イタリアのクリスマス・イブの家飲みを教えてもらった! (2)
お肉は控えるというイタリアのイブの食卓。では、一体どんな料理が好まれるのでしょうか。イブの定番料理とそれに合うお酒をご紹介します。
イブの料理は魚介類で。シンプル・パスタが食卓の定番
前回のコラムで、イタリアのクリスマス・イブの食卓では、救世主の肉体をイメージさせる「肉」の料理や「赤ワイン」は出ないと教えてくれたマッテオさん。今回は、そんな日の定番料理を作ってくれると言います。どんな料理が好まれるのか、気になりますね。
「今日作るのは、これを使ったスパゲッティだよ」
そう言って、マッテオさんが取り出したのはアサリです。
「たしかイタリア語でアサリは「ボンゴレ」ですよね? ボンゴレ・スパゲッティなら、私も普段食べますよ」。そう言いつつ、やや拍子抜けした様子のリサさん。「だって、あまりクリスマスと結びつかなくて…」
すると、マッテオさん、「クリスマス当日には、たくさんのご馳走をいただくから、その前日は質素でシンプルな料理で体を清らかにしておくんだよ。魚介類が中心の料理だけど、調理もシンプルなものが好まれるよ」と教えてくれます。「なるほど、神聖な日を前に贅沢を控えるわけですね」。これにはリサさんも納得顔。
「でもね、このボンゴレ・スパゲッティも丁寧に作ると、絶品になるんだ。今日はイタリア人のこだわりを注ぎこんだ究極のシンプル・パスタを教えてあげるね」。するとリサさんの顔が、パッとひまわりになりました。「楽しみー!」 それでは、調理開始です。
ボンゴレ・スパゲッティをイタリア人のこだわりでつくってみた!
材料
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スパゲッティ
240g
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アサリ
400g
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白ワイン
1/2カップ
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ニンニク
2片
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イタリアンパセリ(なければ普通のパセリでも可)
1株
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唐辛子
1本
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オリーブ油
適量
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塩コショウ
適量
「なんと言っても、アサリの下処理が大事。ボウルにアサリを入れたら、塩水に浸してあげるよ。海にいるのと同じ状況(塩分3%ほど)を作ってあげるんだ。冷蔵庫に入れて、もう2時間ほどになるかな」とマッテオさん、あらかじめアサリの砂抜きをしてくれていました。
「そうしたら、今度はアサリの殻もしっかり洗うよ。ボンゴレ・スパゲッティでは、アサリも殻ごと炒めるから、殻が汚れていると、スパゲッティに移ってしまうからね」と流水で1粒1粒きれいにしています。
続いて、パセリを取り出します。「茎も使うから、まずは茎と葉に分けるよ」とこの作業も丁寧に。
「パセリを使うとき、なんとなく茎は捨てていました。これも大事なんですね」と感心するリサさん。「茎は火を通すと、少しずつ良い香りが出る。葉っぱは炒めるとすぐに焦げちゃうから、生で使った方がいいね」とマッテオさん、アドバイスしつつ「この茎とニンニクを先に炒めるよ」とフライパンに向かいます。
「軽くオリーブ油をひいたら、炒めるといっても香りを出す程度。すぐにアサリを入れて蒸し焼きにするよ。殻が開いてきたら、白ワインを加えて、蓋をし、さらに蒸すよ」。そして、ここでワンポイント。「あまり具材をヘラで混ぜないこと。貝殻が割れたり、身が潰れたりして、雑味が出ると美味しくない。フライパンを持って、数回揺するぐらいでいいんだよ」。
おいしいボンゴレは、澄んだスープが命
