大注目のお酒「メスカル」とは? テキーラとの違いや飲み方を専門店で聞きました!
いま「メスカル」が面白い! ジンに続くブーム目前のスピリッツとして、世界が目を向けるメキシコ生まれの蒸留酒。その注目の理由は? どんなお酒なの? メスカルの魅力を探りに、メスカルバー「FERRI’S」のオーナーで日本メスカル協会会長もお務めのカデム・ファラマーズさんに話を聞きに行きました!
教えてくれたのはこの方
カデム・ファラマーズさん(通称フェリーさん)
イラン出身。西麻布にあるメスカルバー「FERRI’S」のオーナー。1998年からテキーラ関係の仕事に従事しているが、2014年にメキシコのオアハカ州を訪れメスカルの奥深さに魅了される。2017年に日本メスカル協会を設立し、会長としてメスカルの普及をリードしている。
メスカルの魅力は? なぜ世界が注目するのか?
2014年にメキシコ大使館からの依頼で、オアハカ州にあるメスカルのパレンケ(蒸留所)20社くらいを視察したのがきっかけです。
そこでテキーラと同じアガベスピリッツである「メスカル」の、昔の文化を守った原始的で自然な造り方や歴史にすっかり魅了されてしまって。メスカル特有のスモーキーな香りやアガベ由来のボタニカルな風味も気に入りました。ついでにメスカルやアガベスピリッツは、血糖値が上がりにくく体にもヘルシーという特長ももっています。
その頃、アジアではまだメスカルに注目している人はあまりいませんでしたから、日本からそんなメスカルの魅力を発信したいと思って、2017年に日本メスカル協会を立ち上げました。
—特にアメリカでは、いまやテキーラ人気(※)を凌ぐ勢いでメスカルに注目が集まっているそうですね。
アメリカでメスカルが本格的に注目され始めたのは、おそらく2013年頃からです。
そのきっかけになったと言われているのが、アメリカ人のロン・クーパーというアーティスト。彼は大きな瓶をいっぱい持って、バイクでオアハカの田園地帯を旅しました。そこで昔ながらのパレンケに立ち寄って、瓶にメスカルを詰めて持って帰り、自分の作品の展示会でふるまった。そしたら、これは面白いね!商品化しましょうとなって。そうして彼が立ち上げたのが「デル・マゲイ」というメスカルブランド。そこからクラフトメスカルはどんどん世界に広まっていったんです。
※アメリカでは2000年代からハリウッドセレブを中心にテキーラ人気に火が付いた
―“クラフトメスカル”というところがポイントなんでしょうか?
そうです。メスカルは製法によって「インダストリアル」「アルテサナル」「アンセストラル」と3つに分かれるんですが、私も特に注目しているのが「アルテサナル」と「アンセストラル」です。
「インダストリアル」は工業的な設備で大量生産されるメスカルなんですが、「アルテサナル」と「アンセストラル」は伝統を守った造り方で、電気も機械も使いません。メスカルの歴史はスペイン人が蒸留器を持ち込んだ1521年頃に始まったとされているのですが、500年前とほとんど造り方が変わらないんです。昨今のクラフトブームもあり、そんなメスカルの面白さが世界でも評価され始めたんだと思います。
メスカルとテキーラの違いは?
もともとテキーラは、「テキーラ地区で造られたメスカル」のことでした。メスカルとは、本来アガベ(リュウゼツラン)を主原料とするメキシコ産蒸留酒の総称なのですが、テキーラもメスカルの1つでした。
けれど、テキーラ地区にある「Sauza(サウザ)」という有名な会社がメスカルを「テキーラ」としてアメリカなど海外に売り出し、世界的に知られるようになりました。そして1974年にテキーラは原産地呼称を導入、メキシコの5州(ハリスコ、ナヤリ、ミチョアカン、グアナファト、タマウリパス)で造られたものだけを「テキーラ」と呼んでいいことになったんです。
メスカルも原産地呼称で保護されていますが、導入は1994年から。いま現在10州(オアハカ、ドゥランゴ、サカテカス、タマウリパス、グアナファト、サン・ルイス・ポトシ、ミチョアカン、ゲレロ、プエブラ、シナロア)で造られたものが「メスカル」と名乗れることになっています。
—メスカルとテキーラはまず産地が異なるんですね。他に違いは?
