日本酒フェア2024レポート! 全国の酒蔵が東京・池袋に集結

日本酒フェアは全国から日本酒の蔵が集まり、自慢の酒を東京で披露するイベントです。今年の「日本酒フェア2024」は7月5日・6日の2日間にわたって池袋で開催されました。

メインビジュアル:日本酒フェア2024レポート! 全国の酒蔵が東京・池袋に集結

「日本酒フェア」は3時間の完全入れ替え制。フリードリンクで極上の日本酒を堪能することができます。この催しには、毎年、足を運んでいますが、悩ましいのは時間が足りないことです。都道府県ごとにブースが設けられ、各ブースに20~30点、多いところでは60点もの酒が用意されています。時間は3時間ですから全部回ろうとすると180分÷45ブース(沖縄と鹿児島は出展なし)で、1ブースにつき4分しかありません。混んでいるブースでは列ができることも多く、とても回り切れません。
 
会場入口
開場前には長蛇の列ができる。20分前くらいに並ぶのがスムーズな入場のコツ

日本酒セミナー「日本酒とチーズ」

そこで今回は思い切って最初に特別セミナーに参加することにしました。イベントの参加費とは別に受講料が必要ですが、本会場の入場チケットがあればどのセミナーにも参加できます。日本酒フェア中に別室で特別セミナーが開催されるため、落ち着いた環境で整理された知識を得ることができます。会がスタートしてすぐのセミナーにしたのは時間のロスを少なくしたかったことと、酔っぱらう前に受講したかったからです。

選んだのは「日本酒とチーズ」のペアリングです。講師のアサノノリエさんはソムリエかつ日本酒のプロ、チーズはもちろん料理の知識も豊富です。
 
日本酒セミナー「日本酒とチーズ」講師のアサノノリエさん
日本酒セミナー「日本酒とチーズ」講師のアサノノリエさん
受講料は1,500円でしたが、出されたチーズはワインバーで頼んだらこのお値段ではとても出てこないようなものばかり。

フレッシュなリコッタ、独特な味わいのシェーブル(ヤギ乳)、マイルドな白カビが2種類、塩気の強いブルー、旨味豊かなハードタイプ、匂いの強いウォッシュ、プロセスチーズの8種類、上質なチーズが用意されました。合わせて、スパイスやナッツ、酒粕ハニー、もろみ味噌、あんこも用意されました。
 
チーズ
用意されたチーズ
合わせる酒は4種類。ドライなスパークリングSAKE、すっきりした辛口、濃醇な山廃純米酒、そしてまったり熟成した5年古酒です。

カビを活用した発酵工程がある日本酒はうまみ成分が豊富で、同じくカビを使うチーズとの相性がよいんだとか。
日本酒4種
今回のサンプルは「七賢 スパークリング 山ノ霞」「麒麟山 超辛口」「菊姫 山廃純米」「木戸泉 秘蔵純米古酒 五年」という個性的な4点

アサノさんのリードでチーズと日本酒の組み合わせをいろいろ試していきます。フレッシュな軽いチーズには軽い日本酒、濃厚なチーズにはしっかりした味わいの日本酒というのがセオリーですが、似た香りがあるものはうまく馴染んだり、塩気の強いブルーチーズが甘い酒とよく合ったりして、相性は思ったよりも幅広いと再確認できました。

また、チーズにハチミツやシナモンなどをプラスすると表情が変わり、合う酒も変わります。チーズと酒が合っていないと感じても、ひと振りするだけで「これはあり!」という組み合わせも出てきました。

渾身の一杯をていねいに味わうなら「公開きき酒会」

日本酒フェアに参加する前に、同じ場所で開催されている「公開きき酒会」(参加費4,000円)に参加するのもいいでしょう。これは「全国新酒鑑評会」という最大の日本酒のコンテストで入賞した酒をテイスティングする会です。

出品された酒は市販されている商品ではなく、このコンテスト用に特別に仕込んだ酒です。酒蔵によっては、このコンテストでの入賞酒を「全国新酒鑑評会出品酒」として限定販売するところもあるので、店頭でご覧になったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

日本酒フェアは飲んで楽しむ場ですが、こちらはしっかりテイスティングしてその蔵の技術の高さを鑑賞する場です。会場は静かで、賑やかな日本酒フェアと比べると「動と静」のコントラストが見事です。
公開きき酒会の会場
公開きき酒会の会場は地域別にテーブルがセットされ、出品酒が並べられている
リストを見ながらテイスティング
出品酒は手前のきき猪口に注がれており、スポイトで自分の猪口に取り分けて試飲する。リストを見ながらテイスティングコメントを書き込んでいる人が多い

菩提酛(奈良)と生酛(兵庫・灘)を飲み比べ

さて、いよいよ日本酒フェアのメイン会場です。セミナーを受講したので、残り時間は90分しかありません。そこでテーマを絞って飲み比べることにしました。

最初のテーマは「酛(もと)」の異なる酒の飲み比べで、奈良県と兵庫県のブースを訪ねました。酛は日本酒の発酵のスターターです。最初に小さな容器で酵母を大量に培養する酛をつくり、大きな容器での本発酵を安全に進めます。

