ジャパニーズウイスキーの定義をご存じですか?

世界中で大人気のジャパニーズウイスキー。酒齢の長いものは品薄状態が続いていますが、ジャパニーズウイスキーと名乗るにはどんな条件を満たす必要があるかご存じでしょうか? このたび厳しい表示規定ができました。

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日本の酒類の輸出はウイスキーがトップ

国税庁が発表した2020年の日本産酒類の輸出金額は710億円で、世界中に新型コロナウイルスが大流行するなか、前年を7.5%上回り過去最高を更新しました。輸出金額は2010年以降、年々増加していますが、中でも増加が著しいのはウイスキーです。2010年に17億円だったものが、5年後の2015年に100億円を超え、2020年には271億円と約10年で16倍になりました。この結果、2020年の構成比は約4割を占め、清酒を上回って酒類別で初めて第1位となりました。
日本産酒類の輸出金額推移
日本産の酒類の輸出は好調。とくにウイスキーの成長ぶりが目覚ましい
ウイスキーの輸出先は最も多いのは中国で79億円、次いでアメリカが63億円、第3位はフランスの27億円です。他の酒類では輸出先が中国・香港・台湾などのアジアと北米が大きいのに対して、フランスなどEUの構成比が高いことも特徴です。

高評価の基になったアワードの獲得

ウイスキーの輸出が増えたのは、ジャパニーズウイスキーの品質の高さが世界で認められるようになったからです。2000年ごろから国際的なウイスキーのコンテストで上位入賞の常連となり、数々のアワードを獲得してきました。

毎年、ロンドンでおこなわれるISC(International Sprits Challenge)は、主要なウイスキーメーカーのチーフブレンダークラスの技術者が審査員を務める、世界でもっとも権威があると言われる蒸留酒コンテストです。ここでのサントリーのウイスキーの入賞実績を見ると、2003年の『山崎12年』の金賞受賞に始まり、翌2004年には『響30年』が部門最高賞のトロフィーを受賞、この『響30年』は2006年から2008年にかけて3年連続でトロフィーを受賞し世界を驚かせます。
『サントリー山崎』
『サントリー山崎12年』は2003年に金賞を受賞。その後「山崎」は数々のアワードを獲得していった

サントリーのスーパープレミアムウイスキー『山崎』『白州』『響』はその後もトロフィーや金賞を受賞し続け、同社は2010年に高品質で多彩な製品を生み出したメーカー1社に授与されるディスティラー・オブ・ザ・イヤーを初めて受賞します。さらに2012年から2014年にかけて3年連続で同賞を受賞する快挙を成し遂げ、ジャパニーズウイスキーの品質の高さは世界に知れ渡りました。
ISC2012でのディスティラー・オブ・ザ・イヤー表彰式
ISC2012でのディスティラー・オブ・ザ・イヤー表彰式。この年から3年連続でこの章を受章する

ジャパニーズウイスキーとは?

一方、評価が高まるにつれてジャパニーズウイスキーはその定義を問われるようになっていきます。ISCに審査員として参加していた輿水精一氏(サントリー名誉チーフブレンダー)は、今年4月1日に東京で開催された「ジャパニーズウイスキーの日制定記念イベント」での土屋守氏(ウイスキー文化研究所所長)らとのトークショーで次のように述懐しました。

「2004年に『響30年』がISCでトロフィーを受賞した頃から、他の審査員たちからジャパニーズウイスキーの定義はどうなっているのかと質問を受けるようになりました。海外のセミナーに講師として招かれることも増え、突っ込んだ質問も出てきます。評価が高まると周囲の関心は、日本の酒税法が定めるウイスキーの内容に向かい、ジャパニーズウイスキーの定義をきちんと決める必要があると思うようになりました」
輿水精一氏(サントリー名誉チーフブレンダー)と土屋守氏(ウイスキー文化研究所)
輿水精一氏(サントリー名誉チーフブレンダー)と土屋守氏(ウイスキー文化研究所)

