世界の蒸留酒と出会える「東京インターナショナルバーショー」をレポート!
この春、開催された「東京 インターナショナル バーショー 2024(Tokyo International BarShow 2024)」はバー文化の祭典です。ウイスキーやカクテルだけでなく世界中の蒸留酒と出会えます。国内外から集まったたくさんのブースに並んだユニークな酒をレポートします。
会場内のブースでの試飲は無料
また、セミナールームではレアな酒のテイスティングセミナーが多数開催され、別途安くない受講料がかかるにもかかわらず、チケットの争奪戦になるものもあります。今年もお目当てのセミナーを狙う熱烈なファンたちで、開場前から入口に長蛇の列ができました。
なお、日本酒やワインのテイスティング会と異なり、バーショーでは吐器(試飲の後に口に含んだ酒を吐き出すための容器)がありません。提供されるのはアルコール度数の高い蒸留酒ばかりですから、参加者は試飲を少量に抑えたり、マイ吐器(大型紙コップ等)を用意したりといった飲みすぎ防止策が必要です。
余談ですがビールの試飲会でも吐器はありません。ビールはドリンカビリティ(のどごしの良し悪し)がおいしさの重要項目であるため、コンテストでの審査もビールを飲んで評価するところが多いようです。
日本のスピリッツのニューフェイス
会場に入ると最初のブースは越後薬草蒸留所(新潟県)でした。上越市にあるメーカーで、上越特産のヨモギを主に80種類の薬草を発酵させ、その蒸留液をベースにジンなどの蒸留酒を造っています。製品には「THE HERBALIST YASO(ザ・ハーバリスト・ヤソ)」と冠して、東京・原宿に直営のスタンドバーを設けてアピールしたり、新潟県内限定で缶入りジンソーダを発売したりするなど、とてもチャレンジングな蒸留所です。この日は塚田社長をはじめ若いスタッフが駆け付け、商品をアピールしていました。
隣のブースはなんと日本酒の「獺祭」の旭酒造(山口県)でした。今回、ワイン・ビールを含めても醸造酒で出店していたのはこちらだけです。日本酒はバーでほとんど取り扱われていません。ですが欧米からの外国人観光客はバーで日本酒を飲みたいというリクエストが多いそうで、そうした需要向けにフラッグシップの「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」と「獺祭 純米大吟醸45 にごりスパークリング」を提案していました。
このイベントの来場者は洋酒好きな方ばかりです。「『獺祭』は知っていたけれど飲むのは初めて、というお客さんが多いですね。新しい方に試していただけるいい機会になりました」とスタッフは手ごたえを感じたようです。
本格焼酎造りの技術と知見を活かした蒸留酒を引っ提げて、毎回、ブースを出店しているのが麦焼酎「いいちこ」の製造元の三和酒類(大分県)です。同社はカクテルコンテストを主催するなど、焼酎メーカーとしてはもっともバーの開拓に熱心に取り組んできました。最近は業界をあげて本格焼酎を使ったカクテルの提案に取り組んでいますが、その何年も前から独自に進めてきたのです。
この日はバーテンダーから高く評価され、しばしばカクテルベースに使われるコウジスピリッツ「和ピリッツ ツムギ(WAPIRITS TUMUGI)」をアピールしていました。腕利きのバーテンダーが交代でカウンターに立ち、それぞれオリジナルカクテルを提供しました。
注目のジャパニーズクラフトジン
バーショーには数社が出店していましたが、まずご紹介するのはエシカル・スピリッツ(東京都)です。その名のとおり同社はフードロスの削減を意識した蒸留酒造りに取り組んでいます。廃棄されるはずだった酒粕の蒸留液でジンを造ったり、カカオの殻を発酵させて蒸留酒にしたり、時には飲み頃を超えてしまったビールや日本酒を蒸留したりして、新しい上質な酒に仕立て直します。東京の下町で若い蒸留家たちが立ち上げました。
広島のSAKURAO DISTILLERYは日本のクラフトジンのパイオニアのひとつです。もともと清酒どころの広島で甲類焼酎を造っていました。およそ10年前に大衆酒メーカーからクラフトマンシップが溢れるジンやウイスキーのメーカーに転じ、社名も変更して不退転の決意で取り組んでいます。
人気の「SAKURAO GIN ORIGINAL」は、広島産のフレッシュな柑橘類など9種類のボタニカルとジュニパーベリー、乾燥コリアンダーシードなど計14種類の原料を使用したドライジンです。クラフトジンとしてはリーズナブルで試しやすい商品です。
