早く帰った金曜日は香るビール

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

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さけ通信
働き方改革も掛け声ばかりではないようで、早く帰ってくつろぐ人が増えています。東京メトロでは終業時間直後の18時台の乗車率が上がり、東京大学の調査では10年前に比べて帰宅時間が確実に早まったという結果が出ました。早く帰ると、ゆっくり家飲みする人も増えることでしょう。そんな時におすすめしたいのが香るビールです。4月のビールの表示基準の改正で、脚光を浴びたボタニカルを使ったビールも含めて解説します。

早く帰った金曜日は、自宅でゆっくり一杯

酒文化研究所の酒好きモニター対象のアンケート「酒飲みのミカタ」では、早く帰った金曜日の晩の過ごし方は、「ふだんの日よりもゆっくりと飲みたい」が43%ともっとも多く、お酒の種類では、「日本酒」「プレミアムビール」「赤ワイン」の3つがそれぞれ約40%と上位に並びました。早く帰宅したらひと風呂浴びてまずは一杯。できればいつもより少し豪華なおつまみで、これらの酒をという気持ちはよくわかります。
図1 金曜晩にしたい過ごし方
図1 金曜晩にしたい過ごし方
図2 金曜晩にしたいお酒の飲み方
図2 金曜晩にしたいお酒の飲み方
図3 金曜晩に飲みたいお酒
図3 金曜晩に飲みたいお酒

甘い香りは麦芽から

今の季節なら最初の一杯は何といってもビールでしょう。早く帰ったらひと風呂浴びてプレミアムビールといきたいところ。そしてこのプレミアムビールには、しばらく前から香りのボリュームが大きいものが目立つようになり、バラエティも豊富になりました。グラスに顔を近づけると甘い香りや華やかな花を思わせる香り、青くスパイシーな印象の香り、柑橘系のさわやかな香りなどを感じると思います。
ビールの香りには、麦芽由来のもの、酵母など醗酵由来のもの、ホップなど副原料由来のものと、大きく3つあります。
麦芽由来の香りには、焙煎によるものと麦芽ほんらいの穀物の香りがあります。発芽した大麦を乾燥させるときに、煙で強くいぶすと燻製のような香りが付きます。ゆっくり加熱して焦がしていくとチョコレートのように甘い香りや、さらに強くローストするとコーヒーのような香りがでます。麦芽の穀物っぽさを感じさせる香りは、ビールから立ち上る鼻で感じるというよりも、口に含んだ時や飲みこんだ後に戻ってくる香りで感じることが多いようです。

大麦を発芽させてモルトにした後、加熱して乾燥させ。写真のように加熱の仕方でビールの色が変わり、焦げたような甘い香りが出てくる。
加熱の仕方でビールの色が変わり、焦げたような甘い香りが出てきます

エール酵母はフルーティ&フローラル

ビールの香りは使う酵母によっても変わります。日本で広く飲まれる金色で透き通ったラガービールは、ドイツやチェコで生まれたビールです。発酵が終ると酵母が下に沈み(下面醗酵)、すっきりドライな味わいになります。
一方、エールビールはイギリスやベルギーで発達したタイプで、発酵後に酵母が上に浮いてきます(上面醗酵)。このビールは果物のような香りや、花のようにフローラルな香りを出し、柔らかい口当たりとあいまって優しく穏やかな印象になります。
サントリー『ザ・プレミアム・モルツ 香るエール』はフローラルな香りが漂う。
サントリー『ザ・プレミアム・モルツ 香るエール』はフローラルな香りが漂う。

香りの決め手はホップ

そしてビールの香りを決定的に決めるのはホップです。
ホップはスパイシーで草木を思わせる青っぽく感じる香りをベースに、華やかなものや柑橘系の香りをもつものなど、品種や産地ごとにさまざまな表情があります。さらに使用する量の多寡、加えるタイミング、加熱時間など複数の要素が絡み合って、そのビールの香りを形づくります。
4月に副原料にホップ以外のボタニカル(ハーブやスパイス)をビールに使用することが認められるようになりました。併せてビールの発酵が終った後で、ホップを投入することも認められるようになりました。これはドライホッピングと言われる手法ですが、ホップの香りがストレートにビールに出てきます。従来はドライホッピングをすると「発泡酒」と表示しなければならなかったので、あえてやらなかったブルワリーもあったと聞きます。「ビール」と表示できるようになった今、ホップの香りを存分に生かしたスタイルのビールが増えていくはずです。
ホップには苦みの強いビターホップ、香りがたつアロマホップと大きく2タイプ
ホップには苦みの強いビターホップ、香りがたつアロマホップと大きく2タイプ
ホップには苦みの強いビターホップ、香りがたつアロマホップと大きく2タイプ分けるが、品種はさまざまで個性的な香りのものも少なくない。毬花(松毬のようなホップの花)を剥いていくと、黄色い花粉のようなものがある。これがルプリンという香り成分。

ボタニカルが複雑に香るビール

ホップの他にもビールにはさまざまなボタニカルが使われています。小麦を使った薄っすらと白濁したビール(ベルジャンホワイトやヴァイツェン)にはオレンジピールやコリアンダーがよく使われ、軽快でさっぱりした香りを楽しめます。
ベルギービールに多い修道院でつくられるビール(トラピストビール)は、たくさんの種類のボタニカルを使って、複雑で深い味わいに仕上げたものが見られます。アルコール度数が8%程度の濃厚なものもあり、のど越しではなくゆっくり味わいを楽しむスタイルになっています。
『バラデン』に使われる代表的なボタニカル
イタリアのクラフトビールのパイオニア『バラデン』に使われる代表的なボタニカル。
この夏は、金曜日に早く帰って、香るビールをあれこれ飲み比べて見てみませんか?
きっと好みのものが見つかるはずです。


※記事の情報は2018年5月29日時点のものです。
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