ベルギーのビールを飲んでみた!~ソムリエ厳選のおすすめを紹介~

世界のさまざまな国で飲まれているビールですが、国によってそのスタイルは多種多様。そんな各国のビールを、ソムリエの資格を持つ名古屋の酒類卸の青田が紹介する企画。今回はその多様なスタイルが魅力のビールの国、【ベルギー】にスポットを当てご紹介します。

ライター:青田俊一青田俊一
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ベルギーのビールをご紹介!

いよいよ待ちに待ったゴールデンウィーク。以前記事でもご紹介したのですが、私の住む名古屋では例年、ゴールデンウィークにベルギービールウィークエンドが開催されています。
しかし残念ながら新型コロナウイルスの影響により、ここ2年はゴールデンウィークに開催することができませんでした。昨年は夏に延期してなんとか開催はできたものの、名古屋以外のエリアでは中止になってしまったところも多かったようです。

今年は念願のゴールデンウィーク開催が叶うかも?と期待する一方、まだまだ予断は許さない状況ですので、せっかくなら家飲みでベルギービールを楽しもう!というわけで、世界のビールを飲む企画の第2回目は【ベルギー】のビールについてご紹介したいと思います。

ベルギーのビールの歴史と文化

ベルギーの風景
ベルギーのビールの魅力を一言で表すならば「多様性」です。ベルギービールウィークエンドを訪れたことのある方であればおそらくお分かりになるかと思いますが、ピルスナーに慣れ親しんだ人にとっては飲み慣れない味わいのビールのオンパレード。こんな味のビールがあるの?と驚かされるほどです。

そもそもなぜベルギーにビールが根付いたかと言うと、その理由は「気候」にあります。

ヨーロッパの北側に位置するベルギーも、前回ご紹介したイギリスと同様、ワイン醸造用のブドウの栽培には適していませんでした。そのため、寒い土地でも栽培できる麦を原料としたビール造りが盛んに行われ、発展してきたという歴史的背景があるのです。

▼イギリスのビールの記事はこちら
また、ベルギーは古来よりヨーロッパの交通の要所として重要視されてきたため、長きに渡りさまざまな国の統治下に置かれることになります。ベルギーとして独立することができたのは1830年と、ヨーロッパの中では比較的新しい国家です。

そのため、国家としての一体感はそれほど強くないという一面もありますが、逆に昔から生活を共にする地域や村単位といった小さなコミュニティでの結束力は強いという一面があります。こうしたことから地域密着の意識が強く、地元のビールを好む傾向があるので、各所で昔ながらの醸造方法のスタイルが生き残った結果、現在の多種多様なスタイルにつながっているというわけです。

ベルギーのビールのスタイル

ベルギーのビール
ベルギービールの種類は細かく分けると何千とも言われているくらい多種多様です。

ベルギーもイギリスと同様、上面発酵のエールビールが主流となるわけですが、同じエールビールでも仕上がりの色やアルコール度数、味わいは造られる地域によってさまざまです。それぞれをスタイルに分類しているわけですが、そこに生産者によるスタイルの分類が加わるため、見た目や味わいだけではなかなか判断しにくいというのもまた、ベルギービールの面白いところです。

飲むべきベルギービール5選!

上でご説明した通り、ベルギービールはとにかくスタイルが多いため、今回は代表的なものを5つ選びました。それではいってみましょう。

厳選ベルギービール①|ヴェデット・エクストラ・ホワイト

ヴェデット・エクストラ・ホワイト
まずはこれ、「ヴェデット・エクストラ・ホワイト」です。

「ヴェデット・エクストラ・ホワイト」はベルジャンホワイトというやや白く濁ったビールで、原料の一部に小麦やスパイスを使用しているのが特徴。スパイスにはコリアンダーやオレンジピールが使われることが一般的です。日本のクラフトビールではヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」がこのスタイルに該当するので、日本では最もおなじみのスタイルだと思います。

まあ何はともあれ、まずは試飲です。
ヴェデット・エクストラ・ホワイト
グラスに注ぐと、前説通りの濁りのある淡いイエロー。クリーミーな口当たりにフルーティーな風味、スパイスのニュアンスがほんのり鼻に抜けます。これぞベルジャンホワイトという感じの1本です。個人的にはシーフードとの相性が抜群のビールだと思います。

ちなみにこちらのブランドはもともとベルギーのスタイルではないエクストラIPAも手掛けており、先進的な一面も持っています。「ヴェデット・エクストラ・IPA」についてはこちらの記事にてご紹介していますので、ぜひご覧ください。