もうひとつご紹介したいのは日本の薬草酒のスペシャリスト、養命酒製造(東京都)のジンです。日本にも薬草酒の長い歴史があり、独自のレシピの薬草酒が各地に残っています。「養命酒」はそのトップブランドで、長野県の駒ケ根工場では熟練の職人が厳選したボタニカルで仕込んでいます。
薬草酒造りの知見を活かしてリリースされたのがクラフトジン「香の森」です。クロモジ(高級楊枝などに使われる木で古くから薬用にも使われてきた)が香る独特のフレーバーは「和」をイメージさせます。
世界TOP10を目指すニッカウヰスキー
ブースでは基幹商品でジャパニーズウイスキーの「余市」「宮城峡」「竹鶴」のほか、傘下のベン・ネヴィス蒸留所(スコットランド)の原酒を使った「ニッカセッション」、昭和世代には懐かしい「スーパーニッカ」が提供されていました。
さらにニッカウヰスキー欧州アンバサダーを務めるバーテンダーのスタニスラヴ氏がバーカウンターに立ち、ウイスキーカクテルをサービスしました。日本のウイスキーがグローバル市場に果敢に出ていこうとする姿勢は頼もしいです。
日本のクラフトウイスキーも多数出店していましたが、今回は嘉之助蒸溜所(鹿児島)を取り上げます。母体となった小正醸造との共同ブースには日本初の長期樽熟成焼酎「メローコヅル」と「KANOSUKE」が並んでいました。グローバルな市場のない本格焼酎の国際化の道を拓くために、ウイスキー参入という道を選んだ彼らのチャレンジは英断です。以前詳しくレポートしました。そちらもご覧ください。
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台湾のKAVALANウイスキーも忘れてはいけません。亜熱帯の台湾で初めて本格的なウイスキー蒸留所が誕生したのは2005年でした。20年足らずで世界のトップ蒸留所のひとつに数えられるようになったのは奇跡かもしれません。スコットランドから蒸留設備一式を調達し、技術者を招聘して高品質なモルトウイスキー造りにチャレンジすると、国際的なウイスキーコンテストで好成績を連発して驚かせました。温暖な気候ではウイスキーが早く熟成することを証明したといってもよく、その後は南国にウイスキー蒸留所が続々と誕生します。
ブースには台北市内にある直営バーのバーテンダーであるジェームスさんが立ち、カバランの代表的なウイスキーをサービスしていました。台北を訪ねた時にはぜひ彼のバーに足を運んでみてください。
脚光を浴びるローカルスピリッツ
南米ボリビアの「シンガニ」は高地にある鉱山で働く人々の需要を満たすために造られるようになったといわれています。原料はブドウですからブランデーの仲間です。
試飲すると予想したよりもキレイな味わいで、単式蒸留の酒とは思えませんでした。話を聞いてみると蒸留所が高地にあるため、沸点が低いのだと言います。日本では焼酎を蒸留する時に減圧蒸留器がよく使われます。これは蒸留器の中の気圧を下げて、発酵液の沸点を低くして発酵液のきれいな香気を取り出す技術です。シンガニは天然の減圧蒸留器で蒸留されていたことになります。
次にご紹介するのはメキシコの「メスカル」です。メキシコの蒸留酒ではテキーラが有名ですが、テキーラは産地名であるため、同種の酒で別の地域で造られたものはメスカルと呼ばれます。テキーラよりも製造の自由度が高くバリーションも豊富なこともあって、近年はテキーラをしのぐ人気です。
ブースを出店していた「Sentir」は原料のアガベの生育年数の違うもの、蒸留や貯蔵・熟成の方法の異なるもの、コーヒー豆など副原料を使ったものなどを用意し、丁寧に試飲をすすめていました。
最後にご紹介するのはブラジルの「カシャッサ」です。サトウキビの搾り汁を発酵させた蒸留酒でラムの仲間です。もともとはサトウキビ栽培のプランテーション農場で造られた大衆酒でした。広大なブラジルの各地で造られており、量産される安価で飲みやすいカシャッサが大きな市場を形成するなかで、各地の小さな蒸留所のカシャッサは個性が際立つようになりました。
ブラジルは乾燥地帯からジャングルまで多様な気候帯があり、土壌もバラエティに富んでいます。そのため地域ごとに植生が違い、製樽に用いられる木材が土地によって異なります。そうした樽で熟成したカシャッサは、その土地特有の味わいとなります。マニアたちはそんなユニークなカシャッサを求めてブラジルを駆け回っているのだそうです。
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