイン(日本で栽培されたブドウを原料に日本で醸造、瓶詰めされたワイン)の生産量は堂々の日本一だ。第2位は信州ワインバレー構想を掲げて県をあげてワイナリーの開業をバックアップする長野県、第3位は余市・仁木や空知地区でワイナリー開業ラッシュが続く北海道。そしてこの3強に次ぐのが古くから良質なワイン用ブドウの産地である山形県だ。

また、山形県はブドウの生産量では第3位で、山形から原料のブドウを調達する県外のワイナリーは多い。山形産の原料用ブドウのおよそ3分の1が県外に流出していると言われている。

栽培されているブドウ品種は、白ワイン用ではデラウェア種やナイアガラ種、赤ワイン用はマスカット・ベーリーA種がもともと多かった。生食用としても販売でき、かつては甘味果実酒の原料としても使われた品種だ。現在はシャルドネ種やリースリング種、メルロ種やカベルネ・ソーヴィニョン種など欧州系ワイン用品種の栽培が盛んで、シャルドネ種の生産量は国内でもっとも多い。

ワインづくりの歴史を見ると、初代県令の三島通庸がワイン醸造を奨励し、1892年に酒井ワイナリー(南陽市)が、1920年にタケダワイナリー(上山市)が誕生する。その後、続々とワイナリーが誕生していくが、戦時下のワイン増産方針(ワインに含まれる酒石酸が音波防御レーダーに必要だった)に翻弄されたり、甘味果実酒の消費に陰りが出て転換を余儀なくされたり、他の産地と同様に厳しい環境変化にさらされる。現在は荒波を潜り抜けた老舗に加えて、新興のワイナリーが誕生し、日本ワインの産地として注目されている。

で、最初に訪ねた第5会場で東北最古の酒井ワイナリーのブースを発見、ここは良質な日本ワインを生産するワイナリーを格付けする「日本ワイナリアワード2022」で最高位5つ星を獲得している。ちなみに山形県ではタケダワイナリーと高畠ワイナリーも5つ星を獲得しており、5つ星格付けが3か所以上あるのは山梨県の8か所に次に多い。
酒井ワイナリー
酒井ワイナリーは赤湯温泉のある南陽市にある。酒井家二十代目当主で、ワイナリーとしては五代目となる酒井一平さんがワインづくりに情熱を傾けている
酒井ワイナリーのブースの5点
酒井ワイナリーのブースではこの5点が提供された
スパークリングワイン『小姫』
炎天下での最初の一杯は、やっぱり“泡”。スパークリングワイン『小姫』。「小姫」はデラウェア種の地元での昔の呼名

日本ワインの実力派からニューフェースまで

酒井ワイナリーの並びにあったのは、同じく5つ星の高畠ワイナリー。これを試さずにはいられまいと試飲チケットを1枚もぎる。
高畠ワイナリー
高畠ワイナリーは1990年創業。当初から世界レベルのワインの生産を目指し、多くのアワードを獲得している
2杯目も“泡”『2021嘉(yoshi)スパークリング ピノ・シャルドネ』
2杯目も“泡”『2021嘉(yoshi)スパークリング ピノ・シャルドネ』。猛暑では冷えたスパークリングワインがおいしい
スパークリングワインを立て続けに2杯飲んで、ホワッとした心地になったところで、隣のブースから熱い視線を浴びる。ブドウを栽培しているものの、まだ、ワイン製造は外部に委託しているというフルーツ農園大泉(天童市)だ。サクランボを栽培してきたが、ワイナリーにチャレンジしたいとピノ・ノワール種など欧州系品種を植えた。来年からは製造免許を取って自分でワインをつくると意気込む。
フルーツ農園大泉の『uccelli bianco 2019 (ウッチェッリ ビアンコ)』
フルーツ農園大泉の『uccelli bianco 2019 (ウッチェッリ ビアンコ)』。Uccelliはイタリア語で鳥たちを意味する。果樹園でさえずる鳥たちに着想を得たそう
「おいしい。始めたばかりとは思えないね」などとワイナリーの方とやり取りしていると、「隣は新潟のカンティーナ・ジーオセットさん。とてもお世話になっています。あのカーブ・ドッチさんの隣の…」と紹介され、「ああ、カーブ・ドッチさんには去年の秋に行きました。その時はあいにくカンティーナ・ジーオセットさんがお休みで…」と私。ちょっとだけご挨拶すると山形県からブドウを調達されているそうで、にっこり。
カンティーナ・ジーオセット
カンティーナ・ジーオセットは2013年にワインの製造免許を取得。イタリア品種に取り組んでいる

第3・4会場は日本ワイン万華鏡

第5会場だけで立て続けに4杯飲んで、まだ先は長いと吸水タイム。場内放送は水分を十分にとって熱中症に気を付けるよう繰り返している。来場者はわずかな日陰を探して休んでいるが、テントはわずかで逃げ場がない。5年前に来た時は梅雨の最中で雨を気にしたが、今年はだいぶ様子が違う。

