京都・伏見で4蔵が蔵開きを同日開催。秋の酒蔵巡りレポート

京都中心部から南に10km弱、伏見は名水の里として知られたくさんの酒蔵が並びます。毎年10月の最終土曜日には多くの酒蔵が一般の人を蔵に迎える「蔵開き」を開催。酒蔵を巡り歩く人で賑わいます。秋晴れのなか「北川本家」「齊藤酒造」「招德酒造」「キンシ正宗」の4蔵を訪ねてみました。

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いざ出陣! 伏見蔵開きウォーク

「明日は昼間からほろ酔いで歩く人が大勢いますよ」と言うのは伏水酒蔵小路のお兄さん。ここは伏見の日本酒が飲める店と8店のうまいもん屋が軒を連ねる飲食施設で、2階が宿泊施設になっています。たまたまそこに宿をとり、夕飯がてら一人で飲んでいたら、明日は近くの4つの酒蔵が蔵開きを同日開催していると教えてくれました。

ラッキーなことに明日は晩に用事があるだけで昼間はフリーです。これは蔵開き巡りをしないわけにはいきません。
伏水酒蔵小路
伏水酒蔵小路は近鉄桃山御陵前駅、京阪伏見桃山駅から大手筋商店街を歩いて5分。伏見の日本酒を楽しめる
店内には海鮮や鉄板焼きなど8店のうまいもん屋が並び、料理を出前しあうシステム
店内には海鮮や鉄板焼きなど8店のうまいもん屋が並び、料理を出前しあうシステム
翌日(10月26日)に伏見で蔵開きを同日開催するのは、4つ。北川本家(銘柄名「富翁(とみおう)」)、齊藤酒造(銘柄名「英勲(えいくん)」)、招德酒造(銘柄名「招德(しょうとく)」)、キンシ正宗(銘柄名「キンシ正宗」)です。伏水酒蔵小路からスタートして最後になるキンシ正宗まで約3km。ウォーキングにちょうどいい距離です。  

大手筋商店街に出るとアーケードには大きな伏見の酒蔵マップがかかっていました。見上げて、これから訪ねる蔵を巡る順路をざっと確認します。といってもスマホの地図アプリ任せで歩くのですけれど。
大手筋商店街のアーケードには「日本酒のまち伏見」の大きなバナーがかかっている
大手筋商店街のアーケードには「日本酒のまち伏見」の大きなバナーがかかっている
マップ
マップの中央付近にある伏水酒蔵小路から「②北川本家」「⑤齊藤酒造」「⑥招德酒造」「③キンシ正宗」と歩いた

伏見蔵開き①|「富翁」の北川本家

最初の蔵、北川本家には伏水酒蔵小路から5分で到着。こちらは長寿企業が多い酒蔵業界のなかでも老舗中の老舗で、創業は江戸時代の初期、360年以上の歴史があります。当時、伏見には83の酒蔵がありましたが、今も続いているのは北川本家を含めて2つだけだそうです。

会場はすでにプラカップを手にした大勢の人で賑わっていました。
蔵
大手筋商店街のアーケードが終わり、そのまましばらく進むと蔵が見えた
北川本家は年に2回、春と秋に蔵開きを開催
北川本家は年に2回、春と秋に蔵開きを開催。午前11時ごろには試飲に長い列
北川社長とツーショット
旧知の北川社長にご挨拶。せっかくだからとツーショットで
とりあえず試飲チケット4枚綴り(1000円)をゲットして試飲ブースへ。試飲酒は5種類、「富翁 大吟醸 山田錦」だけがチケット2枚で、他は1枚で試せます。

まずは「富翁 純米大吟醸 山田錦49 (ひとつ火)」「富翁 純米吟醸 ひやおろし」をもらって飲み比べると、前者は軽快で、後者は味が乗りボディを感じます。ぺろりといただいて、3つ目はここでしか飲めない限定品「純米吟醸 無濾過生原酒」にトライ。タンクから汲みたて、何の加工もしていない酒は蔵でしか飲めません。フレッシュでちりちりと炭酸ガスを感じる味わいは絶品でした。

会場を囲むように張られたテントには和菓子さんや農家さんが商品を並べていました。段ボールいっぱいの野菜を抱えて帰る方も。私もつられて立派な枝豆を買ってしまいました。
60~70mlのプラカップ
60~70mlのプラカップに7~8分目、約50mlを4杯飲むといい気分
もりもり太った立派な枝豆「紫ずきん」
もりもり太った立派な枝豆「紫ずきん」にひとめぼれして持ち帰りました

伏見蔵開き②|「英勲」の齊藤酒造

北川本家を出てそのまま進み、2つ目の橋を渡ると「英勲」の齊藤酒造でした。酒蔵は昭和を彷彿とさせる鉄筋コンクリートの多層階の建物です。このタイプは、最上階から酒造りの工程をスタートさせ、工程が進むとともに下の階に下りて行き、1階で瓶に詰めて出来上がります。

