赤ワインのイタリア三大銘酒の歴史を紐とくと、それは奇跡の連続だった
イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが在住していたヴェネツィアをはじめイタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回はバローロやバルバレスコと並ぶ高級ワインとして知られるブルネッロ・ディ・モンタルチーノについてのお話です。
奇跡の品種ブルネッロ、その発見と軌跡
このワインの歴史は、トスカーナ州モンタルチーノに今もワイナリーを構える「ビオンディ・サンティ家(Biondi Santi)とともにある。初代のクレメンティ氏が土着のブドウ品種「サンジョヴェーゼ(Sangiovese)」に、この土地独特の種があることを発見した。これが「奇跡」の第一歩だ。通常の粒よりも黒く、大きく、皮が厚い。その粒を使って1865年に作り上げた第一号が、本場パリで評価された。そのワイン造りを引き継いだのが、甥のフェッルッチョ氏。だが彼は、畑の害虫被害に悩まされた。オイディウム菌やブドウネアブラムシといった害虫との、まさに格闘の日々の中、先代が発見したブドウだけが、被害が少ないことに気づいた。その品種はサンジョヴェーゼの突然変異、いわばクローンだったのだ。これが「奇跡」の次のステージである。フェッルッチョ氏は、この粒だけを厳選する。そして100パーセント使用の長期熟成で作り上げたのが、今も伝わるワインの原型となる。フェッルッチョ氏は1917年に亡くなるが、その後1936年に創始者として公認され、以降、彼の独特なブドウ「ブルネッロ」(またの名を「サンジョヴェーゼ・グロッソ」)はワイン界の表舞台に立ち、様々な「奇跡」をワインに起こしながら、今に受け継がれている、というわけだ。
モンタルチーノ在住の友人が語る「ブルネッロ」の真実
「モンタルチーノの標高は564メートル。黒い雨雲が来ても、魔法のように、モンタルチーノだけはポッカリと雲の上に顔を出す。それほどに降水量が少ない。農作物には過酷な環境だけど、ブドウは逞しく育つことになる。水がなくてブドウは苦しむ。すると地下20メートル以上も根を張り、水を探す。そして、水とともに多くのミネラルを吸収することになる。それがワインに独特の風味と旨味を与える、というわけだ」
だが、環境による「奇跡」」だけでは、上質のワインは出来上がらない。
「ブルネッロを生産するワイナリーは200軒以上。その多くは小さな家族経営。これらのワイナリーではすべての作業を手で行なっているよ。剪定はもちろん手作業、収穫時はブドウ粒1つ1つを手で厳選するんだよ。きちんと熟していなかったり、割れたり、腐ったりしている粒はすべて破棄される。完璧でない粒は、1粒たりともワインに入れないことが、このワインの美味しさの秘密さ」
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを口にするたびに、土地とともに人の手が育んだ歴史の重みを感じ、それが私の手に届く「奇跡」に感謝してしまう。
参考:
http://www.montalcinowinetours.com/brunello/storia-del-brunello-di-montalcino.html
http://www.biondisanti.com/Ita/home.php
※記事の情報は2017年4月25日時点のものです。
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