秋には減税! ビールがますますおもしろくなる

今年は10月にビールが減税され、反対に新ジャンルは増税されます。ビール類の税率一本化に向けた措置で、2020年秋の同じ改正ではビールが増加基調に転じました。今回の変化にビール各社はどのように対応するのでしょうか?

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ビールは350mlが約7円減税、新ジャンルは約9円増税

ビール類市場の今年のトピックは2つです。ひとつは10月に予定されているビール類の酒税率の見直し。もうひとつはアフターコロナで業務用(外飲み)がどこまで回復するかです。各ビールメーカーの年初の事業方針説明会から、こうした変化にどのような戦略で適応しようとしているのかを見ていきますが、その前に税率改正の概要と2022年のビール類市場をおさらいしておきましょう。

10月に予定されている酒税率の改正は、ビール・発泡酒・新ジャンルの税率を同じにするための2回目のものです。1回目は2020年に実施され、2026年の10月にもう一度変更されて、ビール類と括られる3つのカテゴリーが同じ酒税率になります。今回の改正ではビールが350mlで6円強減税されます。店頭価格は6缶パックで30~40円安くなるはずです。新ジャンルは9円強の増税で発泡酒と同じ税率になります。6缶パックで約55円高くなります。それでもビールよりも安価であることは変わりません。
酒税率改正スケジュールと税額

18年ぶりにビール類が前年越え

次に昨年のビール類市場の概略を見てみます。ビール類全体では18年ぶりに前年を上回り102%で着地しました。

牽引したのはビールです。コロナ禍による外飲みの制限が4月になくなって、ビールは大きく伸長し114%でした。店での生ビール需要が大きいビールは、飲食店に客足がどこまで戻るかで左右されます。昨年はだいぶ動き出したのですが、それでもコロナ前の2019年に比べると60%程度の水準、今年どこまで戻るか注目しましょう。

反対に「金麦」や「本麒麟」などの新ジャンルは93%でした。外飲みが動き始めると家飲みが減るという図式で、家でよく飲まれている新ジャンルには厳しい年となりました。ただ、10月の値上げ前には駆け込みのまとめ買いが予想を上回る規模で発生し、安くておいしい新ジャンルの支持の厚さを感じさせました。10月の増税後もビールよりも安価であり、賃上げが物価の上昇を上回らない状況が続くと、新ジャンルの支持が増すかもしれません。

リニューアルが奏効、勢いを加速する「スーパードライ」

今年、事業方針説明会の口火を切ったのはアサヒビールです。1月6日に塩澤社長が会見し、前年実績と今期の戦略を説明しました。同社の主要ブランドの昨年の実績は次のとおりです。

〈ビール〉
スーパードライ6888万箱(113.2%)

〈新ジャンル・発泡酒〉
クリアアサヒ1434万箱(92.7%)
スタイルフリー1248万箱(100.2%)

「スーパードライ」は昨年発売以来37年ぶりに初めてフルリニューアルしました。基幹商品の味の変更は、過去にユーザーの要望によって元の味に戻した例が少なくありません。新しい「スーパードライ」がファンに受け入れられるのか注目されましたが、スムーズに受け入れられたようで前年を大きく上回りました。また、商品の供給がタイトだった缶蓋がフルオープンになる「生ジョッキ缶」の増産体制が整い、新しいユーザーの獲得に成功したと言えます。「スーパードライ」は狭義ビールで4割前後のシェアがあります。トップブランドが好調さを持続したことでビールが大きく伸びたと言えましょう。

一方で新ジャンルは苦戦、「クリアアサヒ」は前年割れ、「アサヒ・ザ・リッチ」も厳しかったと報告されました。
アサヒビールの塩澤社長(右)と松山専務(左)
アサヒビールの塩澤社長(右)と松山専務(左)
では、アサヒは今期どのように戦うのでしょうか。会見では前回の減税から続いている「ビール回帰の流れ」を加速することを強調しました。商品としては基幹ブランドの「スーパードライ」に続くブランドとして「アサヒ生ビール」(通称マルエフ)を業務用で強化するほか、家庭用では250ml缶を投入して、黒ビールとのハーフ&ハーフなど手軽に楽しめるようにします。

そして、秋に開催されるラグビーW杯フランス大会では、オフィシャルビールとして世界中にアサヒブランドをアピールします。フランスの競技会場で「スーパードライ 生ジョッキ缶」にどんな反響があるか今から楽しみです。
「アサヒ生ビール」を「スーパードライ」に次ぐ柱商品に育成を狙う
「アサヒ生ビール」を「スーパードライ」に次ぐ柱商品に育成を狙う

サッポロはビールブランドの個性を重視

続く1月10日にはサッポロビールが事業方針説明会を開きました。野瀬社長は最初に、これからビール類・RTDを中心に市場構造が大きく変わる可能性があり、この変化に適応していくという基本スタンスを示しました。商品政策とコミュニケーションについては「サッポロ生ビール黒ラベル」「ヱビスビール」など多様なビールブランドを持つ強みを生かし、「個性的なブランド」と「熱狂的なファン」を育成する方針です。

RTDは缶入りのチューハイやハイボールなどのことです。1980年代半ばに誕生しじわじわと成長、10年ほど前からは2桁の高成長が続いていました。昨年はようやく成長が鈍化し前年並みで着地しましたが、新ジャンルと並ぶ規模になっています。

