西村まどかのサケ・コレクション➀ 酒のメッセンジャーを目指して
昨年、猛勉強の末、みごと唎酒師に合格した西村さん。これから唎酒師として、同世代の人に日本酒をはじめ酒の楽しさを伝えるメッセンジャーを目指すそう。活躍が楽しみです。
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日本酒の製法、最初の難関は「麹」と「酵母」
西村 ありがとうございます。大勢の方に助けていただいたので合格できて本当によかったです。これでやっと唎酒師ですと名乗れるようになりました。
――唎酒師のテキストを入手されてから半年間、毎日コツコツと勉強されたのですか?
西村 2冊のテキストがかなりの厚さだったので、けっこう覚えなければいけないことが多いんだなと最初に感じました。合格するにはとにかくひと通りやってみなきゃと思ったので、学生時代のようにノートをとりながら読み進めて、ほとんど毎日やりました。
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西村 やっぱり酒づくりのところです。日本酒の製造は工程が多く複雑ですし、専門用語が多いので初めの頃はなかなか頭に入りませんでした。講師の方はやさしい言葉で説明してくれますが、しっかり覚えていない用語が出てくると、あれっ、これはどういう意味やったっけ?と考えているうちに話が先に進んでわからなくなってしまうことがありました。最初に迷ったのが麹と酵母です。そもそも存在自体がわからなかったです、いったい何それって感じで(笑)。そのうえ音も似ていて何度もどっちがどっちだかわからなくなりました。
――そこは皆さん引っかかるところです。麹は日本の発酵食品に欠かせないものですけれど、普段の暮らしの中であまり話題にのぼることがないからでしょうか。酵母のほうはパンづくりでイーストを使ったりするので知っている方が多い感じがします。
西村 必要最小限の専門用語はがんばって覚えないとダメですね。
――試験対策では特別なことをされましたか?
西村 これまでの問題を解いてみて、筆記のほうは何とかなりそうだと思えるところまでできるようになりました。不安だったのはテイスティングです。唎酒師として香味を捉える技術は大事だと思います。でも試験ではどんなお酒が出てくるのかわからないので、ずっとドキドキしていました。あと、手書きでの記述問題も多く、ここ最近は手書きで文章を書く機会があまりなかったこともあり、簡単な漢字でもパッと出てこなかったり(笑)。別の意味でも苦労しちゃいました。
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サービスがあってこそ日本酒が活きる
西村 そうですね、日本酒に詳しければ唎酒師になれると思っていたところはありますけれど、勉強を進めるうちにサービスする人の役割がとても大切だということがわかってきました。どんなにおいしいお酒でも提供する温度や器、料理との組み合わせ、提供するタイミングなど、お客様の口に入るまでのさまざまな条件を整えないと、気持ちよく楽しんでいただけません。日本酒を活かすことができるかどうかは、サービスする人次第だと知ったことはとてもよかったと思います。
――日本酒と料理のペアリングを体験するために、「大塚はなおか」さんにご一緒しました。ミシュランのビブグルマンに4年連続して選出された名店です。サービスも勉強になったのではないですか?
西村 お酒もお料理もおいしく、組み合わせ方や酒器の選び方もよく考えられていて、とても勉強になりました。お酒を飲んでから料理を食べるのと、料理を食べてからお酒を飲むのとで、味わいの印象がずいぶんと変わるとお聞きしました。その場でやってみると本当に違ったんです。それ以来、日本酒を飲む時にはお料理を食べる前と後でのお酒の味の違いを意識しています。
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西村 合格したからといってお酒の飲み方は変わりませんけれど、SNSで合格の報告をしたら反響が大きく嬉しかったです! 周りからも、すごいねおめでとうと言ってもらえました。そして、その次に「日本酒を飲んだらなんていうお酒かわかるの?」のと聞かれることが多いのですが、唎酒師はそういうことじゃなくて〜って説明が始まります(笑)。あとは家族がとても喜んでくれました。イエノミスタイルの「目指せ!唎酒師」はずっと読んでくれて、祖父はスマホとか全然やらないので、祖母がプリントしたのを嬉しそうに読んでいたと聞きました。
福井では日本酒はふだんの酒 東京では特別な酒
西村 うーん、いつだろう……、上京してこっちで飲むようになってからですかね。福井にいるときは家でも家族や親戚が日本酒を飲んでいて、お正月とかで集まると宴会に必ず日本酒がありました。母方の実家が酒屋をやっていて、祖父が日本酒をたくさん持ってきてくれて、二十歳のお祝いの時も日本酒を飲みましたし、友達と飲みに行っても日本酒を飲むのは特別なことではありませんでした。それが東京では日本酒は好きな人が飲むという感じで、あれ違うんだと。日本酒が好きと言うと「すごいね、お酒強いんだね」と返ってきます、福井だと「私も好き」となるんですけどね。それに東京で日本酒が好きという人はとても詳しくて、なんだか日本酒はハードルが高いなあと思いました。
――日本酒に詳しくなっていくときに、どなたか水先案内人がいらっしゃいましたか?
