ウイスキーのピートとは? スモーキーとの違いや、ピーティーなウイスキーの特徴を解説します

ウイスキーの香りを「ピート香」や「ピーティー」といった言葉で表現されているのを目にしたことはありませんか? でも、実際はどんな香りなのか想像がつきにくいですよね。今回は、謎多き「ピート」の正体やウイスキーの香りにどんな影響があるのかなど、ピートに関するあれこれをソムリエが分かりやすく解説します。

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ウイスキーのピートとはどんな意味?

「ピート」とは日本語で「泥炭」を意味していて、主に燃料や肥料として使用される天然資源のことを指します。

ピートは野草や水生植物などの有機物が完全に分解されず堆積し、濃縮されて石炭へと炭化する初期段階のものです。泥炭地と呼ばれる湿原の地中にあり、スコットランドのような冷涼な湿地帯では土壌内の微生物の分解作用が十分でないため、特にピートが形成されやすいと言われています。日本でも、北海道などにピートは存在しています。

ピートの採掘方法

「ピートボグ」と呼ばれる採掘場
ピートは「ピートボグ」と呼ばれる採掘場で地面から泥炭層を掘り起こした後、天日干しで乾燥させます。現代ではほぼ機械作業になっていますが、ピート・アイアンなどの専用の道具を使った手作業での採掘方法もあります。

ピートを採掘する際は泥炭地の損傷を最小限に抑えるため、貯水力を失わないように排水ポイントを把握したり、採掘直後から再湿潤化作業をする必要があります。採掘した泥炭地を放置すると泥炭地劣化が進んで再生不能となってしまうため、採掘計画には泥炭地を修復させる見通しもあらかじめ組んだ上で行わなければなりません。
 

ピートは消滅危機にある?

泥炭層は1年に1mmほどの非常にゆっくりとしたペースでしか厚くならず、ピートの形成には何百年以上もの年月が必要とされています。一方で、ピートはウイスキー造りだけでなく、暖炉の燃料やガーデニングの堆肥としての需要もあるため、毎年20㎜以上が採掘されていると言われています。そのためピートは限りある貴重な天然資源と考えられていて、このままのペースだとピートの消滅が危ぶまれる声も出てきています。

また現在ピート採掘に関する規制はありませんが、ピートの採掘によって温室効果ガスとして炭素が直接大気中に放出される懸念や、土地が侵食されることによって土壌が不安定になるといった環境面でのリスクから、環境保護団体から規制採択を求める声もあがっています。

ウイスキー製造におけるピートの役割

ウイスキー蒸留所
ウイスキー製造において、ピートは大麦を乾燥させる工程の際に燃料として使用されています。

ピートを火で焚くと香りの強い濃煙を放ち、これが大麦麦芽に吸収されることで独特の香りが付きます。この香りを「ピート香」と呼び、ピート香の特徴があるウイスキーは「ピーティー」と表現されます。ピート香がどんな香りなのかは後ほど詳しくご紹介します。

ピートを使ったウイスキーと言えばスコッチを連想する方も多いと思いますが、これはスコットランド固有の環境や地形の影響が大きく、たしかにかつてはスコッチウイスキーのほぼすべての銘柄にピート香がありました。ですがスコッチウイスキーの製法を参考にしたジャパニーズウイスキーにもピート香のあるウイスキーがあるため、今は必ずしもスコッチウイスキー固有の特徴とは言えなくなっています。

ちなみに現在のスコットランドでは、ピート香のない「ノンピート」の原酒も多く造られています。ピートを使用せずウイスキーを造る場合は、石灰などの他の燃料に替えて麦芽を乾燥させます。

ピート香はどんな香り? スモーキーとの違いは?

ピート香のするウイスキーを表現する際に、「スモーキー」「ピーティー」「ハーシュ」「メディシナル」という4種類の言葉を使うことがあります。

「スモーキー」は煙っぽい燻したときの香り、いわゆる燻製香で、「ピーティー」はスモーキーに加えてより芳醇で奥行きのある香りのことを指します。

ピーティーとは反対に、「ハーシュ」は燻製香の中でもいがらっぽい香りなどネガティブな要素があるときに使う表現です。

「メディシナル」は海藻由来の薬品のような香りを指し、界隈ではよく”正露丸のような香り”と言われます。好みの分かれやすい香りではありますが、病みつきになる人も多いです。

ちなみに、ピート香が世界一強いウイスキーはアイラ島にあるブルックラディ蒸留所の「オクトモア」と言われています。オクトモアはテイスティングから数ヵ月経ってもグラスに香りが残っていることがあると言われるほど強い香りと個性を持っています。

ピートがウイスキーの香りにもたらす変化

ウイスキー造りにおいて、現在は麦芽を乾燥させる際、最初から最後までピートを焚くことはほとんどなく、香り付けとして焚き込まれていることが多くなっています。

ピートは焚く時間とタイミングによって、香りにも変化が出てきます。まず、ピートを焚く時間が長ければ長いほどピート香が強くなります。そして、ピートを焚くタイミングのポイントは麦芽に残っている「水分量」です。麦芽に残っている水分が多いほど煙の吸収率が高くなるため、よりヘビーな仕上がりに、少なければ品のある控えめなピート香に仕上がります。

またピートは堆積年数や炭化する植物の種類によって性質が変わるため、採掘した場所によってもウイスキーの香りや特徴が大きく変わってきます。たとえば、内陸部のピートは草花などの植物が主となるため、フローラルなアロマが感じられます。海岸部のピートは海藻などからできているため、ヨード香と言われる薬品のようなアロマが感じられます。

ピーティーなウイスキーの楽しみ方

飲めば飲むほどクセになっていくピーティーウイスキー。代表銘柄としては前述した「オクトモア」をはじめとして、「アードベッグ」、「ラフロイグ」、「ラガヴーリン」などが挙げられます。

ここでは、ピーティーなウイスキーをより楽しむためのアイデアをご紹介します。
 

ピーティーなウイスキーにおすすめの飲み方

ウイスキーをストレートで
ピート香の強いウイスキーは、香りをシンプルに感じることのできるストレートで飲むのがおすすめです。アルコール度数が強いので、必ずチェイサーを用意しましょう。

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ただ、ウイスキーはストレートで飲むとアルコール度数が高く、舌の感覚が次第に鈍くなっていくというデメリットもあります。そんなときは「トゥワイスアップ」という飲み方を試してみてください。トゥワイスアップとは1:1の割合になるように常温の天然水をウイスキーに加水する方法で、香りを知るのに最適な飲み方と言われています。
 

ピーティーなウイスキーと相性のいいおつまみ

生牡蠣にピーティーなウイスキーを垂らす
ピーティーなウイスキーには、スモークしたサーモンやナッツ、燻製したソーセージなどがよく合います。また、本場のスコットランドでは、生牡蠣にピーティーなウイスキーを垂らして食べるという文化があります。牡蠣が持つ独特の濃厚な旨みと、ピーティーなウイスキーとの相性は抜群ですよ。

味わうほどやみつきに。ピーティーなウイスキーにチャレンジしてみませんか?

ウイスキーにおけるピート香はクセが強く、最初は驚くかもしれません。ですがピート香は慣れていくほどやみつきになっていくという不思議な魅力がある香りです。

ぜひあなたもピーティーなウイスキーの世界に一歩踏み出してみてください。

※記事の情報は2024年5月17日時点のものです。
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