イタリアの新年を祝う家飲み
イタリアのお正月は「カポダンノ(Capodanno)」といいます。「年の頭」という意味ですが、イタリアでも新年は縁起の良い料理で祝います。どんなものか教えてもらいました。
お祝いのワインを、一層美味しくいただく裏ワザ
目白駅のすぐそばにフランス料理店を構えるイヴ・ラングレーさんは、自らラングドック=ルーション地区のワインを直接買い付けて提供するフランス・ワインのエキスパート。なんと800種類以上が常時ストックされています。
さて今日はまず、ボージョレ・ヌーヴォーの話題から始まりました。
京藤(以下K)「今回の(昨年11月に飲んだ)ボージョレ・ヌーヴォーは香りが華やか、味わいがフレッシュ。新酒らしからぬ、しっかりと完成されたワインのようで驚きました。さて、イタリアではこのヌーヴォーに当たるノヴェッロを新年まで取っておき、軽いつまみやドルチェなんかと一緒にいただくことがあります。ライトボディで、いろんな料理に合わせやすいと思いますが、フランスではいかがですか?」
イブ(以下Y)「フランスでは、ボージョレ・ヌーヴォーは11月の解禁日ぐらいにしか飲まれない、言わばお祭りワインです。例えば、パリでは広場に樽を出して、人々に直接注いで飲ませるなど、ワイン文化の盛り上げ役として、一役買っています。商業的には成功していると言えますね。ただ、いかに軽いワインとは言え、デザートに合わせることはないですね」
K「イタリアでは、大勢が集まるときワインをカラフェ(デカンタ)に移してまとめて出すようなこともあります。このような出し方はいかがですか?」
Y「もちろん、フランスでもデキャンタージュすることはあります。しかし、あえて言うなら、デキャンタージュは乱暴な行為ですから、あまりおすすめはしません」
K「乱暴な行為、ですか? もう少し詳しくお聞かせください」
Y「デキャンタージュの目的は2つあります。1つは赤ワインに溜まる澱を取り除くため。もう1つはワインを空気に触れさせるため。そうすることで、香りの華やかさを増したり、味の渋みや酸味を和らげたりします。いわゆる「ワインを開く」と言う行為ですね。たしかにワインの栓を開けてすぐにグラスに注ぐのは、ワインの特徴を十分に出し切れませんから、デキャンタージュはやらないよりはマシです。しかし、ボトルからワインを一気に別の器に移し、短時間で無理に空気に触れさせるというのは乱暴なことなのです。これは、接客するための時間があまりないときに限ります。例えば、このようなお店では、お客さんの注文を聞いて、すぐにワインを提供しなくてはなりません。そのときワインが十分に開いてない場合には、時間がないのでデキャンタージュします。しかし家での接客なら、会の予定がわかっていますよね。そのようなときには、別のやり方をおすすめします」
K「デキャンタージュより良い方法ですか? ぜひ知りたいです」
Y「その前に、デキャンタージュするときの注意点をお教えします。それは底の広いデキャンター(写真1)を使うことです。フラスコの形のものですね。一方、水差しの形のもの(写真2)はおすすめできません。見た目は上品ですが、空気に触れる量が少なく、短時間では効果が出ません。デキャンタージュするなら、底の広いものを使うとよいでしょう」
フランス流のワインを開くコツはこれだ
Y「このようにボトルの栓を抜いたら、数時間放置しておくのです」
K「それだけですか…」
Y「はい、それだけです(笑)」
K「ある意味、驚きです(笑)」
Y「ただし、コツがあります。ほんの少しの量、ボトルネックから瓶の広がりにかけての部分のワインを抜いておきます。このように瓶の上部に空間を作って、ワインが空気に触れる部分を広くしてあげます」
