池波正太郎『剣客商売』の再現レシピ《肴は本を飛び出して》
小説や漫画に登場するおつまみや料理を再現して一献やる、という家飲み派にはたまらない新連載がスタート。今回のテーマ本は、美食家としても知られる池波正太郎の人気小説『剣客商売』。日本酒がすすむ2品の再現レシピに挑戦しました!
本に登場する料理を再現して一献
家飲み派のみなさまなら一度は考えたことがあるのではないでしょうか。不肖・私めは、むしろ飲み食いの描写を目当てに読書をするタチでございます。
誠に僭越ながら、今回からそんな私がグイッと心惹かれた作中の料理を我流で再現し、一献やらせていただくというシリーズを始めることになりました。お酒片手にお付き合いいただけると幸いです〜。
粋な料理が満載! 美食家・池波正太郎の『剣客商売』
池波正太郎『剣客商売 八 狂乱』/新潮社
■あらすじ
主人公の秋山小兵衛は卓越した技と人並みならぬ好奇心を持つ老剣客。40歳離れた無邪気な働き者の後添いおはる、息子で同じく剣客の大治郎やその妻の女武芸者・美冬などに囲まれ暮らす日々のなか、江戸を舞台にさまざまな事件に遭遇しては痛快に解決していく。■ここを再現
小兵衛は食い道楽でもあり、自宅では料理上手なおはるが作る泥鰌(どじょう)鍋や鯰(なまず)料理を食べ過ぎたり、懇意にしている料理屋で心づくしの粋な一品に舌鼓を打ったりするなど、食べ物絡みの場面が多々出てきます。池波先生自身がかなりの美食家であったことから、思い浮かべるだけで喉がごくりと鳴るような素晴らしい描写ばかりで、今回もどの料理を取り上げようか迷いまくりました。その結果、各巻を読み返す中でも特に印象に残っていたこちらのシーンから引用することに。
おはると共にお気に入りの料理屋『元長』に出掛けた小兵衛。元長女将・おもとの知人夫妻の諍いに巻き込まれてしまうのですが、そうなる前に二階座敷でゆったりと楽しんだとされる品々が実に魅力的です。
長次は先ず、下ごしらえをした莢いんげんと茄子を、山椒醤油であしらったものを出しておいてから、鯔(ぼら)の細づくりを小兵衛の前に運ばせた。
「あたしは後で、煮蛸へ黒胡麻の味噌をまぶしたのが食べたい」
などと、おはるが上機嫌でいうと、
「それほどに、お前は台所仕事がいやかえ」
と、小兵衛にいわれた。
(中略)
いったん、階下へ降りて行ったおもとが、小海老に焼き豆腐の吸物を運んで来た。池波正太郎/新潮社 『剣客商売 八 狂乱』内「毒婦」
■お品書き
- 莢(さや)いんげんと茄子の山椒醤油和え
- 煮蛸の黒胡麻味噌まぶし
【再現レシピ①】莢(さや)いんげんと茄子の山椒醤油和え
ハリハリッとした莢いんげんの食感、少しだけ油を吸ったナスのコク、清涼感のある山椒の香りがとてもいい塩梅で、純米酒のひやによく合いました。
「元長のご主人・長次さんなら、ナスは塩もみしたのかな、それとも焼いて皮をむいたのかな」なんて考えながら再現してみるのはとても楽しかったです。
【再現レシピ②】煮蛸の黒胡麻味噌まぶし
黒胡麻と味噌がまず合うし(この和え衣だけ舐めながら飲める!)、タコをくにくにと噛むほどに胡麻や味噌の味と香りが立つのがなんともたまりません。
作り方は、ボイルされたお刺身用のタコを買ってきて適当なぶつ切りにし、黒すり胡麻と田舎味噌を混ぜたものをまぶすだけ。再現、めっちゃ簡単! ビニール袋にすべての材料を入れて上からモミモミしたらなじみがよかったです。
・・・・・・
両方とも、ぜひともリピートしたくなる素敵なおつまみでした。
「小兵衛さんはこのおつまみでどれだけ呑んだのかなぁ。おはるさんはお酒を呑まないだろうから、ご飯を一緒に食べていたのかな」などと思いを馳せながら呑むのは、控えめにいって最高。
時空を超え小兵衛さんと一献交わしている気分で、すっかりゴキゲンな宵でございました。
※記事の情報は2019年8月20日時点のものです。
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