酒米の出来を競う「最高を超える山田錦プロジェクト」、優勝は栃木県の早乙女農場!

「獺祭」を製造する旭酒造(山口県岩国市)が主催する、酒米の最高峰といわれる山田錦のコンテスト「最高を超える山田錦プロジェクト」。6回目を迎える今年は、栃木県大田原市の早乙女農場が優勝、賞金の3000万円を獲得しました。表彰式の模様をレポートします!

メインビジュアル:酒米の出来を競う「最高を超える山田錦プロジェクト」、優勝は栃木県の早乙女農場!

今回は栃木県勢が上位を独占

旭酒造は1月12日に帝国ホテル(東京都千代田区)で表彰式を開催しました。このコンテストは2019年にスタートして今回で6回目です。セレモニーでは最初に前年の優勝者、ウィング甘木(福岡)から優勝旗が返還され、パネルディスカッション「夢と希望を持てる農業」を挟んで、今年の準優勝と優勝が発表されました。

今回、158件の応募の中からトップに輝いたのは早乙女農場(大田原市)で、優勝賞金3000万円(50万円×30俵)を獲得しました。

同社の早乙女文哉さんはインタビューで、山田錦の栽培に力を注ぐ仲間や支えてくれる家族への感謝を述べるとともに、「優勝して3000万円獲ったらどうする?と一緒に米を作る娘と言い合って笑いながら、いつか1位を取ろうと取り組んできた。大田原ではたくさんの農家が山田錦づくりに本気で取り組んでいる」と話しました。栃木県からの優勝は第1回の坂内義信さんに続いて2人目です。今回は準優勝も栃木県の佐藤友幸さん(那須塩原市)で、山田錦は兵庫や岡山など西日本が主産地ですが、北関東の栃木は優良産地として頭角を現してきたようです。
旭酒造の桜井一宏社長
開会を宣言する旭酒造の桜井一宏社長。「『優勝すると近隣の農家が本気になる』という話をよく聞く。切磋琢磨して高品質な山田錦を栽培していただきたい」と述べた
右から漫画家の弘兼憲史さん(特別審査員)、準優勝の佐藤友幸さん、優勝した早乙女文哉さん、旭酒造の桜井博志会長、桜井一宏社長
右から漫画家の弘兼憲史さん(特別審査員)、準優勝の佐藤友幸さん、優勝した早乙女文哉さん、旭酒造の桜井博志会長、桜井一宏社長

審査基準は「心白は粒の中央に小さく」

審査会は昨年12月に旭酒造の本社から6km離れた同社の精米工場で行われました。審査員は山田錦の主産地である兵庫県と岡山県の専門家と酒造用精米のプロたちです。最初に昨年の優勝米と準優勝米を見たり、虫食いなどで傷んだ米や未熟な米を見たりして、審査員の意識を合わせて審査を始めます。

審査は穀粒判別器による分析データ(ランダムに選んだ1000粒の内、健全な粒や心白*1の有無などの割合)を参考に目視で評価します。初日にエントリーした158件の山田錦は、数回の選考を経て、最終審査に進む7件に絞ります。翌日の決勝審査では7件の米100粒をモニターに大きく映し出し、より細部を見て順位を確定させました。

今回の旭酒造の山田錦の審査基準は次の3つです。
玄米の心白が中心に小さくあること
② 発芽粒*2等の被害粒や玄米が白く濁る未熟粒*3が少ないこと
③ 胴割粒*4が少ないこと
*1 心白は玄米の中心部分にある白色の不透明な部分
*2 発芽粒は発根または発芽している粒のこと
*3 未熟粒は早く稲刈りしたり気温が高すぎたりすることで成熟が進まなかった粒
*4 胴割粒は粒表面に横一条の亀裂が入っているもの


日本酒に詳しい方はこの基準を見て「おやっ?」と思ったかもしれません。従来、良質な山田錦は「大粒で心白が大きく中心にあること」と言われていました。旭酒造の審査基準の①「心白が小さく」はこれと正反対です。

