どぶろく最前線⑥ 出会いはSNS。シンガポールのバーが挑むどぶろく普及活動

どぶろく造りワークショップやイベントを開催し、シンガポールのどぶろくラバーの拠点となっているバー「オムノム(OMU NOM)」。日本酒ソムリエの資格を持つ、オーナーシェフのジェラール・アレクシスさんを訪ねました。

メインビジュアル:どぶろく最前線⑥ 出会いはSNS。シンガポールのバーが挑むどぶろく普及活動

コロナ禍でのSNSで出会った「どぶろく」

アレクシスさんのどぶろくとの出会いは、クラフトサケで知られる木花之醸造所(台東区)のインスタグラムでした。コロナ禍で日本に行くことができなかったため、日本酒や蔵元の動向を知るためにSNSをよく見ていて、そこで見つけたそうです。  

どぶろくの成り立ちや歴史を学び、どんな生産者がいて、どんな商品があるのかを調べながら、開店準備を進めたアレクシスさんは、2022年に「オムノム クラフトサケ&生ものバー(OMU NOMU Craft Sake & Raw Bar)」をオープンします。そして、シンガポールでは誰もどぶろくを紹介しておらず、話題にもなっていませんでしたが、木花之醸造所のどぶろくを輸入することを決断します。
右からジェラール・アレクシス(Gerard Alexis)さん(オーナーシェフ&日本酒ソムリエ) 、ノリーン(Noreen)さん(サービススタッフ)、ボネス・チェン(Bonez Chen)さん(バーマネージャー&日本酒ソムリエ)
右からジェラール・アレクシス(Gerard Alexis)さん(オーナーシェフ&日本酒ソムリエ) 、ノリーン(Noreen)さん(サービススタッフ)、ボネス・チェン(Bonez Chen)さん(バーマネージャー&日本酒ソムリエ)
バー「オムノム」のTシャツ
シンガポールで初めてどぶろくを広めたバー「オムノム」のTシャツ。背中には「わが人生に憂いなし。オムノムのどぶろく(SAKE)が幸せにしてくれる」のメッセージが

「米」はアジアの共通文化、どぶろくは懐かしい

SNSでどぶろくを知ったアレクシスさんが初めて飲んだのは、飛騨一ノ宮神社(高山市)のものでした。日本にいた友人にどぶろくの入手を頼んだところ、氏子がどぶろくを造る神事で知られる飛騨一ノ宮神社に相談し、入手に成功。シンガポールに持ち帰ってくれたのだそうです。
飛騨一ノ宮神社のどぶろく(左)と木花之醸造所のどぶろく「ハナグモリ」(右)
初めて試した飛騨一ノ宮神社のどぶろく(左)とアレクシスさんが輸入を決めた木花之醸造所のどぶろく「ハナグモリ」(右)
アレクシスさんは、どぶろくには酒造りの文化や歴史があらわれていると言います。

「現代の日本酒は多様で、新しい味を生み出すために常に改良されています。日本酒がどのようにして始まったのか忘れてしまいがちですが、どぶろくは日本酒の原点で、どのように変わってきたのかがわかる。味わいもバラエティに富み、木花之醸造所のどぶろくのように粒々感のあるものもあれば、東京港醸造(港区)や千代酒造(奈良)のものは濃厚で滑らか、米の表情が豊かです。どぶろくは、懐かしく親しみやすい味わいです。米はアジアの文化に欠かせないものであり、どぶろくを飲むと、新しい体験を共有するだけでなく、心地よく懐かしさを感じることができると思います」。

大規模な酒イベントに「どぶろく」で参加

現在、アレクシスさんは、どぶろくの普及のためにイベントをほぼ毎月開催しています。

今年の3月には木花之醸造所の細井洋佑社長をゲストに迎え、どぶろくパーティを開催しました。シンガポール初のスケールで催したイベントには、60名を超える人が来店し、大盛況だったそうです。

さらに4月には、2日間で2000人を超える人が来場した大規模な酒イベント「Singapore Sake Matsuri」にも出店しました。
3月には初のどぶろくパーティを開催した
3月には初のどぶろくパーティを開催した
「Singapore Sake Matsuri」にて。来場者とアレクシスさん
「Singapore Sake Matsuri」にて。来場者とアレクシスさん
「オムノム」はオフィスビルの1階。ランチタイムも営業している
「オムノム」はオフィスビルの1階。ランチタイムも営業している
コの字型のカウンターを囲むスタイルの「オムノム」の店内
コの字型のカウンターを囲むスタイルの「オムノム」の店内

大好評などぶろく造りワークショップ

また、「オムノム」はどぶろく造りのワークショップを定期的に開催しています。米、水、酵母、乾燥米麹を使って、どぶろく造りを体験します。皆で一緒に仕込み、持ち帰って自宅で発酵させ、オリジナルのどぶろくを楽しむことができます。日本酒ファンのほかソムリエやバーマンなど酒の専門家に人気だそうです。
どぶろく造り体験ワークショップの案内チラシ(左)。右はどぶろくの原料米で、兵庫県産山田錦を使う
どぶろく造り体験ワークショップの案内チラシ(左)。右はどぶろくの原料米で、兵庫県産山田錦を使う
最初に米を洗って蒸し、冷めたら米麹とポットに仕込む
最初に米を洗って蒸し、冷めたら米麹とポットに仕込む
参加者は自分で仕込んだどぶろくを持ち帰り、できあがりまで自分で管理する
参加者は自分で仕込んだどぶろくを持ち帰り、できあがりまで自分で管理する
さらに、これからマスタークラスを計画しているとのこと。テーマは酒造りの歴史に沿った「利き酒」です。古墳・飛鳥時代の日本の酒「どぶろく」から始め、現代の日本酒までエポックとなった酒を飲み比べる内容です。シンガポールでは初めてのプログラムだそうですが、日本でも例のない試みではないでしょうか。 

こうした取り組みなどを通じて、アレクシスさんをはじめ「オムノム」スタッフは全員でどぶろくを積極的にアピール。シンガポールでどぶろくラバーを育成していたのでした。
アレクシスさん
シンガポールの「どぶろく」トップランナー。ますます元気なアレクシスさん

記事の情報は2023年11月16日時点のものです。

 

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