テキーラがアガベ・アスール(ブルーアガベ)という1種類のアガベのみから造られるのに対して、メスカルの場合はアガベ・アスールを含め52種類のアガベを使用することができます。そこが大きく違うところです。
—テキーラに比べて、メスカルはずいぶん自由度が高い印象です。
そうなんです。さまざまな地域で育てられた、さまざまな種類のアガベで造られるので、メスカルにはワインのようにその土地ごとのテロワールや原料品種の違いが感じられます。
また、テキーラは大きな工場の管理された環境で造られることが多いですが、メスカルのパレンケ(蒸留所)はアガベ農家の隣に立っている小屋だったりすることも多く、その時の天気とか環境による影響も受けやすい。だから、同じパレンケのメスカルでも毎年味が違うんです。そうした多様性があるところもメスカルならではの面白さだと思います。
メスカルの原料「アガベ」ってどんな植物?
ほとんどの方にサボテンと思われていますがそうではなく、簡単に言うとリュウゼツラン属のメキシコ原産の多肉植物です。生で齧るとあまり味がしないんですけど、熱を加えるとパイナップルやカボチャのような甘みが出ます。
とても大きな植物で、なかには根から葉までの高さが3mを超えるものも。メスカルの原料として糖分が採れるようになるまでに最低でも5~6年、野性のアガベになると25~35年くらい育つのに時間がかかるものもあります。
メスカルに一番よく使われるアガベは畑での栽培が可能な「エスパディン」という品種で、8年前後のものを使うことが多いですね。
—そんなに時間がかかるんですねー! アガベのどの部分を使うんですか?
アガベの中心にある「ピニャ」と呼ばれる球茎部を使います。葉の部分をマチェーテ(刀の一種)で切り落として収穫するのですが、葉っぱがかたく大きいので重労働です。
メスカルの製法は? 芋虫を入れるのはなぜ?
まず、土を掘って穴をつくり、そこに薪と溶岩石を入れて、石が熱くなったら「バガス」を乗せます。バガスというのはアガベを搾った後に残る繊維で、ピニャを穴の中で蒸し焼きするときに直接火が当たらないよう石の上に敷くんです。
そしてピニャを乗せ、その上に燃えない布、もしくはバナナの葉っぱを乗せて土で覆います。そうやって数日間蒸し焼きに。メスカルは、ここで何日蒸し焼きするかでスモーキーさが変わります。
—メスカルの特長であるスモーキーな香りは、蒸し焼きの工程から来ているんですね。
そうなんです。アガベの蒸し焼きが終わったら、そのまま1日休ませます。そして、蒸し焼きしたピニャをすり潰していくのですが、「アルテサナル」製法ではタオナと呼ばれる円形状の石を人力や馬で引いて、「アンセストラル」製法では100%手作業で杵を使って行います。
次に、すり潰したものを樽に入れて自然発酵させます。この時に「アンセストラル」ではアガベの繊維・バガスを必ず入れなければいけませんが、「アルテサナル」は任意です。
—「アルテサナル」と「アンセストラル」は、製法に細かく違いがあるんですね。
この後の蒸留方法にも違いがあります。
発酵が終わったら、「アルテサナル」では銅製の単式蒸留器(アランビック)に発酵液を移して蒸留します。この時に、バガスを入れるか入れないかは自由。薪で火をおこして、蒸留器からパイプを通って液体が出てきます。さらにもう1回、計2回蒸留します。
「アンセストラル」では、粘土製の蒸留器(フィリピン式)に発酵液と必ずバガスを入れて蒸留します。
—ほんとうに、ここまで電気や機械に一切頼らず造られているとは驚きです。
そうですね。だから「アルテサナル」では1度に200Lくらい、「アンセストラル」の場合は60Lくらいしか出来上がりません。それくらい時間や労力が必要なお酒なんです。
—蒸留後、樽で熟成させたりはしないのでしょうか?
「アルテサナル」と「アンセストラル」のメスカルはあまり熟成させません。なぜなら、樽で熟成させるとアガベが長年生きた香りとかが失われて、樽の香りに変わってしまうから。
ウイスキーの場合は熟成させればさせるほど価値が高まりますが、メスカルは10年、20年と自然の中で育ったアガベのボタニカルな風味そのものを楽しめることに価値があるんです。
—ちなみに、瓶の中に芋虫が入ったメスカルを見かけますが、あれはどういった理由から?
昔は、農家さんが自分で造ったメスカルを空き瓶みたいなものに入れて売っていて、メスカルを買いに来たお客さんは、それが本物のメスカルか偽物かわからない。だから芋虫を入れてみて、芋虫を即死させることでアルコール度数が高いことを証明していた、と言われています。
今でも「インダストリアル」のメスカルではシンボル的に芋虫を入れた商品を見かけますが、「アルテサナル」と「アンセストラル」では見なくなりましたね。
メスカルの基本の飲み方、家での楽しみ方は?