西村 上京してから福井料理のお店でアルバイトをしていたことがあって、福井のお酒を揃えていたのですけれど、「黒龍」「花垣」「常山」とか銘柄を覚えました。タレント活動でも「福井」を前に出しているので地元のお酒を知ろうという気持ちも強かったです。お店のスタッフにとても詳しい方がいて、新しいお酒や限定のお酒が入荷するたびに説明してくれて、少しずつわかってくると日本酒がさらにおもしろくなっていきました。
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基礎がわかったから酒蔵ごとの違いが見えた
西村 唎酒師の勉強を始めてからワイングラスを使うようになりました。お酒の色や粘度を見たり、香りもわかりやすいので。
――日本酒が好きになると酒器が増えるんですよ。いいのを見つけると欲しくなる。
西村 もう集めたくなってきています(笑)。かわいいお猪口が多いんです。
――骨董市が好きでよく出かけますが掘り出し物があって楽しいですよ。酒器ばかり見ていて、どんどん溜まるので、家族から冷ややかな視線を浴びせられています(笑)。唎酒師のお話に戻しますけれど資格を取ろうと思ったきっかけをお聞かせいただけますか。
西村 「シューイチ」(日本テレビ)で2年間お天気キャスターをやらせていただいたんですけれど、やっていくうちに福井出身で日本酒が好き、お酒が飲めるというキャラクターになっていきました。司会の中山秀征さんから「西村さんはお酒が強いんです」と紹介されたりするようになって、福井は日本酒が有名だし、どうせなら資格をとって特技を身に着けてしっかりアピールできるようになろうと考えたんです。「ふくいブランド大使」に任命していただいていますが、日本酒に詳しいとわかると福井のお酒の情報がいろいろ入って来ます。そして基礎知識があると酒蔵の違いもよくわかってきます。去年、初めて福井で3つの酒蔵を訪ねた時も、規模も設備も目指しているお酒も三者三様でした。日本酒の基礎知識があったからその違いがわかったと思います。
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酒の楽しさを若者に伝えたい
西村 日本酒が好きだから勉強して、勉強したらもっと好きになりました。まずは日本酒の楽しさを同世代の子たちに伝えたいです。飲んでみるとおいしいという方が多いので、お酒の上手な選び方や飲み方、お肌にもいいことなど伝えたいことがたくさんあります。
――昨年、コラムを連載していただいて、私も若年層に届いたという手ごたえを感じました。難しい顔をしたおじさんが発信したのでは届かない層です。そういう意味では日本酒だけでなくワインやビール、ウイスキーだって若年層に魅力を伝えられるメッセンジャーを求めています。西村さんは日本酒以外のお酒に興味はありませんか?
西村 とても興味があります。どのお酒も基礎知識があるとおもしろくなると思います。幅広くお酒の知識を持ったスペシャリストになって、そのなかで日本酒には一番詳しいタレントを目指したいです。
――いいですね。何からスタートしましょう?
西村 カクテルも好きなので、まずはそこから。ウイスキーやリキュールなど洋酒の知識が必要になりそうですけれど、組み合わせは無限大にあるので自分の好みのカクテルを増やせると嬉しいです。
――先日、ウイスキーのオンラインセミナーを聴講されたそうですね。
西村 サントリーの『ワールドウイスキー碧Ao』の特別セミナーに参加しました。世界で初めて自社蒸溜所の世界5大ウイスキー(スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアン、ジャパニーズ)原酒をブレンドしたウイスキーで、それぞれのウイスキーがどんな働きをしているかわかるように、『碧Ao』から各ウイスキーを1種類ずつ抜いたサンプルを飲み比べるというものです。チーフブレンダーの福與伸二さんが講師で、ブレンドの重要性や原酒の特長などがよくわかりました。聴講してウイスキーの蒸溜所に行ってみたくなりました。
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西村 私の周りでは酒離れは感じませんが、お酒を飲まないという方を理解はできます。アスリートとか会社の付き合いが面倒だとか、酒を遠ざけるのはわかる。でも、お酒はいいところもたくさんあります。若い人にそれを伝えていけたらうれしいです。
――ぜひ、一緒に発信していきましょう。本日はどうもありがとうございました。
(聞き手:山田聡昭/酒文化研究所 2021年1月26日)
※記事の情報は2021年2月16日時点のものです。
▼参考サイト
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日本酒のソムリエ唎酒師
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