実はこのコンテストもスタートしたときは「心白が大きいこと」を良しとしていました。しかし、回を重ねるうちに、大きな心白は高精白(米の外側を極限まで削っていく精米方法)すると割れてしまうという事実に向き合います。きれいな味わいを求める「獺祭」に高精白は欠かせませんが、心白が大きいと高精白できないという矛盾です。旭酒造が出した答えは「高精白に耐えるよう心白は小さいほうがいい」でした。4回目となった2022年に審査基準を変更し、生産農家は米作りを一から見直すことになりました。
山田錦の精米見本
山田錦の精米見本。左が玄米で中央が精米歩合45%(米の外側55%を削ったもの)、右が23%精白
左が粒の揃った健全な山田錦。右は未熟粒や胴割粒など被害粒の混じったもの
左が粒の揃った健全な山田錦。右は未熟粒や胴割粒など被害粒の混じったもの

日本の農家の生産性向上を狙う

旭酒造が山田錦のコンテストを始めたのは、米の栽培農家の高品質な米作りのモチベーションを高めるためです。酒の質をさらに高めるには原料の山田錦の品質の向上が欠かせません。それには目指すべき品質を示し、生産農家に品質の向上に熱心に取り組んでもらわなければなりません。しかし、日本の農業は低所得で後継者不足で高齢化が進んでおり、品質向上の意欲は決して高いものではありません。

コンテストを発案した桜井博志会長は「初セリでマグロが高価で落札されるのを見て、良質な山田錦を作れば高値で買ってもらえるようにしたら、栽培農家は目に色を変えて品質向上に取り組むのではないか」と考えたと言っていますが、その狙いは的中したようです。

今回、優勝した早乙女さんは初回からエントリーしているそうですが、最初は9位で賞金を手にできませんでした(8位まで通常よりも高値で出品した米を買い取り)。その悔しさをばねに創意工夫を重ね、志を同じくする山田錦栽培農家とノウハウを交換しながら優勝にたどり着きました。優勝スピーチでは「一緒に米を作る娘と『3000万円獲ったらハワイ旅行に行く?』『また新しいコンバイン買うって言ったらお母さんが怒るよね』と笑い合って楽しく仕事をしている」とおっしゃっていましたが、賞金の使い道に設備投資が入っています。ポジティブに仕事に向かう姿勢であり、会社の成長を見据える経営者の意欲の現れです。

表彰式では「夢と希望を持てる農業」をテーマにパネルディスカッションが行われました。漫画家の弘兼憲史さんの進行で、中田宏環境副大臣や桜井博志旭酒造会長らが日本の農業の問題点と活性化に必要な施作を縦横に議論したのですが、桜井博志会長は、作物を換金するための農業になっていることを危惧してきたと述べ、仕事はおもしろがって続けることが重要で、難しいことをワクワクしながら続けていけば所得は上がるものだと実感してもらうためにこのコンテストを続けていくと結びました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、オランダの農業の生産性の高さや意欲ある者とそうでない者を前提とした制度づくりなど熱い議論が交わされた
「仕事はワクワクしながら進めるもの。そうすればお金は付いてくる」と桜井博志会長
「仕事はワクワクしながら進めるもの。そうすればお金は付いてくる」と桜井博志会長

『獺祭 未来へ ― 農家とともに』の発売

山田錦コンテストから生まれたわけではありませんが、『獺祭 未来へ ― 農家とともに』は山田錦の生産農家とともに発展することを狙った商品です。

山田錦の栽培では品質検査で「等外」となる米が1~2割出ます。収穫した米をふるいにかけ、基準を満たさないものが「等外」とされますが、日本酒の表示ルールでは等外米を使うと「純米大吟醸」や「純米酒」などの表示が認められません。そのため酒蔵と農家の契約栽培では等外米を購入しないことがほとんどです。

しかし、必ず発生してしまう等外米で高品質な酒を造り、高価格で取引してもらえるようにしたら、等外米を含めてすべて買い取ることができます。そしてそれは農家の所得向上に直結します。

この商品は等外米を8%まで高精白したもので18,700円(720ml)と高価です。収穫された山田錦をすべて使い切るという旭酒造の農家への思いが結実した商品です。
『獺祭 未来へ ー 農家とともに』
『獺祭 未来へ ー 農家とともに』は「獺祭」は常に農家とともにあるという宣言だ
※記事の情報は2025年1月23日時点のものです。

  

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