“パーリンカ騎士団”に聞く! 「飲む香水」と呼ばれるハンガリー産フルーツ蒸溜酒の魅力とは?

フルーツを贅沢に使って造られるハンガリー生まれの蒸溜酒「パーリンカ」。入手難易度は高いものの、一度飲んだ人を香りの悦楽に溺れさせてしまうキケンなお酒です。そんなパーリンカの魅力や飲み方について、東京・神楽坂にあるパーリンカ専門バーのオーナーで、ハンガリー政府公認の“パーリンカ騎士団”としても活躍する松沢健さんに聞きました!

メインビジュアル:“パーリンカ騎士団”に聞く! 「飲む香水」と呼ばれるハンガリー産フルーツ蒸溜酒の魅力とは?
教えてくれたのはこの方

松沢 健(まつざわ たけし)さん
東京・神楽坂にある世界初のパーリンカ専門バー「Bar Pálinka」オーナーバーテンダー。新宿の「京王プラザホテル」や「Bar BenFiddich」「Bar B&F」などでバーテンダーとしての手腕を磨いた後、2019年に独立し「Bar Pálinka」をオープン。パーリンカの普及・発展に貢献することを使命として活動するハンガリー政府公認の「パーリンカ騎士団」の認定を受ける。上の写真は、パーリンカ騎士団の正装コスチュームで。

ハンガリー生まれの蒸溜酒「パーリンカ」ってどんなお酒?

―「Bar Pálinka」は世界初のパーリンカ専門バーと聞きました。松沢さんはパーリンカのどこに魅力を感じてお店まで構えることに?

私が「パーリンカ」というジャンルの蒸溜酒に出会ったのは2017年頃、独立する前に店長を務めていた西新宿にあるフルーツブランデー専門バー「Bar B&F」を立ち上げに携わった時です。

その時に世界中からあらゆるフルーツの蒸溜酒を取り寄せて試飲したのですが、圧倒的にパーリンカの香りの仕上がりが優れていることに気づいて。で、このお酒はすごいと思って調べても情報がほとんど出てこない。こんなに美味しいのにここまで知られてないっていうのは、コンテンツとして面白いなと思ったんです。

ちょうどそのタイミングで独立することになったので、やるんだったら徹底的にやりたくてパーリンカ専門のバーを開きました。
「Bar Pálinka」のカウンター
松沢さんがバーテンダーとして立つ「Bar Pálinka」のカウンター。奥には100本ほどのパーリンカが並ぶ
―よほど素晴らしいパーリンカ体験だったんでしょうね。

そうですね。その時飲んだ1本が私の人生を変えたと言ってもいいと思います。とても残念なことに今は生産されていないのですが、「Szicsek(シチェック)」というハンガリーの蒸溜所のメロンのパーリンカです。

写真中央のボトルが、松沢さんがお店を開くきっかけになったSzicsek蒸溜所のメロンのパーリンカ

例えるなら、あと1日置くと傷み始めるくらいまで完璧に熟したメロン、それを切った時の果肉の真ん中の一番柔らかい部分を嗅いだ時の香り。

これを初めて飲んだ時に「もうこれ1本でいいな」って確信したんですよね。このパーリンカが1本あれば、どこかの河川敷でブルーシートを広げてでもバーテンダーとしてやっていけるなって思うくらい。それだけ香りが衝撃的でした。

―そんな松沢さんのパーリンカ愛が伝わって、“パーリンカ騎士団”にも任命されたわけですね。パーリンカは「飲む香水」とも呼ばれているようですが、やはりその醍醐味は“香り”にあるんでしょうか?

「香りが全て」と言えると思います。蒸溜酒なのでほとんど甘味はなく、ウイスキーよりも口当たりはドライです。一般的にお酒の評価軸って香り以外にも、口当たりとか味わいとか、のど越しとか色々ありますが、パーリンカはフルーツの香りを楽しむことに特化したお酒です。

パーリンカはフルーツ大国ハンガリーの風土が生み出したお酒

ハンガリーの首都ブタペストにある中央市場
ハンガリーの首都ブタペストにある中央市場 ©松沢健
―ところで「パーリンカ」というお酒に定義や決まりはあるんですか?