さて、次は第4会場。第3会場は道を挟んですぐ隣でひと塊という感じ。ここでも頑張って飲んだ、飲んだ。お邪魔したブースをご紹介。
水玉が広がる素敵なラベル
水玉が広がる素敵なラベルにひと目ぼれ。スパークリングワインを1杯いただく「かみのやまテロワール」は地元のブドウを使って地元のワイナリーが製造、地元の宿泊施設と酒販店でしか買えないワイン
グレープ・リパブリック(南陽市)
浴衣姿の男女でにぎわっていたグレープ・リパブリック(南陽市)。ブドウ栽培は農薬も肥料も使わず、醸造では酸化防止剤不使用、補糖や補酸もせず、天然の酵母で仕込む。レストランを複数展開しているそうで、パッケージもおしゃれ
新潟のフェルミエ
新潟のフェルミエも参戦。ワイナリーは第5会場のカンティーナ・ジーオセットさんのほぼ隣。アルバリーニョ種が有名だがもちろん他のワインもおいしい
月山ワイン山ぶどう酒研究所(鶴岡市)
月山ワイン山ぶどう酒研究所(鶴岡市)。山ブドウにこだわった、JAが運営するワイナリー。ブドウ栽培もワイン醸造も職員がおこなう。写真のお2人は「まさか自分がワインをつくるとは思わなかった」と
岩手くずまきワイン
岩手くずまきワインさんは山ブドウにこだわっているそう

上山の日本ワインと共に歩んだワイナリー

まだ2つ会場を残して試飲チケットはもう残り1枚。追加チケットを買おうか迷ったが、連れがもう飲めないというので、残りの5枚を譲ってもらって、第2会場に到着。

ここではまず、サントネージュワイン(山梨)にご挨拶。アサヒビールから離れ、日本ワイン専業メーカーとなってから初めてだ。「かみのやま〇〇畑」と冠した商品があることからもわかるように、同社の上山との縁は深い。約40年前にブドウの栽培適地を探していた同社は、上山に着目し農家にワイン用の欧州系ブドウ栽培を働きかけた。以来、農家と勉強会を開くなど、一緒になって良質なブドウづくりに取り組んできた。今回ご紹介している「山形ワインバル」のアイデアも、こうした栽培農家たちの勉強会から生まれたと聞く。
新生サントネージュワインのブドウ栽培を統括する宮川養一さん
新生サントネージュワインのブドウ栽培を統括する宮川養一さん(左)
ジャパン・ワイン・チャレンジ2020金賞の『サントネージュかみのやま中島畑メルロー2018』
ジャパン・ワイン・チャレンジ2020金賞の『サントネージュかみのやま中島畑メルロー2018』がチケット2枚は超お得
第2会場でもうひとつ訪ねたかったのが3年前にお邪魔した大浦葡萄酒(南陽市)。長年、大手ワインメーカーの下請けとしてワインを製造してきたが、現在は独自のブランドで少人数で丁寧にワインをつくっている。
大浦葡萄酒
大浦葡萄酒は小規模ながら「日本ワイナリーワード2022」で3つ星に格付けされた
オオウラ カベルネ・ソーヴィニヨン
山形県産カベルネ・ソーヴィニヨン100%。樽の効いた濃厚な味わい

締めは日本ワインの飛び切りの白

暑さでヘロヘロになりながらようやく第一会場へ。日陰を見つけてしばし休憩、残るチケットは3枚だ。

ぶらぶらしているとウッディファーム&ワイナリー(上山市)のブースを発見。長く果樹を栽培しジャムやジュースに加工する事業を進めてきた同社は、10年前にワインづくりに乗り出し、瞬く間に日本ワインのトップワイナリーのひとつとなった。某ワインコンサルタントが、SNSでこちらのアルバリーニョ種がすばらしいと絶賛していて気になっていたのである。ブースには残念ながらアルバリーニョ種はなく(当然ですね)、代わりと言っては何だが『ソービニョン・ブラン』をいただく。

そして結果的に今回の大トリになったのがサントリー登美の丘ワイナリー(山梨)の『かみのやま産シャルドネ』。さすがにサントリーは太っ腹でどのワインもチケット1枚。たいへんお得と欲が出て、つい『かみのやまメルロ』も飲んでしまい試飲チケットをすべて使い切ってしまった。

タケダワイナリー(上山市)も試さなければと思っていたのだったが後の祭り、次回に持ち越しとなった。
上山城の天守を臨む第1会場
上山城の天守を臨む第1会場。一画に有料の指定席ゾーンが設けられていた
ウッディファーム&ワイナリーの『ソービニョン・ブラン2019』
ウッディファーム&ワイナリーの『ソービニョン・ブラン2019』。ピチピチした酸で元気が出た
サントリー登美の丘ワイナリー
サントリー登美の丘ワイナリー。上山でもブドウ栽培に取り組んでいる。ブドウを山梨県のワイナリーに運んで醸造する

※記事の情報は2022年7月21日時点のものです。

  

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