いま注目の南アフリカワインについてマスター・オブ・ワインに聞いてきた。
いま注目のワイン産地、南アフリカ。そんな南アフリカワインの「いま」を南アフリカ在住で世界最難関のワインの資格“マスター・オブ・ワイン”の取得者、キャシィ・ヴァン・ジルMWにお話を伺いました。
マスター・オブ・ワイン
キャシィ・ヴァン・ジルMW
生産量は世界のトップ10に入るワイン生産国で、その歴史は350年以上と新世界の中では長い歴史を持つ南アフリカ。そんな世界から注目を集める南アフリカワインの「いま」を南アフリカ在住で世界最難関のワインの資格“マスター・オブ・ワイン”の取得者、キャシィ・ヴァン・ジルMWにお話を伺いました。
Cathy Van Zyl(キャシー・ヴァン・ジルMW):商学士号を持っており、貿易ジャーナリスト及び編集者としてキャリアをスタートする。有名なケープタウン・サイクル・ツアーに参加を決め、夫を誘ったことから転機が訪れる。ツアーに参加する代わりに、ケープタウンのワインアカデミーに一緒に参加してほしいとの夫からの要求がきっかけとなりワインの勉強を始める。1992年から2015年まで毎年サイクリングツアーに参加し、その数は21回にも上る。
その一方でワインの勉強も続け、2005年にマスター・オブ・ワインの試験に合格。現在はマスター・オブ・ワイン協会の教育委員長として活躍する一方、あらゆるワインコンペの審査員もこなす。また「Platter's South African Wine Gudie」の共同編集者として多くの時間をかけ南アフリカワインの研究をしている。
そういった南アフリカワインのプロモーションにかける情熱が評価され、2019年に“Cape Wine Master's Personality Of The Year”を受賞している。
マスター・オブ・ワイン(MW)とは
マスター・オブ・ワイン(MW)とは、グローバルなワイン業界における最高の教育と業界の水準の向上を目標として、1955年に設立された非営利団体、インスティテュート・オブ・マスターズ・オブ・ワインが授与する資格。非常に厳しい試験内容で知られ、「ワイン界のノーベル賞」とも言われています。
南アフリカのワインの特徴とは
—— 南アフリカのテロワールを教えてください。
キャシー 南アフリカは“南”の“アフリカ”という名称なので、日本では暑い国というイメージを持たれている方が多いですが、赤道以南は南に行くほど涼しくなりますので、実際には冷涼な気候の国なんです。ペンギンも生息しているぐらいですから。また砂漠のイメージとも違い、起伏の激しい山と谷が繰り返し連なる地形なのも特徴です。ケープタウンから北へ行くほど標高は高くなっています。そんな冷涼な気候のもとで酸の高いブドウが育つので爽やかな酸味のあるワインに仕上がるんです。
—— 南アフリカのワインにはどのような特徴がありますか。
キャシィ 南アフリカのほとんどのブドウ栽培地はウェスタンケープ州にあります。ウエスタンケープ州はブドウ栽培に非常に良い条件が揃っているので、とても高品質なワインができます。シャブリよりも古い良質な土壌、夏は温暖で乾燥、冬は冷涼で降雨があるというギリシャやイタリア中部のような地中海性気候、ケープドクターと呼ばれる海風が畑の温度を涼しく保ってくれるなど、とても良い条件が揃っています。
ケープドクターのおかげで病害も少ないので、農薬に頼らないブドウ栽培ができるのも特徴です。
—— つまりオーガニックワインが多いということでしょうか。
キャシィ はい。実は南アフリカはオーガニックワインが多いです。ケープドクターの恩恵もありますが、ビンヤード間に距離があるため、隣の畑からの汚染が極めて少ないというのもオーガニックワインに適した環境が整っています。また南アフリカでは酸化防止剤の使用量が世界一低い基準(1L当たり250mg以下)に制限されているので、環境にも人にも優しいワインだと言えると思います。
—— 人にも優しいと言えば、南アフリカはフェアトレードが盛んなイメージがありますが、ワインでの取り組みの状況はいかがですか。
キャシィ フェアトレードも進んでいます。しかしながら、コーヒーなどの農作物と比べてフェアトレード認証の仕組みが複雑なため、認証にコストがかかってしまい、ワインの価格にも影響してしまうので認証を受けているワインは残念ながら少ないのが現状です。—— 続いて南アフリカのブドウについて教えてください。どのような品種が栽培されていますか。
キャシィ 南アフリカのブドウ栽培面積は白ワイン用品種が55%、赤ワイン用品種が45%の割合です。白ワイン用品種はシュナン・ブランが有名で、他にはシャルドネやソーヴィニヨン・ブランといった国際品種も広く栽培しています。
赤ワイン用の品種はカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーといった国際品種に加え、南アフリカ特有の品種であるピノタージュが栽培されています。
—— 幅広い品種が栽培されていますね。
キャシィ そうですね、冷涼な気候を活かして国際的なニーズに対応した品種の栽培が進んでいます。逆にシュナンブランのようにとても歴史の古いものもあるのですが、あまりそのことが認知されていないので、いまは南アフリカワインの歴史を知ってもらうため、オールドワインの商品化に積極的に取り組んでいるところです。
南アフリカワインの可能性
—— 日本市場での南アフリカワインは今後どうなるでしょうか。
キャシィ いまのところは市場はそんなに大きくはないが、少しずつですが南アフリカワインの品質の高さが認知されてきているので、これから伸びる傾向は感じますね。日本ではオレンジワインが既にトレンドになりつつあり、そういった目新しいものに惹かれる傾向がありますよね。
南アフリカのオーガニックワインもそういった意味では支持される可能性は大いにあると思います。環境にも人にも優しい南アフリカワインをもっと日本の方に楽しんでもらえると嬉しいです。
※記事の情報は2019年11月4日時点のものです。
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