「グレーンウイスキー」について詳し目に調べてみた。

分かっているようで今ひとつぼんやりとしていた「グレーンウイスキー」について、少し詳し目に調べてみました。

ライター:まるまる
メインビジュアル:「グレーンウイスキー」について詳し目に調べてみた。

「シングルグレーン」の登場でちょっと混乱した私

いまウイスキーは大ブーム。専門店はもちろん、スーパーマーケットでさえブレンデッドウイスキーやシングルモルトの銘柄が棚にずらっと並んで、目移りしてしまうようになりました。ウイスキー通ならそのなかに自分好みの銘柄がいくつもあるはずです。

シングルモルトウイスキーは、人気銘柄が品薄になってしまうなど話題になることも多いので、最近ではいろいろなところでたくさん解説されています。大麦麦芽(モルト)だけを原料として発酵させ、単式蒸留器(ポットスチル)で2回または3回蒸留し、木の樽で熟成させたウイスキーが「モルトウイスキー」です。さらに、ひとつの蒸留所だけでつくった(つまり複数の蒸留所のものを混ぜない)ものを、「シングルモルトウイスキー」といいます。

これに対しブレンデッドウイスキーは、モルトウイスキーと「グレーンウイスキー」をブレンドしたものです。シングルモルトウイスキーに比べると、ブレンデッドウイスキーは安価なことが多いのだから、きっとこの「グレーンウイスキー」というのは「価格を下げるための安価なモノ」「味わいも個性も薄いモノ」なんだろうな、くらいに思っている人が多いのではないでしょうか。実は本欄担当もほぼそう考えていました。

ところが最近「シングルグレーンウイスキー」なるものが登場しました。つまりモルトがぜんぜん入ってないのです。ひとつの蒸留所でつくるグレーンだけのウイスキーです。そして、モノによっては、これがブレンデッドウイスキーよりも、さらにはシングルモルトウイスキーよりも値段が高かったりするのです。

モルトウイスキーに寄り添ってブレンデッドウイスキーを縁の下で支えている存在だと思っていたグレーンウイスキーが「いやモルトはいらないから。オレ一人で、できるから」と言って主張を始めたわけで、これはウイスキー初心者の私たちは混乱します。そこで今回はこの「グレーンウイスキー」について、少しちゃんと調べてみることにしました。
 
連続式蒸留機

原料と蒸留機は違えども熟成はモルトウイスキーと同じ

グレーンウイスキーとは、おおまかに言って穀類(グレーン)と麦芽(モルト)を原料として発酵させた後に「連続式蒸留機」で蒸留し、木の樽で熟成させたウイスキーのことを指します。この「穀類」というのは、小麦でもライ麦でもエン麦でも、とうもろこしでもいいようです。大麦でもいいのです。また「麦芽」は、大麦麦芽に限るとはどこでも言っていませんので、小麦麦芽の場合もあるのかもしれません。かもしれません、などと自信なげになってしまうのは、どのメーカーも、グレーンウイスキーの原料をあまり発表しないからです。ちなみに、ブレンデッドウイスキーのモルト対グレーンの割合もほとんど発表されません。

ちなみにあるメーカーによると、グレーンウイスキーの原料である穀類の価格は、大麦麦芽の3分の1くらい、だということです。けっこう節約できますね。原料は違いますが、これを糖化させて発酵させて「もろみ」にする工程はモルトウイスキーと一緒です。そして、次の蒸留工程が違います。

グレーンウイスキーの蒸留で使われる「連続式蒸留機」は少し複雑な機械なので、モルトウイスキーの単式蒸留器のように「蒸留器」ではなく、「蒸留機」と書きわけたりします。シングルモルトのように一回目が終わったら二回目と段階を区切って蒸留するのではなく、蒸留機の中を通るもろみから連続的にアルコールの気体が取り出されます。

連続式蒸留機はいろいろな形がありますが、いちばん有名なのはマルチカラムと呼ばれる、塔のように背の高い筒状のもの。考案者のカフェさん(またはコッフィーさん)の名に由来する「カフェ式」という蒸留機もこの一種です。ビルの何階分もの高さがあったりもして、筒の中は何十段もの棚に仕切られています。その一つひとつの棚で、もろみから気体になったアルコールを取り出すのです。冷やされて液体になったアルコールもまた戻して蒸留する仕組みになっていて、結果的にアルコール度数が94度台という高濃度の原酒が得られます。ちなみにモルトウイスキーの原酒は65度から70度くらいです。グレーンウイスキーの原酒は、香味成分が少なく、モルトウイスキーのようなクセがありません。

原酒ができたら熟成です。ウイスキーで大切な工程です。これは、グレーンウイスキーでもちゃんとやります。使う樽もモルトウイスキーと同じオーク樽だし、10年熟成と銘打ったブレンデッドウイスキーなら、そのなかのグレーンウイスキーもきちんと10年以上熟成させている必要があります。つまり、原料から蒸留という入口の部分では原価を節約できますが、熟成の工程にかかる費用はシングルモルトと同じです。長期熟成によって個性的で深い味わいを実現しシングルグレーンウイスキーとして製品化されるものは、充分に手がかかっているため、価格も上がってくるわけです。
 
シングルグレーンウイスキー

グレーンウイスキーこそむしろ主役

熟成の終わったグレーンウイスキーは口当たりがなめらかで、ブレンデッドウイスキーを飲みやすくしてくれます。ちなみに、ブレンデッドウイスキーをつくるとき、まず先に決めるのはどのグレーンウイスキーを使うのか、なのだそうです。グレーンウイスキーはモルトウイスキーの脇役などでは決してなく、むしろ主役。ウイスキーの風味や口当たりを決定づけるメインのパーツであり、それ単体でも充分においしく飲めるポテンシャルがあるのです。

話は少し逸れますが、穀類を原料にした、連続式蒸留機を使ってつくるウイスキーといえば、もうひとつアメリカの「バーボン」があります。バーボンは、原料のとうもろこしの割合、樽、アルコール度数などに独自の規定があるものの、つくり方はグレーンウイスキーとだいたい同じ。シングルグレーンウイスキー的なものを、私たちはずっと前から普通に飲んでいるわけです。

いま、日本のシングルグレーンウイスキーは、ニッカの「カフェグレーン」、サントリーの「知多」などがあります。スコッチでもいくつか見つけることができます。いずれも、軽やか&まろやかで飲みやすく、ハイボールなどにもうってつけ。そして味わいや個性が薄いなどというのは誤解のようです。「クセ」が少ないだけで、それぞれ個性的な味わいはしっかりと楽しむことができます。シングルモルトやブレンデッドだけでなく、これからはグレーンウイスキーにも大いに注目していきたいと思います。


※記事の情報は2019年2月7日時点のものです。

 
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