イタリアの米の町で見つけた! リゾットに合うワイン

イタリア留学経験もあり、イタリア語講師として多数の著作がある京藤好男さん。イタリアの食文化にも造詣が深い京藤さんが、在住していたヴェネツィアをはじめ、イタリアの美味しいものや家飲み事情について綴る連載コラム。今回は、ロミオもジュリエットも食べたかもしれないリゾットをご紹介します。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:イタリアの米の町で見つけた! リゾットに合うワイン

”米どころ”ヴェローナ地方の名物リゾット

イタリアの北部では9月に入るとまもなく、日本でも大人気のあの料理の祭典が各地で催される。「リゾット(risotto)」だ。なかでも最大級の賑わいを見せるのが、ヴェネト州の大都市ヴェローナから車で20分ほど南下したあたりの小村イーゾラ・デッラ・スカーラ(Isola della Scala)である。人口1万人程度の小規模な共同体でありながら、この「米の祭典(Fiera del riso)」を目指して毎年50万人ものリゾット・ファンが駆けつける。イタリアで最も知られたお米祭りの1つなのだ。今年は9月13日~10月8日に開催される。リゾット好きなら、一度は足を運ぶ価値があると思う。

さてヴェローナといえば『ロミオとジュリエット』の物語の舞台となった町として世界に知られているが、その名物料理が「リゾット」というのはあまり知られていない。ジュリエットがロミオにリゾットを食べさせてあげた、というシーンがないのは残念だが、ヴェローナといえばリゾットなのだ。ロミオも恋に苦しみながら、きっとリゾットを食べたに違いない。この地域の稲作は1000年以上も歴史があるのだから。

ヴェローナで最も人気のリゾットは「タスタサルのリゾット(risotto alla tastasal)」と呼ばれる一品だ。タスタサルとは豚肉のミンチに塩と胡椒を混ぜ込んだもの。いわばハンバーグの生の状態のようなものだが、イタリアではサルシッチャ(生ソーセージとでもいえるもの)の中身に使われる部分だ。作り方はとても簡単。

材料

  • 440g(※)
  • 牛肉の出汁 1リットル(ブイヨンでも可)
  • バター 80g
  • タマネギ 1個
  • ニンニク、ナツメグ、グラナパダーノ(ハードチーズ)、塩, コショウ、ローズマリー 適量
※米は、ヴェローナ地方ではVialone Nano[ヴィアローネ ナーノ]という品種が好まれる。細かめの粒で長時間アルデンテが保たれるのが特徴。

作り方

  • 鍋にバターを溶かし、タスタサル, タマネギのみじん切り、ローズマリー、ニンニクを炒める。全体に火が通ったら、適宜、塩、コショウを加える。
  • 別の鍋で、これもバターで米を炒る。やや色づいたら(キツネ色)少しずつ出汁を加えながら煮詰め、水分がなくなったらまた足すことを繰り返す。1リットルの出汁がなくなるまで続ける。すべての行程は弱火で。
  • 最後の出汁がなくなる頃(使い切る3分ほど前)、で炒めたタスタサルなどをすべて加えて、米と一緒に混ぜながら煮立てる。
  • 最後に粉の(削った)グラナパダーノを入れ、ねり合わせて完成。チーズはパルメザンチーズでも代用可能だ。 (完成までの全行程約1時間)
さて、もちろん日本ではタスタサルを手に入れるのは難しい。そこで代用として私がおすすめするのは、豚のバラ肉である。豚バラを包丁で細かくしたものの方が、挽肉よりもリゾットには合う。タスタサルも炒めてみると、挽肉ほど細かくはならない。あとは塩、コショウ、ローズマリーの量で、好みの味に調節すれば本場の雰囲気を味わえるだろう。

ヴェローナのリゾットに好相性のワイン

ご存知の通り、リゾットには他にも様々な種類がある。このイーゾラ・デッレ・スカーラの催しでも、日々30種類以上のリゾットがふるまわれるが、ヴェローナ地方ではやはり肉系のリゾットが人気だ。牛肉、豚肉のほか、パンチェッタ(べーコン)、生ハム、クラテッロなども取り入れたものがたくさんある。

そうした肉系のリゾットにぜひおすすめしたいのが、同じくヴェローナ地方の赤ワイン「ヴァルポリチェッラ(Valpolicella)」だ。このD.O.C. (統制原産地呼称ワイン)はコルヴィーナ、モリナーラ、ロンディネッラというこの地方のブドウ品種を混醸して作られる。軽い飲み口だが、タンニンと酸味とコクのバランスがよく、米料理に大変相性がいい。そのうちのコルヴィーナとロンディネッラだけを選りすぐり、伝統的な製法により磨き上げたものが、あの「アマローネ(Amarone)」である。バローロ、バルバレスコ、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノといった銘酒に肩を並べるヴェローナ地方の最高級ワインだ。このワインについてはじっくりご紹介したところだが、今回のリゾットに合わせるには「ヴァルポリチェッラD.O.C.」で十分だろう。日本でも手に入れば、ぜひリゾットと一緒に楽しんでいただきたい。

さて、この「米の祭典」は、もちろん米の収穫時期に合わせての開催であるが、イタリアの稲作は北部に限られる。アルプス山脈の雪解け水が豊富に流れ込むポー川とその支流の湿地帯だけが唯一稲作に適している。地域的にはピエモンテ州、ロンバルディア州、ヴェネト州が水田地帯を形成する。イーゾラ・デッラ・スカーラはその東端に位置するわけだが、パダーナ平原とヴェネト平原という二つの広大な平野部にまたがり、最大級の作付け面積を誇る。誤解を恐れずにいえば、新潟県に似ており、いわゆる「米どころ」なのである。稲作の国、日本で育った一人として、イタリアの米作り、そして米料理には親近感をもちつつも、いつも驚かされることがある。米料理とワイン。これは尽きないテーマだ。


※記事の情報は2017年9月26日時点のものです。
  • 1現在のページ