酒蔵見学におすすめ! 奈良県の梅乃宿酒造に行ってきました

見学できる酒蔵は全国各地にありますが、日本酒造りの各工程を「見せる」工夫を凝らしているところは稀です。その点において今回ご紹介する奈良県の梅乃宿酒造は出色です。「酒造りを知ってほしい」という想いが溢れる酒蔵見学をレポートします。

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酒蔵の梅酒のパイオニア

梅乃宿酒造の創業は約130年前です。ずっと奈良県の葛城の地で日本酒「梅乃宿」を醸してきましたが、読者の中には「あらごし梅酒」の蔵元として記憶している方もいらっしゃるかもしれません。

瓶に詰められた既成の梅酒が店頭に並び始めたのは1980年代です。それ以前、梅酒は自家用に自分で焼酎に青梅を漬けて作るもので、買うものではありませんでした。商品化したのは梅酒作りに使う焼酎の製造をルーツとするメーカーたちでした。背景には核家族化が進み、共働き世帯も増えたことがあるといわれますが、漬ける手間をかけずに気軽に梅酒を楽しめるとあって、市場は着々と拡大していきます。

それが2000年ごろから様子が変わります。日本酒で漬けた梅酒や梅のジュースをミックスしたもの、さらに果肉ピューレの入ったものが登場し、一気にバラエティが豊かになりました。パッケージデザインには花鳥風月があしらわれ、ピンクやイエローのカラフルなラベルが並ぶようになって、売場は華やぎます。それまでの梅酒の2倍もする高級品が登場し、大規模な梅酒のコンテストが開催されると、プレミアムな梅酒は一大ブームとなりました。

こうした市場の変化にいち早く対応した酒蔵のひとつが梅乃宿酒造でした。2002年に初めて発売した「梅乃宿の梅酒」は人気商品となり、2007年に本格的に発売した日本酒ベースで梅の果肉のピューレがたっぷり入った「あらごし梅酒」は大ヒットし、同社の看板商品になります。
「あらごし」シリーズワンショット飲み切りのポーションタイプ
「あらごし」シリーズは梅から柚子、桃、レモンなどバリエーションを増やし、最近発売したワンショット飲み切りのポーションタイプが好評

山の麓の新工場

梅酒をはじめとするリキュールの製造で業容を拡大した梅乃宿酒造は、手狭になり作業導線が複雑化していた工場の刷新を図ります。新たな土地を確保して2022年に新工場を建設。製造、営業、業務、管理、直営店などすべての部門が一か所に集まり、一般の方も含めてビジターを受け入れる体制を整えました。そして翌2023年には創業130周年を迎えます。

新工場は近鉄新庄駅から2km、歩くと30分ほどです。道はほぼ平坦で、葛城の歴史を感じさせる街並みを眺めながら楽しく歩けました。10分くらい進んだところで、いい感じの神社を見つけてお参りし、蔵までもうすぐかなと思うようになったところで見渡すと、ぐるりと山が囲っていて、ああ、ここは盆地なのだとわかります。

最後に緩い坂道を5分も歩くと蔵に到着、新工場は山の麓にありました。
梅乃宿酒造の新工場
梅乃宿酒造の新工場。左側の三角の黒い屋根が酒造工場、右側は本社屋
「梅乃宿」の看板
本社の受付カウンターには代々伝わる「梅乃宿」の看板がかかる
5代目蔵元の吉田佳代さん(中央)
梅乃宿酒造は2022年の世界酒蔵ランキングで669の酒蔵の中で、TOP30にランクインし「3つ星」の格付けを獲得。日本酒造りでも屈指の実力派だ。5代目蔵元の吉田佳代さん(中央)

蔵見学のスタートは直営ショップ

酒蔵の見学は予約制で10時30分からと14時30分からの2回、新工場の敷地内の直営店の営業日に開催されています。所要時間は試飲も含めて45分ほど。参加費1,000円で梅乃宿の5種類のお酒の試飲とハンドタオルのお土産付きです。

スタート地点となる直営店内は明るく広々として、梅乃宿酒造のシンボルである梅の古木をモチーフにしたオブジェが壁から天井に伸びていました。日本酒やリキュールなど梅乃宿の主要な商品が購入できるほか、ここでしか飲めないオリジナルのドリンクもあります。日本酒造りの見学だけでなく併設するワークショップルームでは、梅酒&梅シロップづくり体験もできます。
直営ショップ
直営ショップは10時~18時の営業。不定休(公式サイトで確認)
梅の古木モチーフにしたオブジェ
梅乃宿の由来は創業の地の酒蔵にある樹齢300年を超える梅の古木。ショップにはこれをモチーフにしたオブジェがある
人気のガチャガチャ
人気のガチャガチャ。梅乃宿の前掛けなどオリジナルグッズが当たる

おしゃれでシャープな酒蔵見学

いよいよ蔵見学のスタートです。

ショップを抜け梅の木のオブジェが伸びる通路を進むと、製造工程をガラス越しに見られるようにした見学用通路が現れます。
見学エントランスにも梅の木のオブジェが伸びる
見学エントランスにも梅の木のオブジェが伸びる
見学は作業工程順に、米を洗い浸漬して水を吸わせる工程から始まり、米を蒸す工程、米麹を造り発酵を管理する工程、そして発酵醪を液体と酒粕に分ける搾りの工程へと進みます。ユニークなのは作業の様子を見るウインドウと対にして、壁面でポイントを解説する展示でした。写真で順に見て行きましょう。
工場見学ルート
工場見学ルート。ウィンドウと対になる壁面でポイントを解説
最初の米を洗い、水を吸わせる工程では米に目を向けさせる展示
最初の米を洗い、水を吸わせる工程では米に目を向けさせる展示
一升瓶(1.8L)の純米酒(精米歩合60%)を造るには1.3kgの米が必要で、それは田んぼの1坪分に相当します。
米を蒸す工程の見学
米を蒸す工程の見学。どの工程も衛生管理が徹底されていて床はピカピカだ
発酵工程の解説
発酵工程の解説
一般の人が、日本酒の工程を勉強する際、最初に迷子になるのが「麹」と「酵母」です。米のでんぷんを糖分に変える微生物が「麹」。麹が作った糖を食べてアルコールを出すのが「酵母」です。発酵工程の解説はこの2つに的を絞っています。
搾りの比較
搾りの比較
発酵中の日本酒の醪はおかゆのようにドロドロ。これを濾して酒粕と酒に分けるのが搾りの工程です。

ここでの解説は、効率よく搾れる「ヤブタ式圧搾機」、醪を入れた酒袋を積み重ねて上から圧力をかける「槽搾り(ふねしぼり)」、酒袋に醪を入れて吊るし自重で滴り落ちる酒をとる「袋吊り」の3つの比較。同じ量の醪から得られる日本酒の量を比較して見せる展示でした。

ここまで見てくると早く日本酒を試飲したくなりますが、さらに奥にはVIP専用のテイスティングルームがありました。国内外の大切なお客様をもてなすスペースで、葛城盆地を見渡せて、遠くには酒造りの神様、大神神社のご神体である三輪山が見えます。
見学コースの一番奥にあるVIPルーム
見学コースの一番奥にあるVIPルーム。蔵の中で一番眺望のいい部屋だ
梅乃宿酒造まで大阪の中心部から約1時間です。ぜひ、本格的に酒造りシーズンとなる冬場に見学してみてください。

【梅乃宿酒造】公式HP
【梅乃宿酒造の酒蔵見学】

※記事の情報は2024年11月21日時点のものです。

  

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