大きく見ると日本の酒類消費量は2000年以降、「ビール類+RTD」が75%強を占めており、ほとんど動いていません。このパイの中で各カテゴリーが構成比を変えてきました。10月の酒税率の改正では新ジャンルが増税されますが、RTDは現行のまま酒税率が据え置かれます。缶チューハイと新ジャンルの価格差が広がり、RTDが再成長、減税となるビールは成長を続け、新ジャンル・発泡酒は縮小する。サッポロビールはこのように市場変化を予測しているようです。
野瀬社長(左)と佐藤常務(右)
野瀬社長(左)と佐藤常務(右)。これまでにない新たな“食中酒”の提案も計画しているそう
「黒ラベル」は接点拡大、「ヱビス」はバラエティ化を推進、「サッポロSORACHI1984」に続く国産ホップのビールを投入
「黒ラベル」は接点拡大、「ヱビス」はバラエティ化を推進、「サッポロSORACHI1984」に続く国産ホップのビールを投入

サントリーはビール前年比126%の大幅増

サントリーは1月12日に国内酒類事業方針説明会を開催しました。ビールだけでなくウイスキーやワイン、RTDなど幅広く手掛ける総合酒類企業ですが、現在の国内市場での力点はビール事業です。

2022年の販売実績はビールが126%と業界全体の114%を大幅に上回りました。主力の「ザ・プレミアム・モルツ」が業務用の復調により119%で着地したほか、糖質ゼロで急成長する「パーフェクトサントリービール」は154%を達成しました。また、新ジャンル全体が93%と低迷するなかで、「金麦」は98%と善戦し、ビールと合わせたビール類全体でも104%と市場全体の102%を上回りました。

今期のビール事業の方針は「ビールにマーケティング投資を集中」としています。まず、サントリーの基幹商品である「ザ・プレミアム・モルツ」をフルリニューアルします。味わいはダイヤモンド麦芽の皮の部分を削る新製法により“華やかな香り”と“深いコク”がより鮮やかになったそう。また、パッケージデザインは、「プレミアム」に求めるデザイン・空気感が時代とともに変化し合わせたものにしました。かつてプレミアムは「装飾的・ゴージャス」はイメージでしたが、現在は「洗練・しなやか・躍動的」に変わっていると言います。

また、コロナ禍で外食がますます特別なものになり、特別な一杯が求められる環境に変わってきたと指摘します。たしかにふだんの生活のなかで、飲食店での飲食は頻度が下がった分、より特別感を求めるようになったと実感します。在宅ワークでは仕事帰りにちょっと一杯はありません。仕事仲間と飲むにも、出勤日を合わせて店を予約するようになりました。そこで、長年取り組んできた料飲店での生ビールの飲用時品質の向上に一層力を注ぎ、「人生には、飲食店が要る。」のコミュニケーションを継続するとしています。
サントリー株式会社の鳥井信宏社長(左)とビールカンパニーの西田社長(右)
サントリー株式会社の鳥井信宏社長(左)とビールカンパニーの西田社長(右)。2023年は主力の「ザ・プレミアム・モルツ」に資源を集中する
ビール事業以外では“自分好み(炭酸割り)”市場の創造に取り組む
ビール事業以外では“自分好み(炭酸割り)”市場の創造に取り組む
ビールからチューハイ、ワイン、ハイボールに幅を広げたノンアル
ビールからチューハイ、ワイン、ハイボールに幅を広げたノンアルにも注力。飲む人も飲まない人も一緒に楽しむのがこれからの時代

今年は「一番搾り」「クラフト」「氷結」で攻勢

事業方針説明会が最後になったのはキリンビールです。同社の販売実績は、昨年、ビール大手4社のなかで最も厳しい結果となりました。ビール類全体では業界全体が102%のところ97.5%でした。

増加基調だった狭義ビールで103.7%と伸びきれなかったことが要因のひとつです。キリンは家庭用に強く業務用のシェアは比較的低いとされ、外飲みの回復が他社ほど業績に反映されなかったと思われます。もうひとつの要因はビール類の内訳で、キリンは他社よりも新ジャンル・発泡酒の構成比が高く、これらが減少基調だったため、96.7%と全体を上回る着地を見せたもののカバーしきれませんでした。

この状況と酒税率の改正を睨んで、キリンはビール類とRTDを一塊の市場と見て攻勢をかけます。まず、上昇トレンドが予想されるビールでは基幹ブランドの「一番搾り」をリニューアルし、発売以来の「うれしい」メッセージ大々的に発信、史上最大規模で展開します。

そして新たな成長エンジンとして、これまでも育成に力を注いできた「クラフトビール」で重層的な展開を図ります。「スプリングバレー豊潤〈496〉」のリニューアルに止まらず、協働するクラフトブルワリーと連携して「クラフトフェスティバル」を開催、4000万人のクラフトビール未体験層との接点開発にチャレンジします。小規模な料飲店でもクラフトビールを多品種提供できるサーバー「タップマルシェ」と「タッピー」を拡大し、家庭でも楽しめる「ホームタップ」の積極的なプロモーションを継続します。

また、RTDでは昨年ブランドによってバラつきが大きかったことを踏まえ、主力の「氷結」「氷結無糖」に集中的に投資します。今期は増税される新ジャンルの受け皿になる可能性が高いRTD市場もしっかりモニターする必要がありそうです。
堀口社長(右)と山田部長(左)
「一番搾り」と「スプリングバレー豊潤〈496〉」を押す堀口社長(右)と山田部長(左)
各地のクラフトブルワリーと協働するタップマルシェ
各地のクラフトブルワリーと協働するタップマルシェ
自宅でクラフトビールの樽生を楽しめる「ホームタップ」
自宅でクラフトビールの樽生を楽しめる「ホームタップ」。飲み比べると缶よりも格段においしい

※記事の情報は2023年1月19日時点のものです。
 

  

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