特にオアハカ州では、「ヒカラ」という器に入れてストレートで飲むことが多いですね。マラカスと同じノウゼンカズラ科の木の実でできています。
メスカルはアルコール40度以上のものが多いので、口の狭いショットグラスよりも、広いカップでゆっくり飲むのがおすすめです。
—テキーラといえばショットでクイッと飲むイメージがありますが、メスカルはそうじゃないんですね。
そのイメージがどこから広まったのか私も不思議なんですが、テキーラもメスカルも本来はじっくり味わうべきお酒だと思います。ウイスキーでもワインでも日本酒でも、いいお酒をあまり一気飲みしたりしませんよね。
メスカルやテキーラの原料であるアガベを育てるのにも、最低7~8年はかかります。そんな長い歳月をかけてできたお酒ですから、ぜひゆっくり楽しんでいただきたいですね。
—基本はストレートでじっくりと、ですね。食中酒としてはどうでしょう?
メスカルが面白いのは、ストレートでも楽しめるし、カクテルベースとしても幅広く使えるところ。他のお酒と割ってもケンカせず、逆にお酒の個性を活かしてくれます。
例えば白ワインのシャルドネを飲むとき。5mlくらいメスカルを入れてスモーキーな香りをグラスにまとわせ、そこにシャルドネを入れると、ちょっと高級感のある味わいに変化し、旨みを引き出してくれるんです。梅酒やジンとミックスさせてもおいしい。
あと、家で飲む食中酒として大いにおすすめしたいのが「メスカルハイボール」。炭酸で割るとメスカルの甘みも立ち上ってくるし、そこにキュウリのスライスをプラスするとメスカルのボタニカル感と相まって、とても爽やかな一杯になります。
—メスカルに、食中酒としての可能性があるとは意外でした。どんな食べ物と合いますか?
メスカルには、塩味や出汁のような旨みが感じられるものもあります。だから、実はお寿司と相性が良い。特にカキやハマグリといった貝類には、メスカルのストレートがよく合います。
それからお蕎麦。私もよくやるんですが、蕎麦つゆにメスカルをほんの少し入れてみてください。つゆにスモーキーさと旨みがプラスされて、そのつゆで蕎麦をすするとすごくおいしいですよ。
フェリーさんおすすめ! まず飲むべきメスカル3本
①マレモト エスパディン
■DATA
アガベ品種:エスパディン
アルコール度数:47%
内容量:750ml
酒商金右衛門
「ストレートで楽しむならこれ。スモーキーさはそれほど強くなく、エスパディン特有の甘くハーバルな香りが楽しめます。アルコール度数の高さを感じさせない飲みやすさなので、メスカル初心者にもおすすめ。ロンドン、シンガポール、東京のスピリッツコンテストで金賞を獲得しています」
②ヴォルティセ
■DATA
アガベ品種:エスパディン
アルコール度数:40%
内容量:750ml
酒商金右衛門
「これはスモーキーな香りがしっかり楽しめるメスカル。ストレートでもいいし割ってもいいので、家飲みにぴったりだと思います。特にキュウリスライスを入れたハイボールが最高! こちらもスピリッツコンテストでシルバーを受賞」
③メスカル・クラセアスール・ドゥランゴ
■DATA
アガベ品種:セニソ
アルコール度数:44%
内容量:750ml
Clase Azul
「ドゥランゴ州に自生する野生の『セニソ』という希少なアガベを使ったメスカル。ミネラル感や出汁のような独特の味わいがあってとても面白いんです。セニソが育つのに12~13年くらいかかるので価格も3万円代とお高めだけれど、一度は飲んでいただきたい」
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フェリーさん曰く、メスカルの味を作るのは「50%が長い年月をかけて育ったアガベ、残りの30%は水と周りの環境、あとの20%はマエストロの腕」なんだそうです。
もしメスカルを飲む機会が訪れたなら、そんな歳月やメキシコの自然、職人の仕事に思いを馳せつつ、じっくり味わってみてくださいね。
■お店情報
「FERRI'S(フェリーズ)」
〒106-0031
東京都港区西麻布4-11-11ジュメイラビル1F
営業時間:18:00~27:00(LO 27:00)
email:info@ferrisbar.com
Tel:03-6427-1221
日本メスカル協会
※記事の情報は2022年2月9日時点のものです。
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