では次にいきましょう。

厳選ベルギービール②|オルヴァル

オルヴァル
2本目はトラピストビールなるスタイルに分類される「オルヴァル」です。

先述したように、ベルギービールのスタイルには製法や色、アルコール度数のような要素だけではなく、生産者によるスタイルも存在しています。その中でも代表的なのが「修道院ビール」と呼ばれるスタイルです。

修道院ビールとはその名のとおり、修道院で造られるビールのスタイル。かつてベルギーにて伝染病が流行し、飲用水の安全性が求められた時代に、一度煮沸殺菌されているビールは安全な飲み物だとされました。当時はキリスト教が権威を持っていたため、修道院でのビール製造が推奨された結果、発展したのがこの修道院ビールというスタイルです。

修道院ビールは大きく分けると、トラピスト会派の修道院の管理下で造られる「トラピストビール」とそのほかの修道院で造られる「アビィビール」の2つがあり、こちらはトラピストビールに分類されます。

トラピストビールはヨーロッパ各地に11の醸造所がありますが、そのうちベルギー国内にあるのはシメイやウェストマールなど6つ。その中のひとつがオルヴァルです。

こちらも早速飲んでみましょう。
オルヴァル
グラスに注ぐと輝くようなオレンジ色。濃厚な口当たりに、少しだけロースト感のある香りが鼻に抜けます。

苦みと旨みのバランスがとてもよく、かつてキング・オブ・“ホップ”として知られたビール評論家、故マイケル・ジャクソン氏が日本の記者に「人生の最期に飲みたいビールは何ですか」と聞かれた時に、明確に「オルヴァル」と答えたそうですが、確かにこの味わいは素晴らしいです。

厳選ベルギービール③|セゾン1858

セゾン1858
3本目は「セゾン1858」。こちらは名前にも入っているようにセゾンビールというスタイル。

修道院ビールに続き、こちらも生産者によるスタイルの分類となります。セゾンビールはもともと夏の農作業の間に水代わりに飲むビールとして農家が造っていた自家用ビール。それぞれの農家が独自の製法で造っていたため、これといった明確な特徴はないのですが、水代わりに飲んでいたビールということで、アルコール度数6%前後の爽やかな味わいのタイプが多いようです。

ちなみに“セゾン”はフランス語で、そのまま英語にすると“シーズン”。季節のビールという意味で、最近では日本のクラフトビールでもよくこのスタイルを見かけるようになりました。

「セゾン1858」はデュ・ボック醸造所の設立150周年を記念して1858年に初めて造られたビールで、名前に入っている1858はこの年号に由来しています。2013年にはワールド・ビア・アワードにて世界最高のセゾン・ビールに選ばれた、味わいに定評のある1本。これは期待大ですね。
セゾン1858
グラスに注ぐと淡いイエローゴールド。すっきりとした口当たりに、ほんのりスパイス感と柑橘のような苦みのある味わい。複雑さもありながら爽やかな味わいは、現代風にアップデートされたセゾンビールという感じです。フライドチキンによく合いそうです。

厳選ベルギービール④|ブーン・グース

ブーン・グース
4本目は「ブーン・グース」です。こちらはランビックというスタイル。個人的にはこれがベルギービールの中で最も特徴的なスタイルだと思います。

ランビックは自然発酵ビールとも言われるビールで、酵母を人の手によって加えるのではなく、醸造所に棲みつく野生酵母を使用して発酵させています。日本酒で言うところの“山廃”に近い感じですね。

とはいえニュアンスが近いだけで、完成までのプロセスはまったく別物。まずは通常の何倍もの時間をかけて煮沸した麦汁を冷却し、野生酵母を取り入れます。冷却された麦汁を古いオークの樽にて発酵し、その後1~3年熟成。そして複数の熟成年数の樽をブレンドし瓶詰めします。その間、野生酵母は生き続けていますので、ずっと発酵は進んだままです。もちろん瓶内でも発酵が続きますので、シャンパーニュなどのスパークリングワインと同様の瓶内二次発酵という形になります。写真でもお分かりになるかと思いますが、ボトルの栓もビールいうよりスパークリングワインそのものですよね。

なお、使われる酵母は生息地が限られており、ランビックを名乗れるのはブリュッセル近郊の醸造所で作られたビールだけなので、ベルギーにしかない唯一無二のスタイルとなっています。

