様々な酒器で日本酒を愉しみましょう
日本酒と発酵フレンチのお店「SAKE Scene〼福」を経営する簗塲友何里(やなば ゆかり)さんのお酒コラム。今回は、日本酒の愉しみを広げてくれる様々な酒器たちのお話です。
酒器の愉しみ
日本酒の醍醐味の一つに、酒器を楽しむということがあります。お酒を飲むためには、平盃、お猪口、ぐい飲み、枡…… 最近では、ワイングラスで楽しむこともありますね。お酒を入れるのには、徳利、片口などなど。
日本酒は味も香りも様々で、温度帯も冷たいロックから、熱い飛び切り燗まであり、それらを同じ酒器で飲むなんてもったいない! 人間は味にとても敏感に反応できる素晴らしい能力があり、同じ飲み物でも器によって様々な味や香りの違いを感じることができます。
昔の酒器は?
まずは、日本酒の酒器の歴史について見てみましょう。昔は、日本酒を飲む席は社交の場であり、注ぎつ、注がれつのコミュニケーションが重要視されていました。そのやりとりの回数は多い方がコミュニケーションが進みます。そのためお猪口は小さめ。一気にクイッと飲める飲みきりサイズでした。骨董品のお猪口はたいてい、現在のものより小さめですね。前回もコラムでお話したように、お米は食用が主で、日本酒にして飲むのは神事や上層階級がほとんど。庶民的になったのは江戸時代くらいからです。そこで庶民は茶碗に日本酒を注いで呑んでいる時代もありました。そこから派生したのがぐい吞みです。ぐい吞みがお猪口よりサイズが大きいのはそこから来ています。下の写真、左が現代のぐい呑、右が骨董品のお猪口です。
また、お膳でご飯を食べていた時代には、小さいお猪口を取ったり置いたりするのが転げやすくて不便。フォーマルな場面では器に台を用いることも多いことから、お猪口を置く盃台というものもありました。
さて、様々な酒器がある中で、何を選んだらよいのか…… シーンや飲むお酒の温度帯で変えてみてはいかがでしょうか。
おめでたい席の枡(ます)酒
お祝い事では、樽酒を鏡開きし、枡に日本酒を注いで乾杯するのが主流です。もともと樽酒は、杉の香りが日本酒に付いているため、枡で飲んでも気になりません。かえって独特の味わいが楽しめます。ただ、瓶に入っている日本酒を枡で呑むと、香りや味わいが杉の香りでいっぱいになり、本来の繊細な香りや味が分からなくなるのであまりおすすめできません。
また、結婚式の三々九度やお正月の御屠蘇なども、漆の平盃を用いるのが主流ですね。晴れの日を彩る高級な漆の酒器で頂く日本酒は、気分も上がります。
冷酒向きの酒器
冷酒をキリっと冷たいままで呑みたい場合は、錫のお猪口。錫は、イオン効果でお酒の味をまろやかにするとも言われています。柔らかい錫は、加工もしやすいので、様々なデザインがあります。富士山の形のお猪口などもあり、海外からのお客様へのプレゼントに喜ばれそうです。
また、見た目も華やかで美しい切子も人気です。切子まで高級品じゃなくても、ガラス製のお猪口は涼し気で夏にもぴったりです。
ワイングラスは、香りが華やかな冷酒にはお勧めです。グラスの中でお酒を回してスワリングし、ワイングラスの壁面に日本酒をつけるようにする、一層香りが取りやすくなり味わいも変わります。
お燗酒向きの酒器
お燗はどうでしょうか。平たく広がり、口当たりが薄い、平盃がおすすめです。温度変化による味わいの違いが分かりやすく楽しめます。色も様々ですが、熟成した日本酒の色を見分けるには白地の酒器も良いです。
陶器や磁器のお猪口はお酒の温度帯を選びません。冷酒、冷や、お燗と様々な温度帯で使えます。
お酒を入れる器にも、徳利や片口があります。基本的に片口は、冷酒向きです。
徳利は両方に使っても良いですが、そのまま湯煎してお燗も楽しめて、便利ですね。
酒器は日本酒独特の楽しみ
シーンや温度帯、日本酒の種類によっても酒器を変え、好きな日本酒を楽しむ。旅行した先で、そこの名産のお猪口を購入し、家で旅の思い出を思い返しながら地酒を飲む。酒器変えることで日本酒の飲み方を広げたら、人生が潤いそうです。これだけ色々な酒器が楽しめるのは、日本酒ならではの世界。ぜひお気に入りの酒器と共に、素敵な日本酒ライフを!