日本産を厳しく定義ジャパニーズウイスキー

酒税法ではウイスキーの原材料を「麦芽」ではなく「発芽した穀類」としており、麦芽の使用を義務付けていません。また、ウイスキー以外のアルコールや香味料・色素を90%まで加えることが認められています。さらに原産地に関する規定がありません。海外でジャパニーズウイスキーが高く評価されてくると、酒税法によるウイスキーの定義の曖昧さが不信感を生むようになったのです。実際、輸入したウイスキー原酒を日本でブレンドし瓶詰めしたものをジャパニーズウイスキーとして販売したり、樽で熟成させた米や麦の焼酎がジャパニーズウイスキーとして輸出されたりする例が見られていました。

こうしたなか日本洋酒酒造組合はジャパニーズウイスキーの定義について検討を進め、2021年2月に「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を発表します。原材料や製造・貯蔵に関する主な規定は次のとおりです。

①原材料は、麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限ること。なお、麦芽は必ず使用しなければならない。
②製造 糖化、発酵、蒸留は、日本国内の蒸留所で行うこと。なお、蒸留の際の留出時のアルコール分は 95 度未満とする。
③貯蔵 内容量 700 リットル以下の木製樽に詰め、当該詰めた日の翌日から起算して 3 年以上日本国内において貯蔵すること。
④瓶詰 日本国内において容器詰めし、充填時のアルコール分は 40 度以上であること。

これでジャパニーズウイスキーの定義が明確となり、不透明なジャパニーズウイスキーは姿を消していくと期待されています。ただし、この規定から外れるものも「ジャパニーズウイスキー」と表示しなければ従来どおり製造・販売を継続できるほか、経過措置として3年間は現行の表示のまま認められます。

国内で原酒の交換もスタート

今、日本各地に次々にウイスキーの蒸留所が誕生しすでに40ヶ所を超えています。新設の蒸留所のほとんどは小規模で、大手メーカーのように多彩で高品質なウイスキー原酒をつくれません。そこで彼らからは、スコットランドのように各蒸留所のウイスキー原酒を流通させて多彩な原酒を使えるようにする動きが出ています。

「マルスウイスキー」を製造する本坊酒造(鹿児島市)と「イチローズモルト」をつくるベンチャーウイスキー(秩父市)は、6年前に蒸留したばかりのニューポットひと樽を交換して、それぞれの貯蔵庫で貯蔵しました。先ごろ両社はこのモルトウイスキー原酒を自社の原酒とヴァッティング(モルトウイスキーどうしをブレンドすること)したものを商品化しました。本坊和人社長と肥土伊知郎社長は、この試みを単なる原酒交換にとどまらず製造やブレンドの技術を磨くことに繋がり、小規模な蒸留所がお互いに切磋琢磨してジャパニーズウイスキーを盛り上げていきたいと述べています。
日本のウイスキー蒸溜所は急増
この5年間に日本のウイスキー蒸溜所は急増。三郎丸蒸溜所(富山県砺波市)の展示ボードより
三郎丸蒸溜所
三郎丸蒸溜所。若鶴酒造のウイスキー蒸溜所。駅前に立地するため電車でアクセスでき試飲も容易
厚岸蒸溜所(北海道厚岸町)
厚岸蒸溜所(北海道厚岸町)。スコットランドのアイラ島のウイスキーのような酒をつくりたいとこの地を選んだ
遊佐蒸溜所(山形県遊佐町)
遊佐蒸溜所(山形県遊佐町)。甲類焼酎メーカー金龍がウイスキーづくりにチャレンジ
マルス津貫蒸留所(鹿児島県加世田市)
本坊酒造は写真のマルス津貫蒸留所(鹿児島県加世田市)とマルス信州蒸留所(長野県駒ケ根市)の2か所を保有
※記事の情報は2021年5月19日時点のものです。

  

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