パーリンカは一言でいうと、「ハンガリーで造られる、フルーツ原料の蒸溜酒(例外としてオーストリアの一部地域も含まれる)」です。パーリンカ法という法律も制定されていて、例えば、使用するフルーツはハンガリーで栽培されたものに限る、というのもその1つです。

―ハンガリーではフルーツがよくとれるんですか?

現地の市場をのぞけばわかると思いますが、フルーツも野菜も、農作物がすごく豊かな国です。

それには地形が大きく影響しているんですが、ハンガリーはカルパチア盆地という広大な盆地に広がる国で、盆地だから寒暖差が激しい。しかもドナウ川やティサ川など大きな川も流れていて水も豊かです。

ちょうど日本でいう山梨や長野、福島のようなイメージですね。こうした寒暖差が激しく水が豊かな土地では、品質の良いフルーツがよくとれるんです。

―パーリンカはハンガリーという国の風土から生まれたお酒なんですね。どんなフルーツが使わるんですか?

いわゆるストーンフルーツと呼ばれる核果のフルーツ、特にプラム、アプリコット、サクランボがよく使われます。あと、りんごや洋ナシも。ハンガリーの緯度は北海道とほぼ同じくらいなので、柑橘類は栽培されていません。

そうした品質の良いフルーツを惜しみなく贅沢に使って造られるのがパーリンカの素晴らしい香りの秘密で、素材にもよりますが、ボトル1本(500ml)当たり大体5kgから、物によっては20~30kgというとんでもない量のフルーツが使われます。

Zwack Kecskemét蒸溜所の発酵前のプラム ©松沢健

―使われるのは、いわゆるB級品と言われるような、そのまま食べるのには向いていないようなフルーツとか?

実は私もそう思っていたのですが、実際に現地でパーリンカ用の洋ナシを食べさせてもらったら、全くそんなことなくて。大げさじゃないくらい、今まで食べたフルーツの中で一番美味しいと思うほどの圧倒的な品質の素晴らしさでした。

自家製が当たり前⁉ パーリンカの造り方

―パーリンカは具体的にどうやって造られるのでしょうか?

材料は、フルーツと水だけです。法律で加糖も禁止されているので、フルーツそのものの甘みのみで発酵させます。発酵したら蒸溜機で2~3回蒸溜します。この時出てきた液体(ニューポット)のアルコール度数は、大体70~80度なので、加水して度数を40~50度くらいに調整します。それをステンレスタンクに入れて、2ヶ月ほど落ち着かせたら完成です。

―ウイスキーのように樽で熟成させたりはしないんですね。

中には樽で熟成させたパーリンカもありますが、基本的にはステンレスタンクです。パーリンカはフルーツの香りを楽しむためのお酒なので、樽熟成させると余計な香りがついてしまうんですよ。

ステンレス製のタンクで熟成されるパーリンカ @松沢健

―パーリンカって、ハンガリーの家庭で当たり前のように飲まれているお酒なんでしょうか?

もちろん飲みますし、各家庭で造ってもいます。

―え⁉ 個人で造ってるんですか?

ハンガリーには自家蒸溜の文化があるので、ほとんどの家庭で飲まれているのは自家製のパーリンカですよ。

―ということは、自分の家に蒸溜機が?

そうです。例えばこの写真の蒸溜機は比較的大きいものですが、パーリンカ騎士団長の自宅にあるものです。
パーリンカ騎士団長の自宅の蒸溜機
パーリンカ騎士団長の自宅の蒸溜機 ©松沢健
ここまでのサイズは珍しいにしても、キッチンに乗るくらいの小型蒸溜機があって、自分の家で栽培したフルーツを収穫して発酵させて蒸溜するのは、ごく一般的なことなんです。

各自治体にも市民が共同で使える蒸溜所があって、自宅に蒸溜機がない場合もそこにフルーツを発酵したもの持って行って蒸溜できるんです。

―日本の精米所のような感じで、街に蒸溜所があるんですね。

まさにそんな感じですね。それくらいパーリンカは昔からハンガリーの人たちの暮らしに密着したお酒なんです。

プロが指南! パーリンカの香りを100%楽しむ飲み方は?