さてそのうち、フライパンが煮えるにつれて、辺りには潮の香りのような、アサリのいい匂いが漂ってきました。すると、マッテオさん、火を止めて、リサさんにお手伝いを頼みます。
「アサリを取り出してくれる?」というマッテオさんの指示に、「え? 1個1個、手で取るんですか?」困惑顔のリサさん。「そう。1個1個」とうなずくマッテオさん。顔は真剣です。
「あら。やってみると、意外に熱くない。手でもつかめますね」とリサさんも慣れてきました。「貝殻を一度取り除いて、スープを濾すんだよ」と言うマッテオさんに、「なんと、そんな丁寧なことをするんですね」と感心しきりのリサさん。
実際、細かい目のザルで濾してみると、意外にたくさんの砂が残りました。パセリの茎とニンニクもここで取り除いてしまいます。
「このスープがすべてスパゲッティに浸み込むわけだから、できるだけきれいなスープにしておきたいわけ。これが秘訣だね」とマッテオさんの表情も引き締まります。
きれいなスープをとり置いたら、スパゲッティを茹でます。
「茹で汁の塩加減もとても大事。1リットルにつき、11グラムの塩を入れるよ。今日は3リットル使っているから、33グラムの塩を入れたよ」とマッテオさん。なんと自前の量りで、塩の重さをきちんと計って入れました。「1~2人前だったら、目分量で大丈夫。だけど、4人前となると、勘ではうまくいかないんだよね。計ったほうが絶対安全」とハンパない気配り。
さて、再びフランパンへ。もう一度オリーブ油をひいて、ニンニクと唐辛子を弱火で炒めます。
「ニンニクは絶対に焦がしちゃだめ。そして、ある程度香りがついたら、ニンニクも唐辛子も取り除いちゃうよ」というのがマッテオ流。とにかく、澄み切った味に仕上げたいようです。
こうして、ニンニクと唐辛子の風味が移った油に、先のアサリを戻し、さらにスープも注いでいきます。
ここまでの作業はずっと弱火で。その間にスパゲッティを茹でますが、茹で時間は袋に表記された規定の時間より2分短くします。「ここでスパゲッティは上げちゃうよ。この後にアサリのスープを吸わせるためにね」とマッテオさん、フライパンに直接スパゲッティを混ぜていきます。
スパゲッティを軽く混ぜ合わせたら、さらに極々弱火でしばらく煮るようにします。じっくりとスープがスパゲッティに染み込むのがわかりますね。フライパンの底にスープがなくなる頃合いで、
細かく刻んだパセリの葉とコショウをサッとふりかけて、
さあ、出来上がりです。なんと丁寧に作られたボンゴレ・スパゲッティでしょう。見た目はシンプル、だけど中にはエキスがたっぷり詰まった極上の一皿に仕上がりました。
一口目をいただいたリサさん、目を丸くして「すごく濃厚。アサリの風味が最初に来て、スパゲッティを噛みしめると、ニンニクの香ばしさ、唐辛子のピリッとした辛さ、絶妙な塩味、ぜんぶをしっかり感じます」と驚きの声。「何のソースもかかってないのに、ボリュームがある感じがするでしょ。麺のなかに、すべてが閉じ込められているんだよね」と自画自賛のマッテオさん、お見事でした。
こうした質素な姿に、複雑で多様な、それでいてやさしい味わいを宿す料理は、まるで宇宙のよう。まさに聖夜にふさわしい一品だと納得しました。
魚料理によく合う白ワインベースのカクテルはこれだ
さて、マッテオさんはこの後、メインの魚料理「鯛のソテー玉ねぎソース」も披露してくれました。
それに合うお酒にも話が及ぶと、こんなアドバイスを。
「ボンゴレも鯛も魚介類だから、合わせるなら白ワインが定番だよね。だけど、せっかくのイブなのだから、少しはロマンチックな色もほしい。そんなとき、前回にも出たカンパリが使えるよ。カンパリ1に白ワイン4ぐらいの割合で混ぜ合わせ、さらに炭酸水1程度を加えるんだ。すると、魚に合う白ワインの味は残しながら、軽い口当たりのカクテルになるよ。さわやかなピンク色で見た目も華やか。魚介類にも合うんだよね。普段の家飲みにもきっとぴったりだよ。一度試してみて」
お肉と赤ワインはご法度のイブ。でも少しの工夫で、こんなに華やかなディナーが目の前に広がっています。あとは静かに奇跡を待つばかり、そんな感じの夜になりそうですね。
※記事の情報は2018年12月18日時点のものです。