Y「数時間、このままゆっくりと空気に触れさせてあげるのです。例えば、お昼の集まりならば、朝のうちに栓を抜いて、涼しい場所に放っておくのです。ワインを人間に例えるなら、ボトルの中ではまだ緊張した状態にあります。硬直して、固まっているのです。それをゆっくりと時間をかけてリラックスさせてあげる。そうすることで、そのワインが持っているポテンシャルが十分に引き出されます。逆にデキャンタージュはまだ眠っている体を叩き起こし、シェイクするようなものなのです。あなたなら、どう感じますか?」
K「機嫌を損ねますね(笑)」
Y「その通り。ワインも同じです」
このようにイブさんおすすめの方法は、いたってシンプル。しかし、そこにはワインに対する格別の愛情を感じずにはいられません。「ワインは女性を扱うように」というのは、イタリアにもある格言。その言葉の本質を知り、さりげなく実践するイブさんに真のプロの姿を見出し、感服いたしました。
この後、イブさんのお店自慢の料理と、おすすめのワインの「マリアージュ」を堪能しましたが、その美味しさと奥深さについては、また別の機会に譲ります。そこまで待てないという方は、ぜひこちらのお店をお訪ねくださいね。
「Le Terroir (ル・テロワール)」
東京都豊島区目白3-4-15 プラネットメジロ2F
イタリアの新年の定番は、お金持ちになる料理
まずはさっそく栓を抜いて、ワインをリラックスさせてあげますよ。
それに対し、リサさんが「日本のお節料理には、黒豆が入ってます。「まめ」になるようにということですが、なんとなく似てますね」。すると「あら、イタリアの方が直接的ね。日本はまめに働く、イタリアはお金持ちに、なんて」とマンマは大笑い。賑やかに始まった新年会なのです。
イタリア流レンズ豆の煮込みを作ってみた
材料(4人分): レンズ豆200g, 玉ねぎ1/4個, ニンニク1片, セロリ1茎, ニンジン1/4本, セージの葉2枚, 粒コショウ少々, グアンチャーレ(ベーコンで代用可)100g, トマトピューレ 大さじ1杯
まずはレンズ豆。たっぷりの水に10分ほど浸し、水を切ります。
グアンチャーレの脂分が溶け出し、カリカリになってきたら、トマトピューレ(メーカーによっては固いものもあるので、その場合は水で溶きます)を大さじ1杯加え、全体に火が通ったところで、鍋を火から下ろします。
イタリアと日本の食材が融合した絶品の前菜登場!
このときクラウディアさんが出してくれたおつまみが、これまた絶品。なんと柿に、サルデーニャ産羊のチーズ「ペコリーノ」のスプレッドをのせた前菜です。「日本とイタリアの融合ね。柿は金色、これもお金に縁がありそうだわ」とクラウディアさんもニッコリ。柿の甘みとチーズの塩加減がまろやかに溶け合い、十分にリラックスした赤ワインと良く合います。
縁起の良いレンズ豆、イタリア式でいただきます
弱火のまま、グアンチャーレとレンズ豆を混ぜ合わせ、粒コショウを潰さずに加えたら、さらに数分加熱して出来上がりです。 そのお味は?
締めの食後酒には、イタリアでも珍しいリキュールを入手。サルデーニャ島特産の「ミルト」。ミルトとは植物の名で、ブルーベリーのような紫色の実を付けるハーブ。その実からアルコール度数30%のお酒を作ります。植物のミルトは聖書にもその名が登場する、いわば「聖なる実」。これも新年を飾るのにふさわしい一杯となりました。
さてこんなふうに、素敵な友人と過ごす新年のお祝いは、それだけでご馳走です。これこそが家飲みの醍醐味。2019年も絶好のスタートが切れました。それと同時に、このコラムもひと区切りとなります。これまでこのコラムをご愛読くださった皆さまに、心より感謝を申し上げます。またいつか皆さんと食卓を囲むように、イタリアのワインと料理を語る機会があることを願っています。
※記事の情報は2019年1月8日時点のものです。
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