日本酒はこうして造られる。寒さの中で酒造りが最盛期を迎える理由とは?
日本酒と発酵フレンチのお店「SAKE Scene〼福」を経営する簗塲友何里(やなば ゆかり)さんのお酒コラム。今回は、そもそも日本酒っとどうやって造るの?という素朴なギモンにお答えします。
日本酒造りは寒さとともに
春はもうすぐ……といってもまだまだ寒い日がありますね。日本酒蔵が一年で最も活気づくのが、この晩秋から春先の寒い時期。この時期の酒蔵は大忙し! 日本酒をなぜ寒い季節に造るのかと言いますと、大昔、冷暖房がない時代から行われている酒造りでは、外気の気温が作業に大きく影響するからです。日本酒の発酵工程は温度が重要なので、比較的温度のコントロールがしやすい冬の寒い時期に酒造りを行っているわけです。日本酒には超複雑な様々な造り方がありますが、その中から、基本的な流れをご紹介します。
まずは、お米
ワインを造るワイナリーでは、自分のところでぶどうの栽培から手がけていますが、日本酒の世界では、日本酒用のお米を購入するのが一般的です。使うお米は、酒造好適米という酒造り専用の米(いわゆる酒米)を使うことが多いのですが、蔵によっては、食用の飯米を酒造りに使うこともあります。
・精米
米粒の外側は、雑味になる成分が多いため、米を表面から削って精米します。製品のラベルには「精米歩合」として、削った後の白米の部分の割合がパーセンテージで表記されています。精米機は高価ですし、この工程は外部の業者さんに委託していることが多いです。お米を50%まで削るのにかかる時間は、48時間ほど。それだけ長時間削ると米は熱を帯びてきて、その熱で水分が奪われます。そのため精米の後には「枯らし」という冷暗所で2~3週間保管して、お米内部の水分を均一化します。
・洗米
次に米を洗います。お米を洗って水につけ、お米に水を吸わせます。この吸水率は日本酒の出来ばえに大きく作用するので、時間をしっかり計って注意して行います。こうして、米に水を吸わせ、水を切ります。
・蒸米
そして、お米を蒸します。蒸し米の出来も酒質に大きな影響を与えるので、こちらも細心の注意が必要です。
麹(こうじ)を造ります
蒸し米に麹カビ菌を繁殖させる作業を、製麹(せいぎく)といいます。麹室(こうじむろ)という特別な部屋に蒸し米を運び、麹カビの胞子をふりかけ、高温多湿の環境で管理をします。昼夜を問わず温度と湿度管理をし、麹カビ菌に菌糸をのばさせます。
酒母(しゅぼ)を造ります
酒母とは、本番の仕込みの前に造る、発酵の「もと」になるもの。酵母を培養し、アルコール発酵を促すための、それこそ「お酒の母」です。200㎏程度の小さいタンクで、麹、米、水をまぜ、この中で酵母を培養します。酵母が繁殖しやすい環境にするため、乳酸菌を増やして雑菌が増えないようにするのですが、その乳酸菌の扱いによって、速醸、山廃、生酛造りなど仕込みの違いが出ます。
本格的な発酵、醪(もろみ)造り
いよいよ本番の酒の仕込みです。通常の仕込みでは、蒸米、麹、水、酒母を3回に分けてタンクに投入します。日本酒は、お米から糖をつくる「糖化」と、糖からアルコールを造る「アルコール発酵」を1つのタンク内で行う並行複発酵が特徴的です。この状態を「醪(もろみ)」といい、約2週間から1カ月程かけて温度管理をしながら造り上げて行きます。
発酵が終わったら、醸造アルコールを添加します。これは香味の調整や防腐効果のためです。
ただし、純米系のお酒にはアルコールは添加しません。純米酒を名乗るためには、米と水、麹以外の原料を使ってはいけないからです。
さて、いよいよ搾ります
ここだ!というタイミングで、搾りに入ります。
搾り方は、様々で、「やぶた」という自動圧搾機で搾るのが一般的ですが、布でできた酒袋に醪を流し入れ、それを槽(ふね)という搾り機に入れて搾ったり、酒袋を吊るして袋吊りする仕方などさまざまです。特別な搾りをしている時には、ラベルに特記しています。
この時点で酒粕ができます。
搾ったあとは、滓引きし、濾過します。
その後、必要であれば1回目の「火入れ」という低温加熱殺菌が行われます。原酒のまま出荷しないのであれば、割水をしてアルコール度数を調整します。また、瓶詰し、出荷前に60度前後で湯煎する場合もあります。この時の処理によって、生酒、生貯、生詰、火入れの酒、といた種類に分かれます。最後に、ラベリングをして出荷されます。
一本一本のお酒に込められた蔵の想い
いつも美味しく飲んでいる日本酒ですが、こんなにも様々な味わいがあるのかと、常日頃いち消費者として感心することばかりです。かなり複雑な目の離せない工程を繰り返し、やっと日本酒が造られます。これを、とても寒い中で作業をすると考えただけでも、気が遠くなりますね。苦労して一本一本の日本酒を仕上げる蔵の想いを、皆さんに味わっていただけますように。造りの背景も思い浮かべつつ、日本酒を味わえるお手伝いができたら嬉しいです。
※記事の情報は2018年3月7日時点のものです。