新潟のワイナリーを訪ねる~アルバリーニョとマスカット・ベーリーA~

酒どころ新潟はワイン産地でもあります。新潟ワインコーストにはいくつものワイナリーが並び、上越には日本のワインブドウの父と言われる川上善兵衛が創設した岩の原葡萄園があります。新潟のワイナリーを訪ねてみましょう。

メインビジュアル:新潟のワイナリーを訪ねる~アルバリーニョとマスカット・ベーリーA~

歩いて巡る新潟ワインコースト【新潟市】

晴天の休日、カーブドッチワイナリーを訪ねました。お昼時の駐車場は新潟県内ナンバーの車でいっぱいです。

1992年に創業したこのワイナリーは、いま各地に誕生している独立型の個人ワイナリーの草分けです。当時珍しかった自らワイン用ブドウ品種を栽培するワイナリーを目指し、同時にカリフォルニアのナパヴァレーのようなワインツーリズムが発達したエリアにするという将来像を描いていました。誕生から10年後、21年前に訪ねた時には、すでにレストランと結婚式場を備え、車で1時間弱かかる新潟市内から送迎バスを走らせるほど賑わっていました。

この頃から同社はワイナリーの開業を目指す人に、ワインづくりとワイナリー経営を学ぶ場を提供し始めます。2006年には卒業生が2つ目のワイナリーとなるフェルミエを隣接地にオープンし、3年後にドメーヌ・ショオが創業、今では5つのワイナリーが集合しています。
カーブドッチワイナリー
カーブドッチワイナリー
新潟ワインコーストの中核となるワイナリー。創業から21年を経てワイナリーの集積をつくり、フレンチレストラン、ビール&ハム・ソーセージのカジュアルレストラン、オーベルジュ、カフェ、天然温泉を備えた大人が楽しめるワインリゾートとなった。

欧州系ワイン用ブドウだけを栽培しワインづくりに徹するスタイルは、後に続々と創業するワイナリーに多大な影響を与えた。
周辺map
ワインづくりを学んだ卒業生たちがカーブドッチを囲むように周辺にワイナリーを構えた。それぞれのブドウ畑も隣接しており、歩いて回るとワイナリーごとのブドウ品種や植え方の違いがわかる。
カーブドッチのワイナリー見学ツアー
カーブドッチのワイナリー見学ツアー(有料・予約制)。 砂地のブドウ畑に垣根仕立てでブドウが植えられている
宿泊施設はワイナリーオーベルジュ「トラヴィーニュ」
宿泊施設はワイナリーオーベルジュ「トラヴィーニュ」(写真)と温泉施設の「ヴィネスパ」の2か所
中庭
中庭にはカフェとレストラン、ショップがある

名声を轟かせたアルバリーニョ種

新潟ワインコーストのワインが一躍脚光を浴びたのは、アルバリーニョ種のワインの成功です。このブドウ品種はスペイン北西部のガリシア地方を代表する白ワイン用のブドウで、日本では新潟ワインコーストで初めて本格的に栽培されました。海から1.5キロメートルほどの畑の土壌は浜辺のような砂地です。栽培適性のあるブドウ品種を模索していて出会ったのでした。カーブドッチとフェルミエはこの品種に意欲的に取り組み、そのワインは高く評価されています。アルバリーニョ種のワインは生産量が限られますが、カーブドッチのレストランではグラスで注文でき、フェルミエではショップで有料で試飲できました。  

勝沼(山梨)、塩尻(長野)、余市(北海道)などのワイン産地では、ワイナリー巡りにタクシーが必要になります。その点ここは徒歩で回ることができるうえ、カーブドッチには宿泊施設もありドライバーもゆっくりワインを楽しめます。
落ち着いた佇まいのフェルミエ。店内はショップとレストラン
落ち着いた佇まいのフェルミエ。店内はショップとレストラン
ショップのカウンターで試飲できる
ショップのカウンターで試飲できる。人気のアルバリーニョ種は2点で税別で1000円(2021年9月現在)
ワイナリーに隣接するアルバリーニョ種の畑
ワイナリーに隣接するアルバリーニョ種の畑も見ることができる

