歩いて楽しむ酒⑤ ワイルドターキーでマスターディスティラリーに遭遇
歩いて楽しむバーボン第2弾。ワイルドターキー蒸溜所を訪れました。
ルイビルの空港からまず向かったのはワイルドターキー蒸溜所です。ケンタッキー州に点在する蒸溜所のなかでも東寄りのローレンスバーグ(Lawrenceburg)にあります。ハイウェイを1時間ほど走って到着、15時からのガイドツアーに参加しました。
予習:バーボンのつくり方と原材料
蒸溜所を見学する前に、バーボンの基本的な製造方法をおさらいしておきましょう。バーボンは欧州からの移民がウイスキーづくりの技術を伝え、アメリカで入手しやすい原料でしてつくりだしたものですが、製法と原材料の規定は次のとおりです。
■原材料
コーン51%以上。ほかに大麦麦芽、ライ麦、小麦などが使われる。混合比率は蒸溜所ごとのレシピによる
■蒸留方法
アルコール度数80%以下で蒸留。モルトウイスキーはポットスティル(単式蒸溜器)で2回ないし3回蒸溜するのに対して、バーボンはコラムスティル(連続式蒸溜機)を使用
■貯蔵方法
内側を焦がしたオークの新樽にアルコール度数62.5%以下で貯蔵
■熟成期間
(ストレート・バーボンと名乗るには)2年以上の熟成が必要
■瓶詰
水以外を加えずにアルコール度数40%以上で瓶詰
バーボンの原料はコーンと覚えている方が多いと思いますが、コーンを51%以上使えばよく、ライ麦や小麦、さらに澱粉を糖に変える酵素が豊富なモルト(大麦麦芽)を利用します。また、バーボンの華やかな甘い香りは、新樽での貯蔵熟成が定められているとことから生まれてきます。新樽には強いバニラ香やウッディな香りが強く、甘く感じられるのです。
深い谷に飛び出すバンジージャンプ
ワイルドターキーの蒸溜所を目指して、空いた田舎道を快適にドライブしていくと、時々、ロードサイドの林のなかに公団住宅のような大きな建物が点在しているのを見かけます。何だろうと思っていましたが、すべてバーボンの貯蔵熟成庫とは後で知りました。バーボンの熟成庫は7~8階建が当たり前で、当然、上の方は室温が非常に高くなり、熟成が早く進みます。樽をローテーションさせたり、あえてずっと上段で熟成させたり、蒸溜所の狙った原酒づくりのノウハウが隠されています。
そんな景色に見とれていて、うっかり看板を見落としたようです。カーナビが戻れと案内を変えました。その時に目に飛び込んできたのは深い谷にダイブする若者たちの姿です。廃線になった鉄道の橋の中ほどにバンジージャンプのジャンプ台が設けてあり、そこから飛び出していきました。高いところが苦手な私には、ジャンプはおろか橋の上をジャンプ台まで歩いていくのも難しそうな大迫力のジャンプ台です。
熱気に気圧され、蒸溜器に圧倒される
そんなこんなでガイドツアーの出発時間ぎりぎりに蒸溜所に到着。なんとかバスに駆け込みました。ここでは広い敷地に点在する施設を専用のバスで巡って見学します。参加費は試飲料金も含んで10ドル。約1時間のツアーです。
最初に見るのは糖化・発酵・蒸溜までの工程です。工場のなかに入ると熱気が伝わってきます。破砕した麦芽と原料を煮沸して糖化する工程は、かなりの熱量が必要です。見学コースはガラスで仕切られていましたが、汗ばむほどの熱を感じました。
さらに進むと発酵槽が並んでいます。大きなステンレス製のタンクはなかを覗きこむと、表面を細かな泡が覆って、いい香りが漂ってきます。 続いては蒸溜行程。大きな蒸溜器の中ほどの赤黒い胴の部分が見えます。イメージは宮崎駿作品で描かれる近代工場ですが、残念ながらここも側まで近づけません。蒸溜液は連速式蒸溜器なのでいくらでもクリアにはできますが、濃厚な風味を得るために蒸溜時のアルコール度数を低めにしている(60%~65%。法律では80%以下と規定)と説明してくれました。
貯蔵熟成庫は巨大モンスターボックス
蒸溜工程を過ぎると工場は「静」に場面転換。さきほどまでの熱気と喧騒は失せて、ワイルドターキーの味わいを吟味するブレンディング・ルームが現れました。多彩なボトルとさまサンプル原酒が並んでいます。
さて、この棟での見学はここまで。次は貯蔵熟成庫へと向かいます。移動はもちろんバス。ほんの数分の距離ですが、一度、公道に出て通りの向かいにありました。貯蔵熟成庫は傍で見るとさらに大きく感じます。
貯蔵熟成庫のなかは太い柱と梁が縦横に走り、バーボン樽に詰められた原酒が1階から上の方までびっしり積まれていました。これが7階、8階まで積み重なっているというのが信じがたい景色です。サントリー山崎蒸溜所や白州蒸溜所など日本のウイスキー蒸溜所と違うのは、樽のサイズがバーボン樽ばかりで同じだという点です。ただ、ワイルド・ターキーは通常より小ぶりな33ガロンサイズの樽にだわりがあり、経験的にこのサイズがもっともいい状態で熟成が進むと言います。
酒齢の長いものからリキュールまで試飲はフリー
ゲストハウスに戻っていよいよ試飲です。新しくなったばかりというゲストハウスにはバーボンの製法やワイルドターキーのこだわり、そして歴史がコンパクトにまとめられています。明るい試飲ルームではツアーをガイドしてくれた彼が、にこやかにすべてのアイテムの試飲をすすめてくれます。きれいに磨かれた蒸溜器のそばで、じっくりと飲み比べできました。
さて、たっぷり試飲できたし、そろそろ帰ろうかと思った時に、遠くでどよめきが聞こえました。1954年に入社し、長くマスターディスティラーを務めるジミー・ラッセル氏がやってきたのです。バーボンファンやワイルドターキーファンにはたまりません。一緒に写真を撮る人が列をなしていました。かくいう私もその一人です。