これはとにかく試飲あるのみです。
ブーン・グース
名前にも入っている“グース"とは、若いランビックと古いランビックをブレンドしたもののことを指します。この「ブーン・グース」は18ヶ月発酵させたランビックを90%、3年間発酵させたランビックを5%、そして若いランビックを5%をブレンドして、瓶内発酵させたものになります。

色合いはいたって普通にゴールド。ですが、味わいは初めて飲む方には衝撃的かもしれません。樽由来の少しローストした風味に、グレープフルーツのような柑橘の苦みとフルーティーさ、そして何よりも特徴的なのが独特な酸味。複雑でありながらもまとまったこの不思議な味わいは、ちょっと形容しがたいところがあります。

正直なところ、これまで出会ってきたランビックには酸味がかなり尖ったものが多かったため避けて通ってきた節があるのですが、これはいけます。個人的にはスパイスカレーに合わせて楽しみたい1本です。

厳選ベルギービール⑤|ブーン・クリーク

ブーン・クリーク
最後は「ブーン・クリーク」です。先ほどの「ブーン・グース」と同じくブーン蒸溜所が手掛けるビールです。

こちらもランビックにはなるのですが、フルーツビールというスタイルにも分類されています。フルーツビールは読んで字のごとくフルーツのビールなわけですが、フルーツを主原料にしているわけではなく、醸造の途中でフルーツやフルーツシロップを副原料として投入して造られており、そこで生まれるフルーツ香が特徴となっています。

このスタイルは日本のクラフトビールにも多く、特産物のフルーツを使用したフルーツビールは全国各地で造られています。

こちらの「ブーン・クリーク」は1〜2年熟成させたランビックにサワーチェリーを加え、さらに古いオーク樽で熟成させたランビックとブレンドした、フルーツ・ランビック。

この外観からビールだと思う人は少なそうです。それでは試飲です。
ブーン・クリーク
これもまた初めての方には衝撃的でしょう。

まずもってこの赤い色合い。ビールというより薄い赤のスパークリングワインのようです。味わいは甘酸っぱく、チェリーのフルーティーな風味が爽やか。ビールというより赤ワインのニュアンスのほうが近いかもしれません。アルコール度数も低めに抑えられているので、食後の口直しや3時のおやつにぴったりです。

***

今回ご紹介した以外にも、ベルギーにはブロンドエールやゴールデンエールといった伝統的なスタイルや、日本でもおなじみのピルスナーにも有名なものがあります。さらにクラフトビールの醸造も盛んだったりするので、まだまだご紹介したいスタイルは山盛り。百聞は一見に如かずですので、とにかくいろいろなベルギービールにトライして楽しんでもらえればと思います。

名古屋の皆さまは、ぜひベルギービールウィークエンドに足を運んでみてください。

 

【商品概要】ヴェデット・エクストラ・ホワイト

  • 生産国:ベルギー
  • 原材料:麦芽、ホップ、小麦、コリアンダー、オレンジピール、糖類、酵母
  • アルコール度数:4.7%
  • 容量 / 容器:330ml / 瓶
  • 参考小売価格:450円(税抜)
  • 輸入元:小西酒造

【商品概要】オルヴァル

  • 生産国:ベルギー
  • 原材料名:麦芽、ホップ、糖類
  • アルコール度数:6.2%
  • 容量 / 容器:330ml / 瓶
  • 参考小売価格:660円(税抜)
  • 輸入元:小西酒造

【商品概要】セゾン1858

  • 生産国:ベルギー
  • 原材料名:麦芽、ホップ、小麦、糖類、コリアンダー、オレンジピール、リコリス
  • アルコール度数:6.4%
  • 容量 / 容器:330ml / 瓶
  • 参考小売価格:594円(税抜)
  • 輸入元:小西酒造

【商品概要】ブーン・グース

  • 生産国:ベルギー
  • 原材料名:麦芽、ホップ、小麦、糖類
  • アルコール度数:7%
  • 容量 / 容器:375ml / 瓶
  • 参考小売価格:743円(税抜)
  • 輸入元:小西酒造

【商品概要】ブーン・クリーク

  • 生産国:ベルギー
  • 原材料名:麦芽、ホップ、小麦、糖類、さくらんぼ/甘味料(アセスルファムK)
  • アルコール度数:4%
  • 容量 / 容器:375ml / 瓶
  • 参考小売価格:790円(税抜)
  • 輸入元:小西酒造
※記事の情報は2022年4月18日時点のものです。
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