パーリンカ
―ハンガリーではどういう時にパーリンカを飲むんですか?

食前ですね。しかも朝から飲みます(笑)。ハンガリー人の考え方としては、パーリンカは0杯目なんです。例えば、家に友人たちが集まったら「みんなよく来たね」と、とりあえずパーリンカで挨拶。飲み終わった後に「さて1杯目どうする」という感じで。ただパーリンカは度数が高いので、これは日本人には向かない風習です。日本では食後に飲む方が多いですね。ちなみにハンガリーで食中酒としてよく飲まれるのはワインです。


―飲み方はショットで?

はい。ショットでクイッと飲むのがパーリンカの正しい飲み方で、私もこの飲み方が一番美味しいと思っています。というのも、ショットで飲まないと感じ取れない香りがあるんですよ。

先ほどもお話ししましたが、パーリンカで楽しむべきは、味でものど越しでもなく、飲んだ後の呼吸、お腹で温められて上がってくる香りです。口に含む量は少なくて十分で、口の中で転がさずにサッと飲み込む。そうすると、それまでにいなかった香りが10秒後、20秒後ぐらいにうわーっと上がってくるんです。これはショットで飲まないと体験できない香りで、きっと感動すると思います。

ショットだともったいないからゆっくり飲みたいと考える方もいるかもしれませんが、飲んだ後の香りの持続性が高いのでトータルで楽しめる時間は長いと思います。
パーリンカのショット
―それは、ぜひやってみたい飲み方です。

ただ、日本人は肝臓がそんなに強くないので、割って飲みたいという方もいるでしょう。そんな方におすすめしたいのが、カルピスソーダやジンジャエールなどの甘い炭酸飲料で割る飲み方。

パーリンカって香りはフルーティなのに甘味が全くないので、ただ炭酸水で割るだけだと薄く感じてしまいます。でも甘みが加わると、脳内で味と香りのイメージが結びつくので香りが増幅して感じるんですよ。

“初めの1本”におすすめのパーリンカは?

最後に、パーリンカ騎士団の一員でもある松沢さんに、初めて飲む人におすすめのパーリンカを教えていただきました!

パーリンカはまだ日本では入手しづらく、販売されていても本数が限られているのが現状ではありますが、通販サイトもご紹介しますのでちょくちょくのぞいてみてください。

■Szicsek - Irsai Olivér(白ぶどう)

[DATA]
ブランド:Szicsek Pálinkafözde (シチェック)
容量:500ml
Alc:44%
▶こちらで購入できます

松沢「これはウチで輸入しているパーリンカです。説明なしでわかりやすく美味しいので、初心者にぴったりです。マスカットのような香りが楽しめます」

■Gong VILMOSKÖRTE(Williams pear)

【輸入及び販売総代理店】AZ GRUOP 有限会社ハンガリーフーズサプライ
[DATA]
ブランド:Gong (ゴング)
容量:500ml
Alc:43%
▶こちらで購入できます

松沢「ウィリアムズペアという、世界で一番栽培されている洋ナシを使った芳醇でスパイシーな香りのパーリンカです。過去にブランデーの国際品評会で金賞を受賞しています」

--------------------------------

香りを楽しむためのお酒「パーリンカ」、飲んでみたくなりましたか? 今回取材にうかがった「Bar Pálinka」は、バー初心者の方も気軽に立ち寄れる雰囲気があり、松沢さんに質問すればパーリンカのAからZまで丁寧に教えてくれます。興味のある方は、ぜひ一度バーの扉を叩いてみてください!

■お店情報
お店の看板
店内の様子
「Bar Pálinka(バー パーリンカ)」
東京都新宿区神楽坂3丁目6-63 佐藤ビル2F
営業時間:16:00~24:00
定休:火曜日
電話:03-6265-0544
ホームページ
X(旧Twitter)


※記事の情報は2023年11月29日時点のものです。
  • 1現在のページ