酒飲みが選ぶ「平成 酒の10大ニュース」
ハイボールブームに獺祭ブーム…30年間のお酒のトピックを振り返ります。
30年続いた「平成」もあと半年で幕を降ろします。そこで酒文化研究所のモニター(酒好きで「ほとんど毎日酒を飲む」という一般の方)に、平成 酒の十大ニュースを選んでもらいました。
こちらで候補をあげて、モニターの皆さんに十大ニュースを選んでもらう方法でピックアップしたのがこの表です。 50代以上の方には平成初期の日本酒の級別廃止や特級ウイスキーの大減税が懐かしいのではないでしょうか。かつてはビールだけ、発泡酒規格や新ジャンルの区分はありませんでした。家庭用では新ジャンルが過半数を占めるようになった今、隔世の感があります。ポリフェノールの健康効果で赤ワインが爆発的に売れた後には、日本酒の美肌効果が注目されたり、本格焼酎が血栓を溶かすと話題になったりしたことも記憶に新しいことです。
平成 酒の10大ニュース
では、トップの日本酒の級別廃止から順に見て行きましょう。
第1位:酒税改正で日本酒の級別廃止
昭和15年に誕生した日本酒の級別審査制度は、高級品には高い酒税が課せられました。昭和50年代に入り高品質酒も審査を受けずに税額の低い2級で発売する動きが顕著になり、ついに半世紀続いた級別制度は平成4年に廃止になりました。
その後は吟醸や純米など製法・原料で区分した特定名称酒の表示が一般的となります。情報が開示されて品質の透明性が増す反面で、専門用語が多く並ぶようになり一般の人にはわかりにくくなったという意見もあります。
第2位:第3のビールが急拡大 第9位:発泡酒『ホップス』新発売
バブル崩壊後、内外価格差の是正が叫ばれ、安価な輸入ビールが人気を博すなかで、平成6年に麦芽使用比率を下げた発泡酒の『サントリーホップス』が登場します。大ヒットを受けてサッポロビールが『ドラフティ』で追随、満を持してキリンが『淡麗生』出すと、ついにアサヒビールも『アサヒ本生』を投入して、発泡酒は一気に激戦市場になりました。
その10年後、平成16年以降はさらに酒税額の低い新ジャンルビール風飲料が登場します。サッポロビールの『ドラフトワン』はえんどう豆タンパクを使ったビール風飲料で、「第3のビール」という言葉を生みました。ビール各社が次々に参入するなかトップブランドになったのはキリン『のどごし生』です。タレントのぐっさんがメッセンジャーで登場したCMを覚えている方が多いのではないでしょうか。そして現在ではビール市場は半分が発泡酒・新ジャンル商品となっています。
第3位:「角ハイボール」が料飲店で人気 第6位:酒税改正でウイスキー価格大幅改定
ウイスキーは平成元年の酒税大改正により特級の価格は大幅に下がります。昨日まで5000円で売られていたサントリー『ローヤル』は3750円に、3170円だった『オールド』は2370円に、『角瓶』は2750円から1980円で店頭に並びました。ウイスキー好きにはうれしい出来事でしたが、価格が崩れてギフトで使いにくくなりました。一方で安価だった2級ウイスキーの『レッド』は900円から1450円になります。この値上げで大衆品の2級ウイスキーは大きな打撃を受け、多くの愛飲者が焼酎に切り替わりました。
それから20年間、ウイスキーは厳しい時代が続きます。品質を向上させても、コマーシャルに大物タレントを起用しても、価格を下げても、ソーダ割りやハーフロックを提案しても、まったく市場は反応しません。 様子が変わったのは平成20年頃です。料飲店でウイスキーハイボールをジョッキで提供、一杯目は「とりあえずビール」というスタイルが揺らいでいたところに、うまくポジションを獲得します。それからはおいしく飲むための啓蒙や専用サーバーの設置が進み、若い世代や女性にも好まれる酒として復活。以降、ハイボールは全国どこの料飲店でもメニューに載るようになり、ウイスキー需要全体をけん引しています。
第4位:ポリフェノールで赤ワイン大人気
平成7年に高カロリー食を好むのにフランスの心臓病死亡率が低いのは、赤ワインに多く含まれるポリフェノールが動脈硬化を予防するからだと発表されて、赤ワインが一気に普及しました。さらに南米のチリやオーストラリアなど新世界と言われる、南半球の高品質でリーズナブルなワインが注目され、赤ワインが一大ブームとなりました。ワインスクールに通う方も増えていきます。あなたもこの頃に「カベルネ・ソーヴィニョン」「メルロ」「シャルドネ」などブドウ品種を覚えたのではないでしょうか。一緒に生ハムやナチュラルチーズも普及して、ワインが一気に身近になりました。
第5位:ジャパニーズ・ウイスキーが国際コンクールを席巻、評価が高まる
平成15年頃からサントリーやニッカのウイスキーが、国際的なメジャーなコンクールで繰り返し上位に入るようになります。海外での人気はうなぎ登りで国内のウイスキー市場が低迷するなか、輸出は着々と増えていきます。
日本のウイスキーが高く評されるようになった背景には、売れなかった時代にも多彩な原酒を確保し続ける努力がありました。形状もサイズも異なる蒸溜釜を導入したり、複雑な味わいを得るために木桶の発酵槽を復活させたり、良質な樽材を使うだけでなく新しい素材での貯蔵にチャレンジしたり、いくつもの取り組みをあげることができます。良質で多彩な原酒をもったことで、ジャパニーズ・ウイスキーは、より複雑な味わいを実現できたのでした。
しかし現在は人気が過熱しすぎて、『響』『余市』などの酒齢の長いものは販売を中断せざるを得なくなってしまいました。製造に10年スパンの時間が必要な高級ウイスキーは急には増産できません。こればかりは潤沢に供給できるようになる日を、ひたすら待つしかありません。
第7位:芋焼酎ブームで急拡大
昭和後期に『いいちこ』『二階堂』などの麦焼酎が全国に普及しました。平成ではより個性の強いいも焼酎に関心が向かいます。芋焼酎は鹿児島・宮崎が生産地であり消費地という南九州の地酒で、かつては「臭い」と嫌われていました。それが原料芋の集荷システムが刷新されて新鮮な芋での焼酎づくりが広がり、発酵や蒸溜の工程でも改善が重ねられて味わいが洗練されると、博多、大阪、そして東京で人気が爆発します。さらに本格焼酎がなかなか広がらなかった東北や北海道でも飲まれるようになっていきました。
全国に広がったのは平成15年頃からでしたが、飲み方は南九州で一般的なお湯割りだけでなく、水割りやロックなど多様化が進んでいきました。
第8位:ノンアルコールビール市場定着
かつてノンアルコールビールと言えば、運転する時や休肝日など飲めないときの代替品という位置づけでした。それが飲み慣れてくるとともに積極的に選ばれる飲み物に変わっていきます。ノンアルコールビールが日常的に飲まれるようになってきました。
第10位:日本酒で『獺祭』が大人気に
平成の時代の日本酒の大ヒット商品と言えば『獺祭』でしょう。製造元の山口県の旭酒造は携帯電話の電波も届かない山奥の小さな蔵でしたが、人気の高まりとともに増産体制をつくり、高品質酒の量産を実現します。一般のメディアにもたびたび取り上げられて、日本酒ファンでなくともその名前を知るところとなりました。国内だけでなくニューヨーク、ラスベガス、ロンドン、パリ、香港などインターナショナルな市場でも高く評価されています。
※記事の情報は2018年10月21日時点の情報です。