近年は地元京都産にこだわった酒造りで、すべて京都府産の米で仕込んでいるそうです。
奥のコンクリート造の建屋が酒蔵
北川本家から齊藤酒造まで歩いて数分。奥のコンクリート造の建屋が酒蔵
この日試飲できるのは8点でした。選んだのは「蔵開き限定セット」で500円。「蔵開き生酒」と「スパークリングサケWKにごり」が1カップずつです。こうしたイベントではどうしても、そこで、その日しか飲めない酒に手が伸びます。
蔵開きメニュー
腰を据えて飲むなら300mlを選ぶところだが、先の長い蔵開き巡りではカップ2杯で我慢
有料試飲コーナーは人が途切れない
有料試飲コーナーは人が途切れない。きき酒セットは専用の段ボールトレイで提供されるのはうれしかった(思わず飲んでしまい写真を撮り忘れました)
愛好家による杉玉づくりの実演販売
愛好家による杉玉づくりの実演販売。新酒ができた合図に酒蔵が吊るす杉玉です

伏見蔵開き③|純米酒のパイオニア招德酒造

次の招德酒造までは徒歩で20分かかります。東高瀬川沿いの土手を右手に木造の長い蔵(松本酒造)を見ながらのんびり歩きます。しばらく北に上ったところで東に折れ、そろそろかなと思った頃に賑やかな声が聞こえてきました。招德酒造の会場はコンパクトにまとまっていて、P箱を重ねて作った立ち飲みコーナーは人気の角打ち店のような賑わいです。

この蔵は早くから純米酒に取り組んだことで知られています。現在はどの酒蔵も純米酒を造っていますが、半世紀前は純米酒を造る蔵はひと握りでした。アルコールを添加しない、米だけでの酒造りを同志とともに全国に発信したのでした。
松本酒造の趣のある木造の酒蔵
松本酒造の趣のある木造の酒蔵を横目に招德酒造に向かう
3軒目の招德酒造は手頃な広さでいい感じの人口密度
3軒目の招德酒造は手頃な広さでいい感じの人口密度
屋外の立ち飲みコーナーは賑やか
屋外の立ち飲みコーナーは賑やかで楽しそう。これが蔵開きの醍醐味だ
招德酒造で試飲できるお酒は12種類とこれまでのなかで最多です。

何にしようか迷いましたが、フランスのソムリエが審査するコンテスト「Kura Master 2024」で金賞を受賞した、「特別純米 花洛生酛」を燗でいただくことにしました。少し冷えてくると燗酒がうれしくなります。こちらは一杯300円とリーズナブルですが、ほどよい酸味のバランスがよく、おいしいおつまみが欲しくなるタイプでした。これは絶対にお買い得です。
試飲酒は12種類から選べる
試飲酒は12種類から選べる。Kura Master 2024の入賞酒をチョイス
「招德 特別純米 花洛生酛」(左から2つめ)は王道の味わい。柚子のにごり酒や甘酒もおいしい
「招德 特別純米 花洛生酛」(左から2つめ)は王道の味わい。柚子のにごり酒や甘酒もおいしい
「燗で」と頼むと開栓したての一本を酒燗器にセットして出してくれた
「燗で」と頼むと開栓したての一本を酒燗器にセットして出してくれた
少し黄色みがかかっているのが日本酒本来の色
少し黄色みがかかっているのが日本酒本来の色

伏見蔵開き④|エンタメが盛りだくさんのキンシ正宗

最後、4軒目はキンシ正宗です。キンシは漢字で書くと「金鵄」。日本書紀に登場する黄色のトビ(鷹の仲間)で神武天皇を助けて勝利に導いたとされています。

会場にはステージが設けられ、訪ねた時はちょうど曲芸師が皿回しを演じていました。幼稚園児くらいの男の子に棒を持たせて、勢いよく回した皿を移すことに成功すると大きな拍手と歓声が沸き起こりました。似顔絵や占いのコーナーもあり、4つの蔵の中でいちばんエンターテイメント色が強かったです。
現在の社名はキンシ正宗だが、門には金鵄正宗とある
現在の社名はキンシ正宗だが、門には金鵄正宗とある
試飲ブースでカメラを向けると肩を組んでポーズ
試飲ブースでカメラを向けると肩を組んでポーズ
試飲したのは「銀閣 荒武者 生原酒」。なんと一杯100円でプラカップに並々注いでくれました。だいぶいい気分でしたが、これで仕上がったという感じです。酔い過ぎないようにとゲットした「柿のごま味噌和え」が甘じょっぱくて美味。生ハムも柿に馴染んで、酒によく合いました。
「銀閣 荒武者 生原酒」は濃厚でアルコール度数はなんと21度
「銀閣 荒武者 生原酒」は濃厚でアルコール度数はなんと21度
酒蔵開き巡りで唯一食べた、「柿のごま味噌和え」に生ハムを乗せたおつまみ
酒蔵開き巡りで唯一食べた、「柿のごま味噌和え」に生ハムを乗せたおつまみ
会場をぶらぶらしていると占いコーナーで易者さんと目が合います。手招きされて「無料だから座って」と椅子を指します。「この紙に生年月日と名前を書いて」と言われるままに書くと、「何が聞きたい? 仕事か。う~ん、何か始めるなら年内。来年は動いたらあかん」と。続いて「手を見せて」と私の右手をとり、「ここがMになっとるやろ」とボールペンで手相をなぞり、「そしたら左手を見せて」とこちらもボールペンで線を書いて説明してくれました。要約するとどうやら私は全体的に運がいいそうで、来年はいろいろうまくいって、強気になって新しいことをやりたくなるけれど、じっと我慢することだけ注意すればいいそうです。最後に易者さんは「また、来年来なさい。ただで見てあげるから」と笑顔をくださり、楽しい酒蔵開き巡りとなりました。

※記事の情報は2024年11月7日時点のものです。

  

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