奈良の酒は中世に僧房酒(寺で造る酒)で一世を風靡しました。僧房酒の特徴のひとつは、生の米を水に浸して乳酸発酵を誘導し、この乳酸たっぷりの水を利用した「菩提酛(ぼだいもと)」という酛造りです。中国の黄酒(紹興酒など)や泡盛にも似た技法はありますが、現在の奈良市の南東部にある正暦寺で製法が確立され、各地に広まりました。その後、新しい酛造りの手法に置き換わり廃れましたが、奈良県の酒蔵たちがこの技法を復活させ、独特の味わいを再び楽しめるようになりました。
MissSAKE奈良とはじまりとこれからの酒
今年の奈良県のテーマは「はじまりとこれからの酒」。菩提酛と諸白づくり(麹米と掛け米を両方精白する)技術が奈良で確立されたことから、日本酒の発祥の地とする見方もある

次に訪ねたのは兵庫県です。日本酒の最大産地である「灘(なだ:神戸市灘区から西宮市にまたがる海沿いの地域)」を抱えています。西郷(にしごう)・御影郷(みかげごう)・魚崎郷(うおざきごう)・西宮郷(にしのみやごう)・今津郷(いまづごう)という5つの郷の総称「灘五郷」では、日本酒製造量のおよそ4分の1が造られています。

灘は江戸期に「生酛(きもと)」という酛造りの技法を確立し、冷涼な冬場に集中して酒を造る「寒造り」の仕組みを導入して、高品質な酒の量産を実現しました。海運(樽廻船)で江戸に大量の酒を送り込み、日本酒の一大産地を形成し、現在に至っています。

「生酛」は蒸した米と米麹を櫂棒で擂り潰し、乳酸菌が優位になるように温度をコントロールし、最終的に酵母菌の増殖を図る日本酒固有の技法です。手間と時間がかかるため、現在ではほとんどの酒が人為的に乳酸菌を加える「速醸酛(そくじょうもと)」で造られますが、灘には「菊正宗」や「沢の鶴」など今も生酛造りに重きを置いている酒蔵があります。
灘五郷の酒のフィギュア
灘五郷の酒のフィギュア

交配していない酒米「雄町(おまち)」

酛の違う酒を飲み比べた後は、隣の岡山県のブースに立ち寄りました。岡山には「雄町(おまち)」という酒米があるからです。この酒米は原生種で、酒米の王といわれる「山田錦」や栽培面積がもっとも広い「五百万石」にも受け継がれています。今、各県で独自の酒米を開発する動きが盛んですが、ほとんどが酒造適性のある米を交配して育種したものです。それらとは一線を画す原生種の酒米は、リスペクトされてしかるべきでしょう。

「『雄町』は背が高く倒伏しやすいとされる『山田錦』よりもさらに背が高く、たいへん栽培しにくい米です。単位面積当たりの収穫量も少なく、原生種で野性味を多く残しているため粒が揃いません。酒造りでは年によって米の振れ幅が大きく、杜氏泣かせのやんちゃ坊主ですが、ピタリと嵌った時の酒の出来は、それは見事なものです」とスタッフさん。岡山県にはすべて「雄町」で造ると宣言した蔵もあり、目を離せません。
岡山は「雄町」を絶賛アピール中
岡山は「雄町」を絶賛アピール中。岡山県外の酒蔵からの引き合いも多く、「雄町」での酒造りに取り組む意欲的な酒蔵が増えている

今、北関東が熱い! 地元の酒を味わう

最後のテーマは私の地元「北関東」です。

「群馬」「栃木」「茨城」は都道府県の魅力度ランキングで最下位を競ったり、「前橋」「佐野」「筑西」などは暑さで競ったりしていますが、人気急上昇中の酒蔵が多い地域でもあります。我が町の酒や馴染みのある近県の酒を飲み比べるのは、理屈抜きに楽しいものです。ブースに立つ蔵の方と共通の知り合いがいるのは珍しくなく、超ローカルな旨いもの屋の話題で盛り上がれば、時はアッという間に過ぎていきました。
MissSAKE茨城と酒
北関東で唯一海がある茨城県。海と山のおいしいもので杯を重ねる
「群馬SAKE TSUGU」 群馬県酒造組合ブース
群馬県の前橋市は2020年に清酒購入金額で日本一になったほど日本酒好きが多い。今年、群馬県酒造組合がテーマに掲げた「群馬SAKE TSUGU」は、民間から始まった群馬の日本酒応援運動のこと
いつもニコニコとちぎ酒 栃木県酒造組合ブース
2022年には栃木県の酒蔵が世界的な日本酒コンテストで相次いで第1位を獲得して驚かせた。競い合い酒のレベルはどんどん向上している

※記事の情報は2024年7月18日時点のものです。

  

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