坂口記念館【上越市】

岩の原葡萄園を訪ねる際、ぜひ足を運んでおきたいのが坂口記念館です。醸造学の権威で酒博士と言われた、坂口謹一郎博士の業績と人柄を多くの資料や愛用品の展示で伝えています。上越市出身の坂口博士は東京に出てからも地元の人々と親しく交流し、しばしば囲炉裏を囲んで酒を酌み交わしました。記念館に建つ「楽縫庵」にはこの囲炉裏が再現され、よく手入れされた庭を眺めながら博士ゆかりの地酒を楽しめます。  

坂口博士は研究者で歌人でありながらプロデューサーの顔も持っていました。壽屋(現サントリー)の創業者、鳥井信治郎氏から「赤玉ポートワイン」の原料となる国産ワインづくりの相談を受けた博士は、上越で長くワインづくりに取り組んできた川上善兵衛氏を引き合わせます。その後二人は現在の株式会社岩の原葡萄園を設立し、日本のワインづくりをリードしていきました。
坂口記念館
坂口記念館
酒杜り(さかもり)館は1階
酒杜り(さかもり)館は1階が酒づくりの道具の展示と説明で、2階は坂口博士が応用微生物の分野で受章した勲章のほか文化面で交流のあった宇野宗甕や齋藤三郎などの陶芸家の作品などが展示されている
記念館の入り口で坂口謹一郎博士の業績が紹介されている
記念館の入り口で坂口謹一郎博士の業績が紹介されている
楽縫庵
坂口博士は雪椿をこよなく愛した。楽縫庵の敷地には約190本の雪椿が植えられている(見ごろは3月~4月)。歌碑には「こしのくにのしるしのはなのゆきつばきともがきこぞりてうえみてませり」とある。
楽縫庵の館内
楽縫庵の館内には4つの和室がある。うち3室は貸切利用もでき、食事と地酒を楽しめる(要予約)
土間の試飲カウンターは酒を搾る槽を利用したもの
土間の試飲カウンターは酒を搾る槽を利用したもの

岩の原葡萄園【上越市】

坂口記念館から岩の原葡萄園へは車で20分ほど、田圃の広がる平野を抜け、山に入り始めるかというところにあります。
 
川上善兵衛氏は交雑によって約一万種のブドウの新品種を育成しました。そのひとつであるマスカット・ベーリーA種は2013年にOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に品種登録され、欧州でもブドウ品種名を名乗れるようになりました。これは白ワイン用ブドウの甲州種に次いで日本では二例目です。山梨や長野、山形などのワイナリーで広く栽培されており、日本を代表する赤ワイン用の品種となっています。  

ショップでは気軽に有料試飲を楽しめ、お手頃なワインから善兵衛氏が開発した品種でつくったプレミアムなワインまでが並んでいます。  

また、豪雪を生かし、庫内に雪を運び込んで夏場も温度を低く保ったワイン熟成庫(第二号石蔵)や、高台に広がるブドウ畑は自由に見学できます。時間を気にせず訪ねられるのはうれしいですね。
岩の原葡萄園
岩の原葡萄園。川上善兵衛記念館は1階がショップで2階はレストラン。
『ヘリテージ』『マスカット・ベーリーA』『ブラック・クィーン』『レッド・ミルレンニューム』
ショップではこのワイナリーのフラッグシップである『ヘリテージ』『マスカット・ベーリーA』『ブラック・クィーン』『レッド・ミルレンニューム』を有料で試飲できる
駐車場の一画、出入り口の近くに建つ川上善兵衛氏の胸像
駐車場の一画、出入り口の近くに建つ川上善兵衛氏の胸像
ブドウ畑
ブドウ畑は建物の裏手に広がる。坂道を登っていくと次々に異なるブドウ品種の畑を見ることができる
ワインの熟成庫には樽詰めされたワインが眠る。奥に雪室がある
ワインの熟成庫には樽詰めされたワインが眠る。奥に雪室がある
《所在地》
カーブドッチワイナリー
〒953-0011 新潟県新潟市西蒲区角田浜1661 
TEL 0256-77-2288
カーブドッチワイナリーHP

坂口記念館 
〒942-0121 新潟県上越市頸城区鵜ノ木148番地
TEL 025-530-3100 
休館日:月曜日(月曜日が休日のときはその翌日)、休日の翌日、12月28日から翌年1月4日まで(12月から2月は冬期平日休館の期間あり)

岩の原葡萄園
〒943-0412 新潟県上越市北方1223番地 
TEL 025-528-4002
岩の原葡萄園HP



※記事の情報は2023年8月17日時点のものです。
 

  

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