ベルギーの自然発酵ビール「ランビックビール」とは
個性豊かな味わいで知られるベルギービール。なかでもユニークなのが首都ブリュッセル近郊だけで造られるランビックビールです。アルコールを造り出す酵母を添加せず、自然にアルコール発酵が始まるのを待つ製法で強い酸味があります。製造方法の特徴とリンデマンス醸造所のディルク・リンデマンスさんのお話を紹介します。
ランビックビールの産地はブリュッセルの郊外だけ
天井の穴から酵母が降ってくる
フルーツビールのベースになるランビック
日本にも瓶詰め商品が輸入されている「グーズ」は、完成したランビック(3年もの)に発酵途中の若いランビック(1年ものなど)をブレンドして瓶詰めし、瓶内二次発酵により炭酸ガスを得ます。ランビックそのものの味わいを楽しみたい方向けの商品で強い酸味があります。
また、世界中で飲まれているフルーツ・ランビックは、若いランビックにサクランボやカシスなどのフルーツを漬け込んで再発酵させたり、果汁を加えたりして瓶詰めしたものです。ランビックの酸味を活かしつつフルーツフレーバーで飲みやすくなっています。
ランビックはどぶろくビール?
土地に根付いた庶民の酒ですから、ランビックを造るブルワリーはたくさんありました。ビール評論家の田村功氏によると1965年には47カ所ありましたが、転廃業が相次ぎ現在は3分の1ほどになっています。
「リンデマンス醸造所」は製造量の7割を輸出
世界的なランビック醸造所になる転換点は1961年でした。5代目当主レネ・リンデマンスはクリーク(サクランボを加えて瓶内二次発酵させたフルーツ・ランビック)を商品化します。当時はまだフルーツビールはほとんど造られていませんでした。これが好評を博して増産を重ね、1970年代にはパリに、その数年後にはアメリカ輸出が始まります。アメリカへの輸出では、輸送中の大西洋上でビールが吹き出すトラブルが続出しました。レネは加熱殺菌のやり方を改善するなど工程を見直し、長距離輸送に耐える製品に仕上げます。こうして輸出は順調に伸び1980年代には製造量の7割を占めるようになりました。おもな輸出先はアメリカ、フランス、スイス、ドイツでした。
製造量の9割はフルーツ・ランビック
「現在も輸出が7割を占めていますが、輸出先は中国が大きく伸びて22%を占め最も多くなりました。次がフランス、アメリカでそれぞれ2割近いです。南米やアジアの国々にも出ていて、日本は2%ほどです。
製造量の9割はフルーツ・ランビックで、幅広い方に楽しんでいただいています。残りの1割は長期間熟成させる上級品、ハイエンドな商品もランビックの価値を高めるために必要ですし、重要なテーマだと考えています。たとえばクリークのレギュラー商品は、1年物のランビックにサクランボの果汁を加えて馴染ませてから瓶詰めし、加熱殺菌して安定させます。これに対してプレミアム商品は、6ヶ月くらいの若いランビックにフレッシュなサクランボを丸ごと加えて6ヶ月間再発酵させ、瓶詰めしてさらに3ヶ月間発酵させて出荷します。ランビックで1回目の発酵、果実を加えてタンクで2回目の発酵、瓶内で3回目の発酵があります。味わいはエレガントで複雑かつフレッシュな果実味が特徴です」
ランビックをベースに新価値開発
「『ボタニカル・ランビックシリーズ』は3年物と1年物のランビックをブレンドしたものに、バジルやショウガなどのボタニカルを浸漬し、ボトルに詰めて再発酵させました。ランビックをベースにさまざまなボタニカルを組み合わせて、フルーツ・ランビックとは違う魅力をつくれたと思います。
もうひとつは『ゴーイック(GOYCK)』です。アントワープのブルワリーが造る小麦のエールビールと、グーズをブレンドしたもので、2021年ワールド・ビア・アワードで「ワールドベスト・スタイル・ウィナー」と「ワールド・ベストサワー&ワイルドビア」を受賞しました」
安定した人気のフルーツビールをベースに、上級品や新しいスタイルの開発に余念がないリンデマンス。世界中でパヨッテンランドにしかないランビックを未来につなげる醸造所のひとつです。
※記事の情報は2024年9月5日時点のものです。
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